ミニイカ娘…少しばかり昔に一世を風靡したイカと女の子が合体したような可愛らしい人気ペットである。(詳しくは分からないがイカの仲間として分類されている)
イカと女の子が合体したような生物など普通に考えればとても奇妙なものだが、白いワンピースとイカの頭を模したとんがり帽子、青い二つの腕輪でその身を生まれたときから
着飾った五センチほどの小さな生物は、人間の子供のような純粋無垢で豊かな表情と愛くるしい姿から爆発的な人気となり、可愛い物好きの若者やペットマニアだけでなく、
子供達が自立したばかりの熟年夫婦や寂しく暮らす老人達等幅広い層に飼われ、世に広まった。
僕も可愛いと思ったが、飼いたいと思っても飼いはしなかった。
僕の母は山里出身の古風で異端な流行を嫌う性格であり、ミニイカ娘を見ても「はぁ?これが可愛い?イカなのに泳げないとかおかしいだろ!あたしゃこういう訳の
分からんもんが嫌いなの!あんだも知ってるべや~!」と田舎口調混じりの台詞で語っていたから、母の賛成が得られなかった。(なぜかミニイカ娘は泳げないらしい)
父も「触手が嫌だな…それに150年も生きるんだろ?俺達が死んだ先まで責任取れるか自信ないぞ。」と消極的に言っていた。(なんであんな小さなものが強靭的な長寿なんだろう?)
弟も「イカ飼うとかおかしいべや~!」と今風の若者の格好をしながら母譲りの田舎喋りで素直に意見を述べていた。(関係ないが僕ら兄弟はたまに田舎弁を喋る癖がある)
祖母も「家にはもうワンコがいるでしょ。」と反対口調だった。
まぁ、愛犬の七歳になるウェルッシュ・コーギーも居たし、家族が反対するのに無理に飼うこともない、自分で飼って世話するくらいならそのお金は趣味につぎ込んだ方がいいと考えて諦めた。
それにもう酒の飲める年齢になった歳で我侭言うのは恥ずかしいし、大学や来年からの就職活動もあり、それに好きな演劇も続けたかったのでこれ以上手間を増やすことも無い。
後に、僕はミニイカ娘の衝動買いを抑えたことを素晴らしい英断だと傲慢ながら断言するようになる。
それは三年後、僕は近場の会社に就職し、それなりに充実した生活を送っていた。
僕は休みの日に家でソファに寝転がり、十歳になる愛犬と共にタオルケットをはおって眠っていた。
愛犬は老犬になっても元気で散歩やボール遊びの時は若い時よりは衰えたものの十分な運動能力を保った良い犬になっていた。(大柄で運動が下手な僕は愛犬より足が遅いことを気にしていた)
母と父は仕事、弟は友達と遊びに、祖母は買い物に行っていたため、僕と愛犬は共に眠りながらもうすぐ帰ってくるであろう祖母を待っていた。
やがて祖母の自転車の音が聞こえ始め、僕と愛犬はうっすらと目を開ける。
すると突然祖母の悲鳴と自転車が倒れる音が聞こえ、僕と愛犬の眠気は吹き飛び、僕は慌てて外に駆け出して言った。
「おばあちゃん!」
僕は家の外に出ると、倒れたママチャリと道路の上で苦しそうにうずくまる祖母を見つけた。
僕は急いで祖母に駆け寄ると、安否を確かめる。
「ばあちゃん大丈夫?」
「ったたた…ひ、膝が…」
祖母は痛そうに答える。
祖母は僕が大学に入ったときから膝に痛みを抱えていた。
運悪く転んでそこをぶつけてしまったのだろう。
僕はその姿を見てとても悲しく思った。
今は祖母のおせっかいを疎ましく思うときも多いが、祖母は幼い頃、電力会社員の父、小学校の先生の母の忙しい両親の変わりに幼い僕と弟を育ててくれた恩人である。
どんなに日頃馬が合わなくなってきても、そんな祖母の姿を見て平気な訳など無いだろう。
ふと気付くと、祖母の自転車から落ちたスーパーと揚げ物屋の買い物袋の傍から「ゲソ♪ゲソ♪」「ゲッソ♪ゲッソ♪」「ゲッソ~♪」と、可愛らしい声が聞こえてきた。
袋の傍によって見ると、僕は衝撃の光景を目にした。
そこには、祖母が買ってきた甘えびと揚げ物屋のエビフライ、家族で晩酌するときに食べるおつまみの乾燥えび、冷凍食品のエビシュウマイのエビを食べ漁る二十数匹ほどの
ミニイカ娘達が幸せそうに口をもぐもぐさせながら食べていたのだ。
事情は知らないがたぶん祖母はいきなり飢えたこいつらに襲われ、転んでしまったのだろう
普通なら「可愛い」といってにやけるのが当然の反応なのだろうが、僕はただ呆然としてそれを見つめ。そして思っていた。
「(なんで嬉しそうなんだ?俺のばあちゃんは痛い膝をさらに怪我したのに…こんなもの食べたいがためにばあちゃんに怪我を…)」
許せなかった。
ただ、許せなかった。
動物好きな僕がはじめて愛くるしい動物に憎しみを抱いた瞬間だった。
そんな憎悪も気にせず、ミニイカ娘達は食餌を続けていた。
僕はそんなミニイカ娘達が入ったビニールを思い切り蹴飛ばすと、そいつらは「ふぃ!?ゲソ!?ゲソォ~~~~!!」と喚きながらどこかへと逃げていった。
それからとりあえず祖母を助けるため、携帯電話で救急車を呼んだ。
それから数時間後、病院で治療を受けた祖母は大事には至らずに済んだ。
愛犬の世話のために僕は祖母を仕事から急いで帰ってきた両親に任せ、弟と共に自宅に帰った。
家に帰ると愛犬は飛び上がって喜び、僕と弟はドッグフードを与えて撫でてやった。
愛犬の嬉しそうな笑顔が唯一の救いだった。
しかし愛犬の笑顔に癒されていると、突然弟が僕に聞いてきた。
「なぁお兄、なんでばあちゃん慣れた道で転んだりしたんだ?」
祖母はこの辺りの道を自転車で走ることには僕達以上に慣れている。
老いて膝が痛くても歩いたり自転車を安全に運転する分には支障は無いため、酷い転び方をするとは考えにくい。
僕は弟に祖母がミニイカ娘に襲われ、怪我をした時のことを話した。
この時から、僕と弟の「ウィンチェスター兄弟ごっこ」が幕を開けた…
ただし、使う道具は銃火器じゃなく、やっつけるのも悪霊や悪魔じゃないが…
(続く)
最強!?軍用ミニイカ娘
「ゲソゲソ♪ゲッソ♪」
「ゲッソー♪」
とある海岸のテトラポットの合間に作られた巣穴に、二十数匹ほどのミニイカ娘達がうごめいていた。
ミニイカ娘達は皆楽しそうな笑顔でぴょこぴょこと動き回り、共に遊んだり添い寝したりと、見ている人間が居たら持ち帰りたくなるような可愛らしい動作で行動する。
特にゲソゲソと歌いながらスキップしたり、小さな体を一杯使って共に遊んだり、無垢な笑顔で寝ていたりする姿などたまらないだろう。
そろそろ餌の時間が着たのか、皆一斉に起き上がったり遊ぶのを止めたりして、巣穴の外に仲良く餌を探しに行こうとする。
そのなかでも一回り小さな若いミニイカ娘が、先輩のミニイカ娘に付き従う姿は見ていてとても微笑ましい。
しかし、そんなミニイカ娘達の前に、一匹のこの巣穴の者ではないミニイカ娘が現れ、入り口を遮った。
「ゲソ~?」
『ゲショゲショ~?』
群れの先頭に居たミニイカ娘が首を傾げると同時に、他のミニイカ娘達も不思議に思って頭に疑問符を浮べる。
その群れの前を遮ったミニイカ娘は、どこか冷たそうな顔をしていて、首筋にはくっきりと何かの傷跡が残っていた。
とりあえずこのままでは餌を取りにいけないため、戦闘にいたミニイカ娘は目の前の傷ありミニイカ娘に話しかけた。
「ゲソゲソゲソ?ゲッソ!ゲッソ!う~~!(お前誰でゲソ?そこをどくでゲソ!食べ物をとりにいけないじゃなイカ!)」
ミニイカ娘は威嚇したが、傷ありミニイカ娘はその丸い瞳を微動だにさせず、何も喋られなかった。
「ゲッソ!ゲッソゲッソー!(おいお前!何とか言うでゲソ!)」
『ゲッソゲッソゲッソ!(そうだそうだ!早くどくでゲソ!)』
空腹で頭に血が上ったミニイカ娘達も先頭のミニイカ娘と一緒に抗議するが、それでも傷ありミニイカ娘は何も反応しない。
「ゲソゲソ~!ウゥ~!(いいかげんにするでゲソ!こうなったら力づくで…)」
先頭のミニイカ娘は傷ありミニイカ娘に掴みかかろうとするが、その瞬間傷ありミニイカ娘の右拳が鋭く突き出され、先頭のミニイカ娘の腹部にめり込んだ。
「グェ!ゲェジョォ…(ぐえ!…ゲソ…)」
先頭のミニイカ娘は後ろ向きに倒れると、イカ墨を泡のように吹き、目尻に涙を浮かべて絶命する。
その腹部はぼっこりと凹んで内臓が潰れており、何か食べていたならおぞましい嘔吐物を拭いていただろう。
そして先頭のミニイカ娘を絶命させた傷ありミニイカ娘の右拳には、ステンレスで特注に作ったメリケンサック状の武器が握られていた。
「ゲッ!ゲソゲソゲソ~!(仲間がやられたでゲソ~!)」
「ゲソゲソ!ゲッショォ~!(変な奴でゲソ!巣にもどるでゲソ~!)」
ミニイカ娘達はパニックに陥り、一斉に巣の奥へと戻り始める。
「ゲソゲソ…ゲソ…!(逃がさないでゲソ…ご主人の命令でゲソ…!)」
傷ありミニイカ娘は冷淡な表情のまま、さっとした凛々しい足裁きで走り、逃げたミニイカ娘を追った。
傷ありミニイカ娘は同じミニイカ娘とは思えないほど高い運動能力で、残ったミニイカ娘を攻めた。
その中の六匹のミニイカ娘は「(侵入者なんかやっつけてやるでゲソ!)」と、触手を伸ばし、歯を食いしばった怒り顔で攻撃したが、傷ありミニイカ娘は
一本一本の触手をかわし、攻撃してきた内の二匹の後ろに回ると両腕を使って強い力で首を絞めた。
「ゲッ…ゲジョゲジョ…(ぐ…苦しいでゲソ…息が出来ないでゲソ…)」
「ゲッ…ジョオ…(離してでゲソ…死にたくないでゲソ…)」
二匹は命乞いをしたが、傷ありミニイカ娘は冷めて喋り方で答える。
「ゲソ…ゲソゲソ…ゲソ!(お前らのこらず始末しろっていわれてるでゲソ…御免でゲソ!)」
そう言いながら、傷ありミニイカ娘はなんの躊躇いもみせずに二匹の首をへし折り、相手の命を絶った。
死んだ二匹は涙を頬に滴らせながら、泡を吹いて死んでいた。
「ゲショオーーーー!(うわあああん!酷いでゲソー!)」
「ゲショゲショ!ゲショオーーーーーー!(助けてでゲソ!裏切り者でゲソー!)」
抵抗を見せた残り五匹のミニイカ娘達も傷ありミニイカ娘の躊躇い無く同胞を殺める冷酷な姿を見ると、泣き出して一斉に逃げ出す。
しかし、傷ありミニイカ娘は触手の遠心力を使ったジャンプで逃げ出す者達の前に跳び、着地すると、後ろ髪の五本の触手を伸ばして五匹の首を絞めた。
「ゲジョ…ゲジョ…!(なんで…こんなことするでゲソ…)」
「ゲショ…ショ…(助…けて…ゲソ…)」
「ギェビ…ギェビィ…(エビ…エビ…)」
「ヒギィ…ヒギィ…(息…息…)」
「ッェグ…ッェ…グ…ゲジョ…(嫌…嫌でゲ…ソ…)」
五匹の首から生々しい音が鳴り、傷ありミニイカ娘はゴミのように同胞の亡骸を捨てた。
そして、腰を抜かして動けない最後の一匹にじりじりと迫る。
「ピィ!ピ、ピィピィ!ピィ~!ピィ!(もう降参するでゲソ!同じ同胞じゃなイカ!こんなのおかしいでゲソ!)」
「ゲソ?ケッ!(同胞…ハッ!)」
号泣し、目をうるうるさせながら命乞いをするミニイカ娘の言葉を聞くと、初めて表情を悪辣に歪ませ、まるで耳障りな台詞を聞いたように唾を吐いた。
「ゲソ…ゲソゲソ!ゲソゲソゲソゲソ!…ゲソ…!(ただ寝て、ただ食べて、無駄に増える余分な奴らなんて私の同胞じゃないでゲソ!死ねでゲソ…!)」
「ピ…ピイィィィィイーーーーーーーー!!(ヒ…ヒイィィィィィィィィイ!)」
洞窟内に悲痛な叫びが響き、何度もミニイカ娘の柔らかい肌を殴打する音が気色悪く唄った…
それから巣穴の奥にいるミニイカ娘達の悲鳴と泣き声も、暗い穴の奥で木霊し、テトラポットの巣内は黒い液体で染められていった…
…
それから数時間すると、傷ありミニイカ娘は巣穴の外に用意していたゴミ袋に巣内にいた全てのミニイカ娘の死骸を詰め、海岸の砂の上を引きずって運んでいた。
「ウ~ン!ウ~ン!」
傷ありミニイカ娘は先ほどの冷酷さがウソのような可愛らしい一生懸命な表情で、死骸袋を引っ張っていた。
袋の中には涙を流しながら瞳孔が開き、窒息死したミニイカ娘、間接をぐしょぐしょにされて死んだミニイカ娘、体を一部引きちぎられた者すらいた。
このような残酷なことを一匹のミニイカ娘が行ったなど、ミニイカ娘保護団体や溺愛者でなくても信じられないと絶句するだろう。
しかし、実際この傷ありミニイカ娘はたった一人でこの同属殺戮を行ったのである。まるで殺しの訓練をつんだ兵隊のようである。
すると、「ゲソゲソ♪」と可愛らしい声がいくつか傷ありミニイカ娘の耳に届いた。
そこには、四匹のミニイカ娘達の姿があった。
「ゲソ!ゲッソ~♪」
傷ありミニイカ娘は頬を染めながら、可愛らしい笑顔でその四匹に手を振り、四匹は傷ありミニイカ娘の周りに集まって陽気に微笑んだ。
見ると、このミニイカ娘達も顔や手足に大きな傷痕があったり、左目に傷が入って右目しかない隻眼のミニイカ娘までいる。
皆、傷ありのミニイカ娘なのだ。
「ゲソゲソゲソ♪(やったんでゲソね!)」
「エッヘン!ゲソゲソ♪(エッヘン!ちょろいもんでゲソ!)」
「ゲソゲソ!ゲソゲソッ!(劣等な奴らの癖に巣穴を作って群がるなんて、いい気になるなでゲソ!)」
「ゲソゲソ。ケッソゲッソ。(まぁまぁ、馬鹿な奴らばっかりで助かるでゲソ)」
「ゲッソ♪ゲッソ♪ゲソ~♪(これでエビがもらえるでゲソ!嬉しいでゲソ!踊るゲソ~♪)」
四匹の傷ありミニイカ娘達は、仲間が同胞を虐殺したというのに、まるで仕事を終えたサラリーマンやOLのように楽しそうに振舞う。
そんな中、一人の黒いコートを纏った体躯の良い男が五匹の元に歩み寄ってきた。
「どうやら、仕事が片付いたみたいだな。」
『ゲショ?ゲソゲソッ!ゲソ!』
五匹は男に気付くと、兵隊のように整列して敬礼した。
男は砂浜に膝を着くと、一匹一匹を優しくなでた。
『エヘヘ~♪ゲッショゲッショ~♪』
傷ありミニイカ娘達は顔を緩ませて、男になついた。
この男は日本人によく似た顔立ちだったが、外国生まれの日系人であり、母国の軍隊に所属する人間であった。
この傷ありイカ娘は男のペットであり、訓練を受けた精鋭たちなのである。
詳しい事態は少し前に遡る。
男が所属する軍隊は、日本で異常繁殖を続けるミニイカ娘の存在に注目していた。
五センチという隠密に非常に適した人型の体躯、両手足のほか、精密な動作の可能な十本の触手…
しかも繁殖力が非常に高いため、ロボットのような機械と違って膨大なコストのかからない軍用動物にこれ以上適した生物はミニイカ娘以外居ないと判断されたのである。
男はその「ミニイカ娘軍用化プロジェクト」の責任者で、日本でミニイカ娘を250匹捕らえ、専用訓練を受けさせたのである。
まず行われたのは、ミニイカ娘を支配下に置くことであった。
ミニイカ娘は神経質で臆病、しかも使っているのは全て野生のミニイカ娘だったため、人にすぐなつくということはしなかった。
好物のエビで手懐けても、いざ厳しい運動をさせようとしたら、驚いて泣き喚き、逃げるもの、専用の巨大プールの底にぺたりと座り込んで泣き続けるものと、とにかく泣いてばかりだった。
男はその時仕方なく、恐怖で縛り付けることを決めると、鞭を使って泣いているミニイカ娘を捕らえ、その固体を打った。
それを見たほかの個体は震え上がり、打たれた固体はさらに大きな声で泣くと、男は再び泣き続ける固体を再び鞭で打った。
それを何度か繰り返し、その固体が絶命して泣き止むと、また別の固体を捉え、再び鞭打ちを開始した。
こうして25匹の固体が鞭打ちで絶命する頃には、残りのミニイカ娘は恐怖で縛られ、男の忠実な駒となった。
次に行われたのは、一ヶ月の基礎体力訓練だった。
男は金網で周りを仕切られた軍の特製グランドにミニイカ娘達を離し、ロードローラーを運転して225匹の固体を追い回し、一日15時間の強制走りこみを行った。
ミニイカ娘達は必死の形相で逃げ回り、逃げ遅れた個体や足の遅い固体は容赦なく踏み潰されていった。
訓練は二時間の間に休憩を挟み、その間に部下と運転を交代してミニイカ娘を追い回すことで、ミニイカ娘達に十分な休憩を与えることなく訓練は15時間ぶっ通しで行われた。
男も部下達も、逃げる途中で転び、タイヤに踏み潰されたミニイカ娘の気色悪い声、もう走れないとでも言うようにエンエン泣いて許しを請うも、容赦なく踏み潰されるミニイカ娘の姿を覚えていた。
基礎訓練が終わる頃には、ミニイカ娘の多くは潰されて死んだもの、疲れ果てて死んだものと絶命した個体が多く、数は40匹と大幅に激減していた。
次に行われたのは、泳法訓練である。
ミニイカ娘達は泳げない為、最初は息継ぎの訓練から始まった。
ロードローラーと鞭打ちの恐怖からか、ミニイカ娘達は素直に取り組んだが、実際泳ぐとなるとやはり難しく、厳しい訓練の中で五匹が溺死した。
そこで、軍でミニイカ娘専用のビート板やシュノーケルと言ったものが開発され、使い方を教えることですぐにそれを覚え、なんとか泳ぐことが可能となった。
次に行われたのは、武器の使い方である。
ミニイカ娘専用の剣、メリケンサック、爆弾、毒ガス噴射装置といった物が開発され、使用法の訓練が行われた。
ミニイカ娘達はこういった物を扱うということは比較的楽に覚えるようで、ビート板やシュノーケルのようにすぐ使い方を覚え、害虫や溝鼠の撃退が出来るようになった。
しかし、全員が使いこなせたというわけではなく、剣で誤って手首を切って出血多量で死んだり、毒ガスを誤って噴射してしまい、死亡した固体等が合わせて七匹いた。
最後に残った28匹に行われたのは、戦闘訓練だ。
といっても、やったことは剣とメリケンサックを持ったミニイカ娘達を五日間何も与えず放置しただけであるが。
今までの訓練で空腹が重なり、ストレスも溜まっていたミニイカ娘達は、二日でモラルを失い、同属で殺し合いを始めた。
そして期限の五日目が来て水槽を見てみると、先ほどの五匹の傷ありミニイカ娘達が生き残っており、23匹の殺した同胞の亡骸を夢中で食い漁っていた。
共食いの性質を持っているイカの本能が目覚めたのか?と男は思った。
それから男は生き残った五匹にさらに爆弾の解除方法やスパイ行動の取り方等を教え、ミニイカ娘達を自分の家で飼っている犬共々可愛がった。
五匹の傷ありミニイカ娘達は男の忠実な懐刀へと変わり、実戦経験は無い者の、訓練をみっちりつんだ一流の軍用動物となった。
それから男は部下達を母国に帰し、日本でより詳しいデータを集めるために、増えすぎて近隣に迷惑をかける野良ミニイカ娘の駆除を五匹に行わせた。
結果、日本にあるミニイカ娘調査チームの協力を得てデータを取ったところ、五匹は同属の駆除を続けていくことによって次第に自分達以外のミニイカ娘を見下している兆候
がみられることが分かった。
しかし、その調査チームの男はミニイカ娘がそんな醜い感情を表したことより、ミニイカ娘が軍用に訓練でき、高い戦闘能力を身につけることが出来たということに驚いていた。
勿論、全てのミニイカ娘がこうなれる訳ではないとも言っていたし、男自信も200匹以上のミニイカ娘の中から生き残った唯一の五匹なのだから言われずとも分かっていたが。
そしてその調査チームの男から紹介されたクラブに暇つぶしに赴き、五匹の軍用ミニイカ娘による数十匹のミニイカ娘とのバトルロワイヤルゲームを行い、五匹がまるでハエを駆除
するように次々ミニイカ娘達を虐殺した時は大きな歓声を得た物だ。
メンバーの一人が、「あんたのスカして生意気なミニイカも可愛がりたいな」と言っていたが、男は止めて置けと言った。
ミニイカ娘とはいえ軍用なのだ、下手に暴力を振るったなら逆上して人に危害を加えかねない。
軍用ミニイカ娘達には緊急時の対人用の訓練もつませているのだ。
調査チームのくれたデータによると、まだ未確認ながら黒いミニイカ娘というものが存在するらしい。
まだ軍用ミニイカ娘の育成は続いているが、この五匹のように訓練に耐え切れる固体は殆どおらず、育成は中々進まない。
その黒ミニイカ娘が、白いミニイカ娘並みの繁殖力と、それ以上の能力を持っていることを願うばかりである。
「さてお前ら、飯だぞ。」
男はコートのポケットから干しエビの袋を二つ取り出すと、それを開封し、砂の上に一気に撒いた。
『ゲッソ~~~♪』
軍用ミニイカ娘達は目を輝かせたが、一気にかぶりつこうとはせず、主の号令を待つ。
男は次にしたい袋の中のミニイカ娘達の死骸を干しエビの隣に巻くと、「よし、食餌開始!」と号令をかけた。
共食いを覚えていた軍用ミニイカ娘達は一気に干しエビとミニイカ娘の死骸にむしゃぶりつき、幸せそうに食べる。
その姿は、餌さえ見なければとても幸せそうでほほえましかった…
俺の名前は…本名を言うわけにはいかないのでYと名乗っておこう。
これでも外国に国籍を持つ日系人で、軍隊に所属する人間だ。
俺は今、上司の命令で昔からちょくちょく家族旅行で訪れていた国、日本に滞在していた。
その理由は…今巷を騒がせている謎の人型生物「ミニイカ娘」を軍事用に訓練し、我が国の軍隊の新たな戦力、
「軍用ミニイカ娘」へと育成するためである。
ミニイカ娘訓練用に作られた軍事訓練施設の入り口で、俺は二人の人間を待っていた。
しばらくすると、二台の車が入り口前の駐車場に停まり、中からやせ細った男とぽっちゃりとした男が現れた。
「よう、Y!」
「久しぶり~!」
二人とも俺の日本の友達で、やせた男は通称・S、太った男はTだ。
二人は昔家族旅行をしていた時に出来た子供の頃からの友人である。
SとTにもミニイカの訓練の様子を見せたくて、俺は二人をここに呼んだのだ。
「二人とも悪いな。特にSが今住んでる所はここよりずっと遠いのに。」
「いいよ、メールだけじゃ詰まらないし、顔も久々に見たかったしさ。それにペット関係の仕事の人間として、ミニイカ娘の訓練には興味がある。」
Sは、俺と握手をしながらそう言ってくれた。
Sは遠くの地方でペットショップの店員をしていて、様々な動物に興味を持っている。
何でも高校生の時にペットへの愛情と動物への興味に目覚め、いずれはペットショップの経営者を目指しているらしい。
Sにとって謎の多いミニイカ娘関連の話題は、今非常に興味があることなのだ。
俺もSに会いたかったし、来てくれてとても嬉しい。
「今日は仕事も休みだし、練習も無いからさ。暇を持て余すよりは遠くの友人に会いにいったほうが良いってものだ。」
「Tも、相変わらずだな。俺もお前の丸顔が少し恋しかった所だよ。」
「へへ、こいつめ!」
俺はSの次にTと笑いあいながら握手した。
Tはそれなりの中小企業に勤めながら、劇団に通って芝居をやっている男だった。
俺はメールで知ったことだが、こいつは昔から喋ることが好きで、放送や演劇と、喋ることが中心の部活を続けていたらしい。
Tを呼んだのは、こいつも俺のように愛犬(Sも二匹犬を飼っているが)を飼っていて動物が好きであり、未知の生物については
興味を持っていたから、友達のよしみで呼んだ。
「さて、じゃあ二人に見せてやるよ。俺が担当するプロジェクトの訓練内容をな。」
俺は二人と共に自動ドアを潜り、案内を開始した。
まず見せたのは、訓練施設のスタッフによって捉えられた平均120匹以上の野生のミニイカ娘達が入れられた巨大な25メートルの
水無し専用プール(というより生簀に近いが)であった。
ここは捕獲したミニイカ娘に上下関係を叩き込み、支配下に置く訓練を行う場所だ。
「ゲソォ…ゲソゲソォ…?」
「ピャッ!ピャッピャッピャ!ンキキキキ!」
「アーン!アーン!アーン!」
捕らえられたばかりのミニイカ娘達は、不安がって怯えているもの、首を傾げて疑問符を浮べているもの、逃げようとしてプールの壁を必死によじ
登ろうとしているもの、恐怖で泣き崩れているものと様々だ。
「なんか…見てるとかわいそうだな。」
「仕方ないだろ。これも仕事だ。それに、繁殖力の高いミニイカ娘が増えすぎて生態系を壊しても困るだろう。共食いしたり駆除される前に有効活用
する道を探してるんだから、一般的な動物虐待よりは遥かに有益だ。」
俺は同情してるTに言った。
それにしても、今の五匹を見つけ出し、訓練させていた頃は酷かった。
プロジェクトが結果を出すか分からないから必要以上の経費をかけられなかったし、スポーツセンター等を貸切にして訓練していたものだ。
今こんな施設が出来たのも、五匹が結果を出してくれたからである。
優良種は正義だ。
そして、ワンピースの上に専用の防御用チョッキ入りの迷彩色のベストを身につけた軍事用ミニイカ娘が、手にミニイカ用鞭を持って俺の隣にやってきて敬礼した。
頬に傷を持つ五匹の内の一匹である。
「ゲソ!」
「お、これが軍事用か。」
「なんか…本格的な軍人っぽいな。」
Sが興味本位に、Tが少し驚きながら言う。
俺は表情を引き締めると、軍事用ミニイカ娘に指令を与えた。
「よし、訓練開始!」
「ゲソゲソ!」
軍事用ミニイカ娘は、大きな声で命令に答えると、野生のミニイカ娘が逃げられないよう設置された人間用のプールはしごを、触手を使って器用に降りていった。
そして野生のミニイカ娘達の群れの前にやってくると、野生の個体たちは「ゲショゲショ?」などと言いながら足掻く事をやめ、興味深そうに集まって軍事用
ミニイカ娘を見つめた。
軍事用ミニイカ娘は大きな声で、野生のミニイカ娘達に叫ぶ。
「ゲソ!ゲソッゲソッ!ゲソゲソ!」
こいつは「今日からお前達は我が軍の兵士になる為の訓練を受けてもらうゲソ!」とでも言っているのだろう。
ミニイカ娘達の訓練は、五匹の軍事用に任せてある。
同胞の方が、コミュニケーションが取りやすいからだ。
『ゲソ!?ゲソゲソゲソ!うぅ~!』
野生のミニイカ達は不満をあらわにし、口々に文句を言い始める。
その中で、十匹ほどの群れの前に躍り出、軍事用ミニイカに挑んだ。
『ゲソゲソォ~~!!』
ミニイカ達は触手を伸ばして攻撃するが、軍事用は洗練された動きで攻撃を回避し、見事な鞭捌きで瞬時に全て撃退する。
「ギャ!」
「ピィ!」
「ンキィ!」
ミニイカ達は群れの前へと弾き飛ばされ、叩かれて腫れた箇所を痛がった。
だが懲りないのか、すぐ立ち上がって軍事用をまた睨んだ。
そして、今度は120数匹全員で軍事用ミニイカ娘に挑んだ。
きっと全員でかかれば武器があってもやっつけられると思ったのだろう。
軍事用ミニイカ娘は野生の攻撃を綺麗にかわしていくが、このままでは物量で押されてしまう。
軍事用ミニイカ娘は鍛えられた俊敏さで群れから距離をとると、俺の方を向いた。
「許可する。」
「ゲソ!」
俺はポケットから小さなボタンを取り出し、安全カバーを外して押すと、軍事用ミニイカ娘は胸ポケットから小さな黒い円状の物体を取り出す。
そして上部のピンを抜き、群れの最前列に向かって投げた。
「ゲソ?」
「ン~?」
最前列の何匹かのミニイカは何かと首を傾げる。
そして物体が到達すると、それは花火のような音を立てて爆発した。
『ギャソオォォォォオ!!』
爆発は二十匹ほどのミニイカ娘を巻き込み、爆殺した。
「うお!?何だよあれ!?」
「ミニイカ娘用手榴弾だ。」
俺は驚くTに答える。
あれは捕らえたミニイカ娘達が軍事用ミニイカ娘の強さを見てなお反抗した時に、上下関係を強制的に叩き込み、逆らう者をみせしめ
として処分するときに使うものだ。
威力は抑えているが、安全の為と、一応軍事用が反乱する可能性を考慮して、軍人が持つ安全装置のスイッチを押さなければピンが外れないように作られている。
『ピ、ピイィィィィィィィィィイ!!』
『ウアーーーーーン!!ウアーーーーーン!!ゲショオーーーーー!!』
無事なミニイカ娘達は爆弾の威力と同胞の虐殺に腰を抜かして驚き、泣き崩れ、
『ウギ、ウギイィィィィィィイ!!』
『ビィィィィイ!ビィィィィィイ!』
『ウギャァァァァァァァァァァア!』
爆発の中から生き残ったミニイカ娘達は手や足、下半身丸ごとが吹き飛んでいたり、さらには体の欠損と同時に爆弾の破片が突き刺さっていたりと、中々凄惨な
状態であった。
TとSは「うわ、グロいなぁ…」と引きつっている。
軍事用ミニイカ娘はもう一つ手榴弾を取り出すと、全てのミニイカ娘達はプールの最奥へと逃げ出した。
そして逆転して最前列となったミニイカ達がプールの壁にぶつかり、逃げられないことを思い出すと、軍事用ミニイカ娘はゆっくりと手榴弾を構えて群れに近づいてくる。
『ゲジョオ!ゲジョゲジョゲジョォ!!』
『アエーン!ゲソオォォォオ!』
野生のミニイカ娘達は軍事用ミニイカ娘を振り返ると、土下座をしたり泣いたりして許しをこう。
俺は訓練終了を告げると、軍事用ミニイカ娘は俺の元に戻り、恐怖で震えた野生のミニイカ達はスタッフに回収されるまで恐がり続け、一歩も震えて動かなかった。
支配完了。これからこのミニイカ達は軍事用ミニイカ娘達の指導の下、生きるか死ぬかの地獄の基礎訓練に耐えていくこととなる。
ちなみにこの軍事用ミニイカ娘、せっかく貴重な五匹が日本で活動しているのだから、実害と同等クラスの問題であるしつけに失敗した悪質な態度のミニイカ娘の
教育し直しのため、訓練施設にて短期集中指導合宿も一般用に行っている。
捨てミニイカ娘の増加のためにも、これは欠かせないものである。(ミニイカ娘保護団体からの偽善的な苦情など我が軍は聞く耳持たん)
凄まじく厳しい合宿ではあるが、友国である日本の生態系と漁業の手助けのため、格安で行われているので一般からの合宿の申し込みは多い。
是非、性根を叩きなおして欲しいミニイカが居るのであれば、この訓練施設に連れて来て欲しいものである。
もちろん、優良種やまだ見ぬ黒ミニイカ娘の持ち込み、情報提供も大歓迎だ。