「ごめんなぁ!てっきり魚と一緒かと思って水の中に入れちゃったよ…汗」
ミニイカ娘は水をたくさん飲んでしまったのか、その腹はスーパーボールのように膨れ、顔は青白く、目は虚ろだ。
「やべぇ、死んじゃったかな…?あ、でも息はしているみたいだ…よかった…」
青年は左手でミニイカ娘を掴んで固定すると、右手の親指で腹をグッグっと押す、するとミニイカ娘の口から大量の水が湧水のようにゴボボボと出てきた。
ミニイカ娘の腹がへっこみ、元の状態に戻るとうっすら目が開き、「ギャソォ…ギャソォ…」と力ない声で泣き出した。
「おぉ、良かった。臓器とかでて来たらどうしようかと思ったけど水だけ抜けたみたいだ、意外と単純な体なんだな」
「ちょっとまってろよー、すぐ終わらせるから」
と、青年は桶の水を捨てて、空になった容器にミニイカ娘を置くとササっと髪と体を洗い風呂に浸かる。
そこで改め、スマホでミニイカ娘の飼育方法を見ていると様々なことが分かってきた。
~ミニイカ娘ちゃんを飼ってみよう!~
ミニイカちゃんはとてもかわいいです!
その表情、感情、行動は人間のそれと同じで、まるで人間のミニチュアかと思うような生物です!
まずはミニイカちゃんの巣を用意してあげましょう!
〇ミニイカちゃんはとても繊細な生き物です。自由に動きまわれるように水槽は虫かごサイズではなく、Lサイズの少し大きめの水槽を用意してください。40cmのサイズであれば問題ないでしょう。
〇水飲み用のお皿
カブトムシなどに与えるゼリーの形ぐらいのお皿でOKです。
〇おトイレ、スミ吐き場
ミニイカ娘は人間のように排泄行為をします。
古くなったスミは定期的に吐き出し、新しいスミを体内で生産します。
まずは水槽の中に吸水性のよい砂を入れてあげましょう。ペットショップにミニイカ娘用の砂が売っていますので、それで大丈夫です。注意点は水槽の中にそのまま入れるのではなく、砂が飛び散らないように小さなかごタイプの物を入れてください。こちらもミニイカ娘用のトイレがありますので、こちらで。
〇ご飯入れ用のお皿
こちらはエビや、通常給餌のペレット等が入れば何でも大丈夫です。
〇寝床
こちらもミニイカ娘用の布団やベッドセットがありますので用意の方をお願いします。
〇オモチャなど
ミニイカ娘は好奇心旺盛で色々な物に興味を示します。オモチャを用意してあげればとても喜ぶでしょう。
〇水槽内の環境
ミニイカ娘は浜辺で暮らす生き物です。水槽内の床には砂をひき、浜辺のような環境を再現してあげる事でストレスなく暮らしていけるでしょう。特に野良のミニイカ娘を飼う場合はなるべくその場所を再現してあげると良いです。
出来ない場合は何も置かなくて大丈夫ですが、ストレス等がたまる環境だと元気が無くなったり、ワガママになったり、更には凶暴な性格に変化してしまう場合がありますのでご注意を。
全てを揃えるとお金がたくさんかかります。
弊社では全ての物が揃った「ミニイカ娘飼育スターターキット」を1万円で販売中です。
ご注文は下記のリンクから。
「なるほど……ペットショップここから遠いしなぁ…」
青年は迷わずその商品を購入したのだった。
風呂が終わり、ミニイカ娘を某通販サイトの空きダンボールにいれる。そこにミニイカ娘を置いて様子を見守る。するとムクリと立ち上がり辺りをキョロキョロと見回している。
「お!元気になった!よかったよかった。結構頑丈な体なんだなぁ~、あ、そういえばこいつ、拾った時に海藻みたいなゴミ持ってたな…一応入れておくか」と、青年はミニイカ娘が持っていたゴミをダンボールの中にそっといれた。
「ゲソ!アワワワ…ピョ?ゲソォォ!」
ミニイカ娘は突然視界に入った人間の手を見ると腰をペタンとして恐怖の表情を浮かべ後ずさりするが、自分の持っていた海藻を置かれるとパァァ!と笑顔になり、人間の方を見てゲショ、とお辞儀をすると海藻をモグモグと食べだしたのだった。
今日は雲ひとつ無い青空。
まだ5月というのに、まるで真夏のように日差しが強い。
本日は晴天なり。
「ゲッショ…ゲッショ…ゲッショ…」
1匹のミニイカ娘が両手に海藻を持って暑い砂浜の上を走っている。
「ゲジョォォオ!暑すぎでゲショ!このままこんな暑い砂浜の上を走り続けていたら大火傷しちゃうでゲショ」
あたちの名前はミニイカ娘でゲショ。
この砂浜で暮らし始めて何年でゲショか…。
ここからそう遠くない岩場の影にある砂とイカ墨で塗り固められた、ミニイカ集落であたち達は暮らしていたのでゲショ。
そこの集落では、約100匹位のミニイカ娘が暮らしていたんでゲショが、最近の暑さでもっと涼しい場所にお引っ越しをすることになったんでゲショ。
海辺で暮らす野良ミニイカ娘達にとって、引越しは命がけである。
砂浜には人間はもちろんだが、カニや他の虫達、空には腹を空かせた鳥達が常にエサがないかと目を光らせている。
ミニイカ娘達は同じ場所にずっとねぐらを構えているワケではなく、その場の状況次第でより住みやすい場所を探して引越しをするのだ。
今日の朝、お引越しをしていたんでゲショが、途中休憩であたちが岩陰にウンチをしに行ってる時にカラスの大群が来たんでゲショ……
――30分程前――
100匹はいるだろうか。
荷物を抱えたミニイカ娘達が綺麗に1列になって歩いていた。
「ふぅ~。だいぶ歩いたんじゃなイカ?皆の衆ここいらでちょいと休憩するでげしょ。」
「リーダー。
もうあたちは疲れて動けないでゲショよ…」
リーダーと呼ばれた1番先頭を歩いている他のミニイカ娘より一回り大きなミニイカ娘が一際大声で話す。その体つきは屈強で顔には至る所に傷が有り、歴戦の強者のような風格をうかがわせる。
「疲れたでゲショ。」
「お腹すいたでゲショ…」
「ゲショお……」
「もう動けないでゲショ……」
弱音を吐き出すミニイカ娘達。
実際にはまだ100m程しか移動してないのだが、ミニイカ娘達にとっては遠い距離なのだろう。
地面に倒れ込んでいる者や、肩で息をしている個体が多く目立つ。
そこに1羽のカラスが飛んできた。
「カー、あんな所にエサが沢山いるカー。仲間たちに知らせるカー」
するとバサッ!バサッ!とたちまち多くのカラスが集まって来て、ミニイカ娘達の周りを囲んだのだ。
「皆の衆!大変でゲソ!カラスの大群が押し寄せてきたでゲショ!!」
「ギャァァ!殺されるでゲショ!逃げるでゲショ!!」
「アワワワ…!」
慌てふためくミニイカ軍団。
腰が抜けてその場から動けなくなる者や、失禁脱糞してギャアギャア泣きわめくだけの者、四方八方にバラバラに逃げ回るミニイカ娘がいたりして大混乱だw
「皆の衆!!あそこの岩場に隠れるでゲショ!!走るでゲショ!」
「リーダー、無理でゲショ!みんな疲れて動けないでゲショよ!!ギャアアァ!!」
と、喋っていたミニイカ娘をカラスがパクっ!と咥えて空に飛んで行ってしまった。
「ぐぅ、まずいでゲショ、とりあえず穴を掘って隠れるでゲショよ!!」
リーダーが大声で他のミニイカ娘達に指示をする。
しかし、あちらこちらでミニイカ娘達がカラスに襲われてパニックに陥っており、走る所では無い。
もはや収拾不可能である。
「グゥ!子供たちだけでも助けたいでゲショが…!」
カラスに啄まれて青い血がドロドロ流れているリーダーミニイカ娘。これはもう助からなさそうだ。
「穴を掘ってこの子達だけでも助けるでゲショ!」
両手に子ミニイカを20匹程抱えてリーダーミニイカ娘が砂浜に穴を掘る。
そこに他のミニイカ娘が助けを求めてリーダーミニイカの服やら足やらを引っ張り始めたのだ。
「リーダー!助けて欲しいでゲジョォォオ!!血がダラダラ垂れてイタイイタイでゲジョ!死にそうでゲジョォォ!!」
「オマエ何自分だけ被害者ヅラカマしてるんでゲショか!あたちの方が重症でげしょ!どかなイカ!!」
リーダーを掴んだミニイカ娘達が自分を助けろと言わんばかりにお互いケンカをはじめてしまったのだ。
自分だけ助かろうという薄汚いミニイカ娘達、哀れである。
「お前たち、何をやってるでゲショ!あたちらはもう助からんでゲショ!子供達を砂の中に隠すでゲショ!そんなに群がったら穴が掘れないでゲショよ!!離れるでゲショ!!」
仲間達を諭すリーダーが喋ったその瞬間!
ブチっ!!
「ガ…ギョ!!」
大きなカラスがリーダーミニイカ娘の首を噛みちぎったのだ!!
「リーダー!!???」
「ギャァァァァア!!」
「オゴ、ガギギギギギ!」
リーダーがカラスに襲われると次々とミニイカ娘達はカラスに食い荒らされてしまった。
「ミュイ…キャソォ…?ギョ!」
リーダーの足元に落ちた子ミニイカ達はカラスの群れに踏み潰された。
「カーカー、こいつ硬くて不味いカー、ペッ!!」
リーダーミニイカ娘はその屈強な体から硬く、まずかったのか、カラスはリーダーミニイカ娘の首をペッ!と吐き出した。
リーダーの首が無くなった胴体に無惨な首がグショリと落ちる。
しばらくすると、ミニイカ娘達を食い荒らしたカラス達は満足したのか帰って行った。
静まり返る惨劇場を岩陰で用を足していたミニイカ娘が覗き込んでいる。
「なんか騒がしいと思って見てたらヤバいことになっていたでげしょ…だからあたちは夜移動した方がいいんじゃなイカ?って言ったのに…」
このミニイカ娘は仲間達が襲われている現場をただただ震えながら見ているしかなかったようだ。
「ヤツらが戻ってきたら大変でゲショ。とはいえ目的地もまだ先でゲショし…危険でゲショが、あっちのニンゲンのクルマが走ってる方を渡って草むらの中に隠れるでゲショ。」
ミニイカ娘はアワワワとなる声を押し殺して、死ぬ気で持ってた食料の海藻を握りしめながら人間の領域に足を踏み入れた。
「ゲッショ、ゲッショ、ゲッショ…!」
道路に着くと車がビュンビュンと往来していた。
今日は日曜日で出かける人や観光客の車が行き交う時間なのか、車の往来が激しい。
「ひい~こんな所渡れないでげじょ!!渡った瞬間ペチャンコになるでゲソ!」
と、思った以上に危険なその場を見てしまったミニイカ娘。ガクっと膝から落ちる。
「エーンエーンエーン!!もう終わりでゲショ!あたちはここで飢え死にするんでゲショ!!ウワアアン!!」
泣き崩れるミニイカ娘。
もはや泣くことしか出来ない。
どれぐらいの時間が経過しただろう。
そこにハッハッっとジョギング中の青年が通りかかった。
「ん?誰かいるのか?変な泣き声が聞こえるぞ…」
おそるおそる声のする方に行くと、岩陰で泣き崩れたのか、目元を真っ赤に染めて気絶しているミニイカ娘を発見したのである。
「これはもしかしてミニイカ娘か?なんでこんな所に一人でいるんだろう」
プニ、プニ、とミニイカ娘の頬を指で突くがう~ん、う~ん、と唸るだけで反応がない。
「群れからはぐれた?迷子か?」
考える青年。
「昼寝をするにしてもこんな暑い日だしなぁ、それになんか苦しそうな顔してるぞ」
目の前のミニイカ娘はほおっておくとそのまま干からびて死にそうな気がしたので、ヒョイっとその体を掴むと、身に付けていたポーチにミニイカ娘をそっと入れた。
「とりあえずウチで保護してやるか。飼い方よくわかんないけど」
青年は自宅に向かい、足早に走り出したのだった。
ミニイカ娘の引っ越しは命がけである。
常に危険と隣り合わせなのだ。