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ゲショゲショ!

調査チームシリーズ
第1回生態調査

野生のミニイカ娘については謎が多い。
そこで我々、海洋生物生態研究所のプロジェクトチームがミニイカ娘が多く生息するという相模湾近辺で生態調査を行う事にした。
「テトラポット」「砂浜にある小屋の床下」「ごみ溜め場の奥」などに目撃情報が集まっていたのでそれら候補からある場所を特定してみた。
鎌倉方面のとある海岸に海中から砂浜までテトラポットが一直線に並んでいるところがある。
調査ポイントをこの周辺に決め、超望遠カメラなどの機材を詰め込んだワゴンに乗り込んで現地へ向かった。

調査期間は24時間で、全てを録画すること。
撮影は3人で交代する。
そして野性の生態調査なのでターゲットに気付かれてはいけない。

現地に到着し、次は設置ポイントを探す。
テトラポットに近づくとフナムシがササッと奥の方へ隠れてしまった。気持ち悪い。フナムシが隠れた奥の方を静かに覗き込むと、そこにいた。ミニイカ娘が。
ボケーっとしているのやイカ墨を吐いたり、単独でピヨピヨと雛鳥の様に鳴きながら歩いているのもいる。夜行性では無いので昼前の今ぐらいの時間帯でも活動してそうだが、あまり動き回る固体はいなかった。もしかしたら昼間は人間に警戒して起きていても姿を隠しているのだろう。
警戒心が強いらしいので、監視している事がバレないように我々も静かに行動する。

少し遠めからでもテトラポットの中が覗けるポイントを発見したので30メートルぐらい離れた道路に近い場所にカメラの設置ポイントを設営した。
ここならテトラポットのあるていど奥まで鮮明に映像が映る。マイクのスイッチを入れるとピヨピヨピヨだのゲソゲソ~だのが時々ノイズ混じりに聞こえてくる。後で加工すればノイズは消えるので問題ない。

セッティングも整い、昼の1時から観測開始。
といってもさっきと状況は変わらず、ミニイカ娘達はのんびり過ごしている。
2時間ほど過ぎた頃、カメラでは見えないテトラポットのずっと奥からゲソゲソとミニイカ娘が増え始め集まりだした。
何が始まるんだ?
数は増え全部で50匹以上はいる。
3時半頃、群れは波打ち際の方へ移動していく。ところどころテトラポットが邪魔して見えないが、集団で動いているというより個々が勝手に波打ち際の方へ移動している、といった感じだ。
それぞれが砂浜に落ちている何かを触手で拾って匂いを嗅いで捨てたり食べたりしている。海草らしきものを食べるミニイカ娘も居た。
もしかしたら米などの穀物以外なら野生のミニイカ娘は食べるのかもしれない。エビ以外を食べるという発見をした。観測はできないが、プランクトンも食べるのだろう。
全てのミニイカ娘の胃を満たすほどのエビが砂浜で捕れるはずがない。
そんな疑問があったのだ。

ミニイカ娘達はゆっくりだが確実に波打ち際へ歩いている。「泳げないのに何をするつもりだ?」と思った。
この時間帯は干潮で波打ち際まではかなり距離がある。
潮の引いた砂浜には色々なものが打ち上げられていて、特にテトラポットの中はそれらが溜まりやすく、餌になるものが豊富なのかも知れない。
触手を使って砂を掘り返しているミニイカ娘。
拳ぐらいの大きさの石を3匹が触手を使って持ち上げていた。石が動くと他のミニイカ娘が石の下に何かを見つけたようで嬉しそうに頭を突っ込んで何かを食べている。石を動かした3匹も後から頭を突っ込んで何かを食べている。それを見た周りのミニイカ娘はワラワラと集まって4匹が頭を突っ込んでいるところへ触手を伸ばす。さすが野生だけあって餌の取り合いは激しい。触手で威嚇しながら喧嘩しているミニイカ娘もいる。
1匹が触手で何かを掴んで食べた。
後から録画したVTRをスローで再生してみると、何かの肉片だった。小魚だろうか?
餌を探すのに夢中になっているミニイカ娘達のうち、テトラポットの端の方にいるミニイカ娘の数匹が砂浜の方へ出てきた。餌を探し砂を掘っているのに夢中になりすぎて身を隠す事をすっかり忘れてしまっている。げそ~っと鼻歌混じりなのもいる。
上を見上げると鳶が旋回をし、テトラポットの上にはカラスが数羽静かに見守っていた。
鳶が一羽とつぜん急降下してきた。
テトラポットから一番遠いところに居たミニイカ娘がげそ?っと上を振り向いた時に鳶の足がミニイカ娘の身体と頭を両足で掴んで飛びたった。
げそ~っ!と泣き声が遠ざかっていく。
近くにいた他のミニイカ娘も身の危険を感じ、げそっ!?げそげそっ!?と辺りを見回し鳶に気がついて、びゃーびゃー泣きながらテトラポットの陰に向かって走り始めた。
しかし一匹だけ餌を食べ過ぎたのか、ボテ腹でのた打ち回っているミニイカ娘がいた。うげー、げーげーとうめき声を上げて恐怖と苦しさでもがいている。

テトラポットの上にいたカラスが一匹ボテ腹のミニイカ娘の近くに舞い降りて腹をつつき始めた。ぴぎゃー!と悲鳴を上げびーびー泣きだした。
ワンピースみたいな部分ごと皮膚も破かれ黒い液体と共に食べたばかりの餌が溢れ出る。皮膚の伸縮はかなりあるようだ。
額をつつかれ、そこからも黒い液体がにじみ出てきた。ミニイカ娘はすでに泣き声すら出せず、ぜーはーと荒かった呼吸も止まり恐怖に歪んだ表情のまま動かなくなった。
カラスはミニイカ娘の身体を足で掴み、くちばしで頭をくわえて引きちぎった。
触手はまだピクピクと動いていたがそのまま丸呑みしてしまった。

テトラポットの隙間の入り口はカラスが入れるほど大きくないので安全だが、逃げ込んだミニイカ娘達は泣きわめき、たまたま一部始終を見ていたミニイカ娘はあわわわ、と恐怖の表情で後ずさりしていた。
しかし、ほとんどのミニイカ娘達は食べるのに夢中か、ボテ腹状態で動けないか、だった。


干潮の時刻がミニイカ娘の食事の時間らしい。
暗くなってきたので暗視カメラに切り替える。
また潮位が上がってくる夕方5時頃になるとテトラポットの中を歩いて砂浜の上の方まで来る。
移動し終わると再び砂浴びや寝るもの、生理現象でイカ墨を吐くもの、一人で行動するものと、それぞれ好きな事を始めた。

砂浜のテトラポットのミニイカ娘達は少しずつ数が減っていった。よく観察してみると、テトラポットの奥の方に向かって歩いている。外からは絶対に見えないテトラポットの隙間の空間に安全な巣でもあるのだろうか?
夜の9時頃にはミニイカ娘達の姿は見えなくなった。
撮影者は二人目に交代。

その後はテトラポットの隙間に全く姿を見せなかったわけではなく、一匹で歩いているのや、イカ墨を吐きにくるのも時々いた。
観察して思うのは、細い首に大きな頭、バランスの悪そうな身体なのに二足歩行しているのは不思議だ。ガサゴソ動いているミニイカ娘を見てそんな事を考えた。
そして午前2時頃に増えだした。げそー、げそっ。とぼそぼそ鳴いているのが聞こえる。
そして3時頃に再び波打ち際の方へ移動し始めた。干潮の時間なので餌を捕りに行くのだ。
ゲソゲソ~と鳴きながら砂を掘り返してテトラポットから外の波打ち際へ出てくるミニイカ娘がワラワラとたくさんいた。この時間帯は昼間より安全らしい。テトラポットから20メートルぐらい離れた波打ち際にまでミニイカ娘達は餌を探し回っていた。夜間はカラスや鳶はいない。

そして朝5時頃、潮位が上がり始めると共にげそげそと砂浜に引き返し始める。
撮影者は三人目に交代。
この時間帯は周りを警戒せずにのんきに砂浜を歩いてテトラポットの巣の方へ向かうミニイカ娘もたくさんいた。
一番無防備な状態かもしれない。

波打ち際にボテ腹で動けなくなって溺れかけているミニイカ娘がいた。周りにはフナムシが数匹集まってきて足をかじり始めた。悲鳴を上げてるみたいだが、波の音にかき消されて聞こえない。
触手で攻撃していたが、波に流され見えなくなってしまった。

その後テトラポットに戻ったミニイカ娘達はカメラの見える範囲の場所に墨を吐きにきたり、歩き回ったり、ボケーっとしては奥のほうへ戻っていくのを繰り返していたが段々その数も減ってほとんど見えなくなった。

昼の12時頃から少しずつカメラの見える範囲にミニイカ娘が増え始めた。
そして1時。
24時間が過ぎたので撤収を始める。
全て撤収を終えて双眼鏡で観察すると、3時半頃からミニイカ娘達が波打ち際へ移動し始めた。。。再び干潮になる。。。

ミニイカ娘は1日2回、干潮の時間に餌を探すようだ。

個人的な感想は、厳しい野生の生活の中でも行動に緊張感があまり感じられず、朝5時頃に浜辺をゲソゲソと歩く大量のミニイカ娘を見た時は一掃したい衝動にかられた。(今回は生態調査だったので固体との接触は出来ず歯がゆい思いだった。)次の休みの日にでも捕獲しに来よう。

150年生きるといわれているこの生き物は生命力が強い為か、生きる事にあまり執着してない様にもみえた。気の抜けた表情で動けなくなるまで餌を食べ、他の動物の餌になる姿はどんなに悲鳴を上げようが自業自得なので同情の余地も無い。

研究所に戻り、今回撮ったVTRを再検証して何か新たな発見があればレポートにまとめ、プロジェクトの一環として再び調査に向かいたいと思う。

edited byアドミニイカ at
調査前のファーストコンタクト
海洋生物生態研究所がミニイカ娘の生態調査をしてから
調査チームの撮った映像は研究チームに渡され、
映像を元に現在も研究が続いている。

スナップ写真を撮ったのでご紹介しよう。
調査開始前にテトラポット付近を捜索していた時のものだ。
静かに近づいたつもりだったが、気付かれてしまった。
テトラポットの上から2匹のミニイカ娘達が警戒するようにこちらを見ている。
後ろの方では数匹のミニイカ娘がげそげそ?と陰から覗いている。

手を伸ばせば届く距離だ。
サッと掴んでテトラポットめがけて思いっきり投げつけて
コンクリートに打ち付けられグシャッとなるミニイカ娘を見てみたい。。。
そんな衝動にかられたが、
調査中は固体への接触厳禁だったので、できなかった。

これが調査前のファーストコンタクトだった。。。


edited byアドミニイカ at
研究チームからのレポート
研究チームは前回の調査で録画した画像の分析に相変わらず追われている。
1回目の調査の1週間後に再び24時間の調査を行い全て録画し、それも研究チームへ渡した。
2回目も1回目と同じ場所で同じ時間帯で行った。
内容は1回目とあまり変わらず、餌を捕る時に鳥類等に狙われて数匹のミニイカ娘が犠牲になっていた。
そしてつい先日われわれ調査チームに研究チームから1枚の静止画とレポートが届いた。
1回目の調査で録画した画像の静止画で、時刻は15時23分となっている。
画像の左後ろが波打ち際の方向でそちらに向かって移動している固体が多い。

<研究チームより波打ち際に移動を開始するミニイカ娘>
・干潮までの高低差が約18cmになると餌を捕りにテトラポットの中を歩いて少しずつ波打ち際へ移動する。(夜間の干潮時もほぼ同じ)
・捕食時は餌を探す事と食べる事に夢中になりすぎて、餌の取合い等ミニイカ娘同士で争いになる事もある。
・捕食時以外では集団意識はそれなりにあるらしい。が、野生下では基本的に全体の動きより目の前の現象に興味を持つようだ。
・普段は群れで一斉に行動するのではなく個別に好き勝手に移動する模様。
・上記2項目に関して、集団にはリーダーやボスの存在が確認できず群れというより個々の集団である。
・固体によって微妙に大きさの違いがある。(1mm~4mmほど)
・哺乳類以外の生物では今まで見たことの無い表情や感情表現の豊かさ。
・・・etc
<調査チームより補足解説及び推測>
生物分類学上では軟体動物門頭足綱十腕形上目シンリャクイカ目イカムスメ科に属する。
イカの突然変異なのかすら不明だが、最近は急速に数を増やしている。
生息地は最初に発見された由比ガ浜、材木座海岸の他、湘南の海岸各地で目撃情報がある。
ところが最近では日本全国至る所で目撃情報が上がっている。
「在来種」とは違い「侵入種」または「侵略的外来種」に当てはまり生態系へ与える影響が懸念される。

哺乳類でないのにも関わらず顔の表情がくるくると変わる。
軟体動物なのに顔の表情筋が人間並みに発達しており、なぜここまで表情が豊かなのか?
その謎は未だ解明されていない。
寿命が150年と言われているが個体差で年齢を見分けるのは困難だ。
レポートにもあった「固体によって微妙に大きさの違いがある。」というのはおおまかな年齢を調べる手がかりになりそうだ。
若いミニイカ娘は行動が幼いところがあるので見分けがつきやすい。ただ、幼少期が何年ぐらいあるのかは不明だ。
例えば、この静止画像の中で見ると空腹で涙ぐんでる固体や、これから何が始まるのか理解できずにぽかーんとしている固体、
餌を捕りに行く時間なのに寝ている固体やはしゃいでいる固体、
そして横たわっている固体を観察するかのようにしゃがんでじーっと見ている個体等が若いミニイカ娘と推測される。
そして泣いている固体それぞれの傍にいるミニイカ娘は幼少期を終えた大人の固体なのかもしれない。
何かを教えているようにも見える。
年長者が若い固体の世話をする、というルールはあるみたいだが、それを統率するものは存在しない。
干潮の時間に餌を捕りに行くのは本能で行動しているのだろう。
少し分かり辛いかもしれないが画面中央の横たわっている固体は
その右側の固体に触手で攻撃をされて意識を失っている、と研究チームから説明があった。
ミニイカ娘は基本的に温厚だが性格も個体差があり中には攻撃的なものもいる。
餌が少ない時は攻撃的なミニイカ娘が弱っているミニイカ娘を食らうのかもしれない。
元々イカには共食いの性質があるのでミニイカ娘が共食いをするのも不思議ではない。

そして個体数に関しても謎が多い。捕食の度に数匹のミニイカ娘は他の動物の餌になったり波に流されたりしている。
2回目の24時間の調査で見える範囲で少なくとも6匹のミニイカ娘が犠牲になっているのを確認した。
毎日6匹ずつ減っていくとして1週間後の2回目の調査では少なくとも42匹は1回目より少ないはずだが、
全体数が減っているようには見えない。
研究チームもその点については疑問を抱いていた。
150年生きる強靭な身体を持ちながら、野生下では150年生きる個体は少ないように思われる。

最近では観賞用ミニイカ娘や食用ミニイカ娘が人気で人工的に繁殖をさせる事に成功して養殖も可能なレベルだそうだ。
人工繁殖に関してはわれわれの調査対象外なので具体的な事はよくわからないが繁殖力は強いらしい。
繁殖力が強いのは野生のミニイカ娘にも当てはまるだろう。
しかし野生のミニイカ娘の繁殖は未だ謎だ。

研究チームの映像解析によって何か新しい発見があるかもしれないのでそれを待つ事にしよう。

edited byアドミニイカ at
波打ち際の生態観察
二回の調査の後、研究チームからリクエストがあった。
テトラポット間近で、波打ち際が見える場所があれば
ミニイカ娘達が狩りに行く時間に撮影してきて欲しいとの事。
今回は私単独で行く事になった。
赤外線カメラを2台用意し
夜明け前の干潮の時間を狙って現地へ。
ちょうどミニイカ娘達は狩りに行って
前回撮影したミニイカ娘の溜まり場なっていた場所には誰も居なかったので
その中に1台目の赤外線カメラを固定しすぐ横でモニターを見ながら操作することにした。
ここからだとテトラポットの内側から波打ち際が観察できる。

テトラポットの中の波打ち際には大きなテトラポットの足が
ちょっとした水溜りを作っていて波が来る度に新しい海水が流れ込む。
海草やペットボトルや破れたビニールなど色々なゴミが
寄せては返す波の動きにあわせてゆらゆらと漂っている。
水面は場所によってミニイカ娘の膝から腰、胸の高さになる。
波が来ても最大でミニイカ娘の肩ぐらいの高さの水位なので
溺れる心配の無い安全な場所だ。
そこには15匹ぐらいのミニイカ娘達が固まってワラワラと蠢いていた。
砂の中を触手で刺して餌を探すミニイカ娘が大半で、
ゴミを漁ったり海草を食べるミニイカ娘もいた。

海水が流れ始めるとそれぞれ流されない様に触手を砂に刺して踏ん張っているが、
何匹かは何かを食べているのに夢中で、そのまま横に流されていくものもいた。
外海まで流れる事は無いらしく横に流されても安全だという事は理解しているらしい。

砂の中には波が連れてきたエビが多く潜っている。
ミニイカ娘と同じぐらいの大きさのエビが取れ、
膝ぐらいの水面にいた1匹のミニイカ娘が砂の中からプルプルする触手を持ち上げると
暴れる1匹のエビを引き上げた。
何気に触手の力は強いように見える。
横を向いて暴れるエビの背中にしがみつき触手で押えて振り落とされないようにしながら
嬉しそうな表情でバリバリと齧りだした。
それを横で見ていたミニイカ娘はエビの尻尾に触手を絡めて尻尾の先から齧り始めようとするが、
エビの尻尾がバタバタと動くので振り落とされそうになるのを堪えて目を回し始めた。
エビの背中から齧り始めたミニイカ娘は尻尾の先にいるミニイカ娘の方へ齧りだす。
そして目を回してグッタリしているミニイカ娘の足をエビと一緒に齧り始めた。
齧られたミニイカ娘は「ぴぎゃぁぁーっっ!!!」と悲鳴を上げて飛びのく。
浅い水面に尻餅をつくように落ちて「うううっっっ」と手で押える足首の先は綺麗に噛み切られ、
黒い液体が透明な海水をゆらゆらと染めていく。
エビを食べ終えたミニイカ娘はボテッ腹で満足そうな表情で腹をさすりながら横になっている。
水深は浅いので横になっても水面から顔だけは出ている。
そして再び波が来た。
突然勢いよく流れて水位が上がる。
といってもミニイカ娘の胸ぐらいだ。
横になっていたミニイカ娘は溺れかかったが
すぐに起き上がり水面から顔だけ出して「げっしょげしょ~♪」と歌いながら水中をスキップするように横の方へ流されていった。
ボテッ腹だがまだ動けなくなる程食べては無いようだ。
その横で膝を抱えて痛みに耐えて「うぃ~、いぃ~・・・」と泣き震えていたミニイカ娘は
水位が上がると水の流れでゴロゴロと転がり始めた。
触手を砂に刺して踏ん張る余裕もなく、
両足先を失って立ち上がれず水面をバシャバシャして溺れかかっている。
波が引くと運良く砂地に取り残されぜーはーと荒い息をしている。
一命は取りとめたが高い位置へ移動しないとそのうち波で再び流されるだろう。


テトラポットの上からは釣り糸がぐしゃぐしゃになって垂れていた。
釣り人が捨てていったもののようだ。
1匹のミニイカ娘がその釣り糸に絡まって「ぴょぴょぴょぴよ~ぴよ~」と泣きながら
必死にもがいている。
頬に釣り針が刺さっていて触手を使って外そうとしているのだが釣り針には返しがあるので
うまく外せない。
釣り針には小エビの尻尾の欠片が残っている。
ミニイカ娘の胸ぐらいの水面で、
海水が流れる度に身体に巻きついた釣り糸に引っ張られるよろよろする。
触手と両手両足を使ってもがいていはいるが、
もがけばもがくほど酷く絡まっていく。
「げしょ~?」と好奇心でそれを見ていたミニイカ娘が触手で釣り糸を触り始めると
それも海水の流れによって触手に絡まりだした。
2匹のミニイカ娘が餌を取るのを忘れて釣り糸から逃れようともがいている。
最初の1匹は釣り糸が身体中に巻きついてしまっているので
潮位が上がる前に逃れられなければ
溺れて死んでしまうだろう。
頬に刺さった釣り針は自力では外せないだろうし
周りのミニイカ娘もあまり気にしていない。
溺れ死ぬのは時間の問題だ。
好奇心で近づいたミニイカ娘はただ運が悪かったとしか言いようがない。
普段の狩りでもアクシデントで命を落とすミニイカ娘がいるのが今回も確認できた。

2台目のカメラはテトラポット沿いの波打ち際を
1台目のカメラをモニタリングしている場所から撮影している。
ここはテトラポットの中と違い外海とダイレクトに繋がっているので
波に流されるとまず命の保障は無い。
しかしこの時間帯は空からの外敵に警戒する事は無いので
ミニイカ娘達はテトラポットからかなり離れたところまで海岸線を点々と歩いている。
触手をザクザクと砂に突き刺しては餌を探し回っている。

今回は今まで見なかった不思議な光景を2つ目撃した。
1回目の調査で見た波打ち際でミニイカ娘がフナムシに襲われる光景は
比較的テトラポットから近い場所だったので撮影できたが
テトラポットから離れた海岸線は砂浜が段になっていて撮影できなかった。
今回は過去2回の調査では見ることの出来なかった光景を目の当たりにした。

その不思議な光景の一つ目は
テトラポットから少し離れた海岸線にいるミニイカ娘達の行動だった。
勿論テトラポットの中のミニイカ娘達と同じ様に餌を探し回っているのもが多い。
しかしよく見ると海岸線に向かって2匹で折り重なる様に
後ろから抱きかかえているペアのミニイカ娘達が点々と居た。
上のミニイカ娘は身体をぴったり後ろから抱きしめて触手がモゾモゾと
抱かれたミニイカ娘の身体を弄っていた。
下のミニイカ娘は触手を砂に突き刺しよつんばになって海に向かって墨を吐く。
波が引く度に吐かれる墨はどろっとしており黒いゼリー状のものが砂浜を転がり
海に消えていった。
そんな事を30分ぐらい繰り返してペアのミニイカ娘は
よろよろと波が届かない場所へ移動してパタンと倒れ込んだ。
そして30分ぐらいして2匹はよろよろと起き上がり
波打ち際へ戻ってお互い何事も無かったかの様にそれぞれ餌を探し始めた。
野生下での交接、と直感で思った。

そしてもう一つは潮が上がってくる30分ぐらい前に起こった。
夜が明け前の一番暗い時間。
さっきのペアが立ち並んでいたラインよりも波打ち際ギリギリのところに
砂に触手を突き刺して波にさらわれない様に踏ん張っているミニイカ娘が
点々と並んでいた。
驚いたことにそれぞれ海に向かって蛍の様に発光している。
海岸線は点々と小さな光が海に向かって瞬いていた。
30分ぐらいすると、波の中で何かが光っているのが見えた。
波の中から光の主は砂浜に打ち寄せられ発光が消えた。
近くに居たミニイカ娘が光の主に寄っていく。
最初ゴホゴホッと咽ていたが「げしょげしょ~?」と寄ってきたミニイカ娘と
何かコミュニケーションをとり始めた。
身体は一回り小さいがミニイカ娘そのものだ。
成体になって海から上陸した瞬間だった。

周りを見ると波の中に発光体が無数に確認できる。
波の周期に合わせてそれらの光も上陸し始めた。
幼生から成体になって海から上陸するミニイカ娘に仲間の居る場所を教える為に
海に向かって発光していたミニイカ娘が上陸ポイントを教えていたのかも知れない。

そろそろミニイカ娘達がテトラポットの巣に戻る時間なので機材を片付けて撤収し
今回の調査を終えた。

そして前に生態調査をした撮影ポイントに移動して
テトラポットの巣に戻っていくミニイカ娘を眺める。

空が明るくなり始めた。
砂浜をワラワラと蠢くミニイカ娘達。
今朝初めて上陸したミニイカ娘は生まれて初めての重力に身体が慣れない様で
ヨチヨチと他のミニイカ娘の後についてテトラポットに向かって歩いている。
前回までは気が付かなかったが明け方に砂浜を歩いているミニイカ娘の約半分以上が
今朝上陸したばかりの若い固体だったのだ。


早く帰って眠りたいはずなのだが、
砂浜を走り回ってミニイカ娘達を踏み潰してを混乱させたい気分になる。
しかし今回も仕事なので対象との接触は禁じられている。
その事で、ものすごいストレスを感じながら機材を車に積み込み家路につくことにした。。。


edited byアドミニイカ at
研究チームから新たなる依頼
ミニイカ娘の調査チームが発足してから
私は今回の仕事に対して何ともいえないストレスを感じていた。
原因は調査対象のミニイカ娘だ。
ミニイカ娘を無茶苦茶にしてやりたい、というのが心の奥底にあり
仕事でミニイカ娘を観察する度にストレスが大きくなってくる。

世間では、その可愛らしさから大ブームになっておりペットとしても売りに出されているミニイカ娘。
それとは対照的に食用としての価値もあり
人工繁殖に成功したミニイカ娘養殖業者が不景気にも関わらず莫大な利益を生み
一部上場の会社も出始める様になり、今後の日本の景気を左右するのではないか?と
メディアでは大きく取り上げられていた。
しかし食用のミニイカ娘を捌く様子を隠し撮りした映像がyoutubeに投稿されてから
色々と問題が出始めた。
個人的にはかなり好きな画なのだが世間ではあまり受け入れられないらしい。

その事でイギリス、アメリカ等の英語圏の国々の動物愛護団体から
大きなパッシングを受けている。

パッシングの最大の理由はミニイカ娘を食べる事よりも
その捌き方らしいのだが。。。

ミニイカ娘にストレスを与え続けた状態で捌くと身が締まって旨味が増すという理由から
養殖業者は拷問の様な残酷な捌き方をしている。

その可愛らしい仕草からミニイカ娘の捌き方に残虐性を感じる人が多いのかも知れないが
所詮イカはイカ。
旨味が増すのであれば決して無益な残虐行為では無い。
放っておけば個体数は天文学的数字に増える為、たとえどのような捌き方であれ
個体数を減らすのは重要な課題だ。
動物愛護団体とのやりとりは我々の仕事とは分野が違うので今後の動向に注目したいと思う。
まあイギリス、アメリカは哺乳動物に対して残虐な行為をしているという事実もあるので
ミニイカ娘の捌き方ばかりが責められるのもどうかと思うが。。。

それより、問題になったミニイカ娘を捌く画像は
私の抱えていたストレスが一気に発散された。
これだ!私の求めていたものは。

ネット上にはミニイカ娘に関するサイトが多数あり、主にペットとして飼われている
ミニイカ娘の愛くるしい写真を載せたサイトが多い。
動画投稿サイト等では感動的なバラード音楽と共に愛くるしく動き回るミニイカ娘の動画が流れる、といったものが人気があり、多数投稿され多くの反響を呼んでいる。
しかし、個人的には何をどうすれば感動できるのか全く理解が出来なかった。

可愛らしいのは分かるがミニイカ娘に対しては大切に愛でるという感覚を私は持てない。
150年も生きる強靭な生命力があるにも関わらず野生のミニイカ娘達は己の不注意から
簡単に死んでいくのを調査を通して目の当たりにしてきた。
そして簡単に増えていく。
生と死があまりにも安易だ。
ペットのミニイカ娘に対してはなおさら酷い。
エビ以外の食べ物を与える動画ではミニイカ娘は触手で「ちっ!」と言いながら放り投げた。
「仕草が可愛いw」等のコメントが付いていたが
私はその動画を見て怒りしか感じなかった。
私の感覚がズレているのだろうか?

youtubeに投稿された養殖業者の残酷な捌き方の動画を見てから
その手のサイトが無いか色々と検索してみた。
すると同じ様な趣向を持った人も大勢いるようで、その手のサイトも沢山出てきて
ワクワクしながらそれらのサイトを覗いてみた。
とある掲示板では虐待の様子が事細かく書かれており、時間を忘れて読み漁った。
私と同じ様なミニイカ娘に対する感覚を持った人が大勢いる事も嬉しかった。
「紳士クラブ」というサイトを覗いてみるとustreamで「夜会」なるショウを中継していた様だ。
サンプル画面しか見る事が出来ず
会員になってパスワードを貰わなければ全ては見れないらしい。
有料かと思いきやミニイカ娘を残酷に捌くリポートや動画を投稿すれば会員になれるそうだ。
サンプル画像はブルブルと涙目で震えながら身を寄せ合うミニイカ娘達。
その画像を見るだけで色んな想像を掻き立てられ興奮を抑えられない。

私も個人的にミニイカ娘を捕獲して投稿したい。。。
しかし残念ながら暫くは個人的にミニイカ娘を飼う事を禁じられている。

数日前に海洋生物生態研究所の研究チームから
固体の調査をしたいのでミニイカ娘を20匹以上捕獲して欲しいというリクエストがあった。
それに伴い感染症防止の為に個人での飼育は禁止されてしまったのだ。

とはいえ捕獲=個体との接触が可能なので次の捕獲作戦が待ち遠しい。
どさくさに紛れ、事故を装って何匹か踏み潰してやろうと企むのであった。。。

edited byアドミニイカ at
捕獲作戦1(準備)

研究チームより正式に野生のミニイカ娘捕獲の依頼がきた。

今回の依頼はいくつかの注意事項が添付されている。

・捕獲方法の指定は無いが、身体に傷の無い個体を選別する事。

・捕獲時に直接個体との接触は問題無いが懐かせない事。(人間に警戒心を持った

野生の状態のままが好ましい)

・捕獲個体数は最低20匹、上限無し。

・ミニイカ娘保護団体からのクレーム防止の為、ミニイカ娘の巣は壊滅させない事。(重要)

・移動中は個体に傷を付けないようにケージとなる水槽の内側にはスポンジを張り巡らせ

床には砂を敷詰めておく事。(研究チームへの引渡しはこの状態で行う)

・感染症防止の為、このプロジェクトに関わるものは個人でミニイカ娘を

飼育してはならない。

今回の捕獲は最初と同じく3人で行く事が決定した。

捕獲場所は今まで生態調査を行っていたテトラポット周辺。

捕獲開始は早朝の干潮時間が終わり、波打ち際で餌を捕っていたミニイカ娘達が

砂浜を歩いて巣穴へ戻るタイミングを狙う。

以前のレポートで発見した、砂浜に上陸したばかりの若いミニイカ娘が大量に捕獲できると

予想される。

砂浜を歩いて巣穴に戻る全てのミニイカ娘を捕獲する方向で話しは進んだ。

テトラポットの中の波打ち際で餌を捕るミニイカ娘も大量にいるので、

砂浜方面のミニイカ娘を全て捕獲しても壊滅する事はない。

毎日のように幼生が海から上陸するので一時的に個体数は減っても

すぐに増えるだろうとの予測だ。

そして捕獲方法だが、、、

これは色々と議論が上がった。

正式な依頼がくる前に、エビをばら撒いて集まってきたミニイカ娘を一掃する

という案があったが餌をあげた人間に懐いてしまうので却下になった。

餌付けに関しては社会的にも色々と問題が出ていた。

ミニイカ娘の生息する海岸には「ミニイカ娘に餌を与えないで下さい」との看板が

ここ最近立ち始めた。

本来は警戒心が強いらしいが餌のエビになるとどこまでも貪欲になり

餌を貰える人間に対しては簡単に警戒心が消えてしまうのだ。

その可愛らしさからつい餌をあげてしまう観光客が後を絶たない。

そしてあげる餌が無くなってもどこまでも餌をあげた人間について行くミニイカ娘達。

ミニイカ娘を飼う事の出来ない観光客も多く、

ついてくるミニイカ娘達を無視して海岸沿いの道路を横断して帰ろうとしたところ

後から道路を横断してついてきたミニイカ娘達が次々に車に轢かれる、

という事故が多発していたらしい。

陸上で生活しているとはいえ、その身体はイカの様に弾力性のある滑りやすい皮膚なので

ミニイカ娘を轢いた車がスリップ事故を起こす事も度々あったそうだ。

海岸でむやみに餌付けするのは今ではご法度になっている。

その愛らしい容貌とは裏腹に餌に対して異常に執着する性格の為、そういった問題も多々あり

地元住民からの苦情は絶えない。

ミニイカ娘は「侵略的外来種」という国からの認定も受けているので今回の捕獲に関しては

どの団体にも許可や申請を提出する必要性は無いのだが、

いちおう地方自治体と警察、消防、地元の漁業組合には申告しておいた。

夜明け前の早朝から大の大人が機材を持って海岸をうろつくので密漁と勘違いされて

下手に通報されては面倒臭い。

警戒心を抱いたまま捕獲する、という事は餌付け等の回りくどい事は無しにして

純粋にミニイカ娘を狩るのが得策、と意見は纏まった。

具体的な捕獲方法はテトラポットの巣穴から少し離れた場所に追い込むようにすると

それほど走り回らなくて済むのではないか?との案が出たのでそれでいく事にした。

今回は色々と仕込みが必要なので決行前はそれらの小道具作りに追われた。

そして捕獲作戦当日。

徹夜で積み込み等の作業を終え、午前3時頃に現場に到着。

ハイエースの後ろには1m x 2mの特注の大きな水槽がある。高さは必要無いので50センチ程だ。

その内側には厚さ3センチのスポンジで壁面を全て覆い、半分に仕切りがされて

仕切りの両側もスポンジが全面覆われている。

天面には真っ黒に塗られた水槽と同じ材質のアクリル板で蓋をしてある。1m x 1mが2枚。

それぞれの中央に直径15センチの丸い穴が開けられ

網掛けの蓋が取り付けられそこからミニイカ娘を入れる手配だ。

蓋の横にはAとBのラベルが貼られている。

まずは天面を取り外し水槽の床に用意していた生の海草、小魚の肉片、

そして小エビ少々をばら撒く。

そして以前の撮影ポイント周辺から砂を回収して水槽の底2~3センチの深さになるように

セッティングする。3人で車と砂浜を往復しながら敷き詰めた。

こうすれば捕獲されたミニイカ娘が空腹でも自力で砂を掘ってエビを食べられるので

餌に対して人間との接触は避けられる。

水槽のセッティングが終ったら、以前撮影したポイントに捕獲道具を運び出し暫く待機する。

このポイントからテトラポットは30メートル近く離れているので肉眼ではよく見えないが

今はミニイカ娘達は食事の為に波打ち際へ移動しているのだろう。

これから始まる捕獲作戦の事を考えるとワクワクする。

同僚達も同じく興奮を隠しきれない様子だった。

前の生態調査の後に「ミニイカ娘を見てると何故かイライラ感が増すんだよね。」という話をしたら

同僚2人も同じ感情を持ち合わせていた様でよくその話題で盛り上がっていた。

今回は最低ノルマの20匹以上を捕獲したら残りは虐めるでしょw、と

悪巧みをしていたので尚更楽しみだった、もちろん職場にはナイショだが。

とはいえ職場内では調査チームと研究チームは何気に仲が良い。

研究チームの友人はプロジェクト発足前は主に磯の生物を中心に研究していた。

海洋生物の研究者なのに「イソギンチャクきもいんだよね^^;」とか言うヤツだ。

仕事として割り切っているらしく、特に海洋生物に興味は無いらしい。

今回のプロジェクトが始まってから「映像解析でずっとミニイカ娘を見ているんだけど

イライラ感が日に日に増すんだよねぇ」と我々と同じ様な事を言っていた。

そして捕獲作戦が正式に発表されると、「早く捕獲してきてよ♪

羨ましいなぁ、俺も捕獲現場に行きたいなぁ♪」と嬉しそうにしている。

「今回捕獲したら具体的にどんな生態研究するの?」と聞いてみた。

「テーマとしては大きく3つに分けて、

どうやって干潮時間(捕食の時間)がわかるのか?と異常に発達した表情筋が

どれくらい知性、知能と比例しているのか?と寿命に関して、というところかな。

捕食の時間に関しては、とりあえず地道に実験をするとして、、、

興味深いのが表情筋と知性、知能の関係だね。

哺乳類でもない僅か5センチの生き物が人間の様な表情と二足歩行等の身体の動きは

今までの常識で考えたら明らかにおかしいでしょ?異星人じゃないか?って言う研究者も

いるぐらいなんだよね、実際。

飼育下や養殖では人間に笑いかけたりとか媚を売る様な態度もするらしいね。

でも野生下では全く必要の無い能力だよね、これって。大自然の中で一体誰に笑いかけて

媚を売れば餌が貰えるの?って話になるじゃん?

もしかしたら発達した表情筋のせいでそう見えるだけであって、実際はその表情に至るまでの

思考や感情は持ち合わせて無く、何か反射的に表情が変わるのでは?と思うんだよねぇ。

それを見た人間が後付けで感情や思考を人間的な解釈で表現をしてるんじゃないかな?と。

ペットのミニイカ娘関係のサイトや虐待系のサイトとか見ていると飼い主が感情移入して

ミニイカ娘に性格付けして読んでて面白いんだけどね。ただ、研究となると

面白いだけじゃ済まないんだよなぁ、これが。

哺乳類でもないのにあざとい知恵があるなんてやっぱり気味が悪いよ。

それこそ真面目な研究者が異星人じゃないの?って思ってしまうのも何となく分かる。

まあ個体によっての性格はあると思うけど表情から推測されるデフォルメされた性格付けとは

また違うと思うよ。

あとね、人間に対しての愛着行動はまず無いと思うよ。ペットのミニイカ娘を例にすると

飼い主はエビを貰える対象としてしか見てないんじゃないかな。

例えば、哺乳類は生まれてすぐに母親から授乳を受ける事で親と子の関係性、そして

コミュニケーションが生まれる。

でもミニイカ娘は卵から生まれて孵化したらすぐに自分で餌を探す。生まれた時から誰かに

育ててもらう、なんて一切無い。だから餌を貰う為に笑いかけたり媚を売る、なんて特殊な能力は

備わってないはずなんだよね。コミュニケーション能力だった無いはず。

それにも関わらずクルクルと表情が変化するのは、、、意味不明だよ。野生下では全く必要のない

能力なのにね。。。あぁ話が脱線したね。今回の研究内容だったよな。

あとは、寿命に関する事。野生では150年も生きる個体は皆無だけど

飼育下では150年生き延びられるでしょ。

あの小さい身体のどこにそんなスタミナがあるのか調べれば長寿の研究にも繋がるかと。

長寿の研究は専門じゃないから違う研究機関に委託するけどね。うちのチームが行うのは

ミニイカ娘のスタミナがどれくらいまでの負荷に耐えられるか?っていうところぐらいまでかなぁ、

、、これがね、実はものっすごい楽しみなんですよ♪」

と、ドSな笑みを浮かべながら続けて、

「当日はもちろん捕獲だけじゃ済まないでしょ?何やるの?」とニヤニヤして聞いてきた。

こっちの思惑もバレバレだ。

「ん~?、とりあえずこのイライラ感を発散してくるよ(笑)あとさぁ、もし余裕があったらで

いいんだけどこのイライラ感がどこからくるのか?、っていうのも調べられるかな?

漠然としているかも知れないけど、俺の予想じゃフェロモンの様な何かが

あると思うんだよねぇ、---」

そんなやりとりがあったのを思い出していた。

今は、捕獲よりも泣き叫ぶミニイカ娘を蹴散らす事が出来るのが待ち遠しい。

この時をどれだけ待った事だろうか。

午前4時過ぎから捕獲の為のセッティングをし始めた。

ミニイカ娘が食事から戻るのにまだ1時間以上あるが現場での仕込みに多少時間が掛かる。

まずは長さが15メートルぐらいある目の細かい網を仕掛ける。

高さは50センチで1メートル間隔に杭が取り付けてある。

これをテトラポットから3メートルぐらいの距離で平行に波打ち際から

砂浜が終る道路の近くまで杭を打ち込んでいく。

<図面参照>

※赤い点と矢印は調査チーム、黒い点、矢印はミニイカ娘。

同僚の一人には捕獲道具と共に待機してもらい、もう一人と網の設置作業を開始した。

杭の付いた網を2人で担いで波打ち際に行くとミニイカ娘が点々と海岸線に居た。

砂浜に展開したミニイカ娘が何匹ぐらいいるのかまだ暗いので分からないが、

発光しているミニイカ娘の灯りが100メートルぐらい遠くの海岸線まで居るのが確認できる。

かなり遠くまで散らばって波打ち際で餌を探しているので2~3メートル四方に

1匹居るか居ないかの密集率。

一番近くのミニイカ娘も3メートルぐらい離れた波打ち際で触手を砂にザクザクと刺しながら

餌を探すのに夢中になっている。

今はまだこちらの存在に気付いて欲しくないので

近くにいるミニイカ娘を避けながら静かに作業をする。

波が引いたギリギリのラインの海中に1本目の杭を差し込む。

海の中に差し込む1本目の杭だけは長く、1メートルの深さまで砂に差し込む。

波によって砂が侵食されてもこれだけ深ければ倒れる事はない。

網をピンと張りながら道路側に向かって2本目、3本目と杭を打ち込む。

足元は砂なので簡単に手で刺せる。

杭と杭の間は網と地面の隙間から逃げ出せない様に網の下の方を砂で盛る。

10本目を打ち込んで振り返るとちょうどテトラポットのミニイカ娘の巣の入り口の少し手前

だったので杭に目印を付ける。

巣の中にはミニイカ娘の姿は無い。食事の時間なので居なくて当然か。

12本目で砂浜脇の道路の近くまで来たので残りは撮影ポイントの方へ向かって打ち込んで

網の囲い作りは終了。

今度は目印のついた10本目の杭の傍に行き杭を少し巣穴の方へ移動さる。

ここだけ網のテンションが強いがまあ問題無い。

10本目の杭が刺さっていた場所に40センチぐらいの深さの穴を掘り

その中に口の開いた段ボール箱を埋める。ダンボール箱の内側は防水対策として

ビニールを貼り付けている。

1.5リットルのペットボトル8本入りのダンボール箱の底に

さっきの海草やら小エビをばら撒き砂で底を少し埋める。

もし捕まえきれずに巣の方向に逃げようとしたミニイカ娘がいたとしても必ずこの穴に

落ちてしまうのだ。ダンボールから抜け出そうにも、内側がビニールなので滑るし

この深さなら脱出は不可能だろう。

ダンボールを埋めた穴周辺にミニイカ娘達を追い込み密集したところを素手で捕獲する予定だ。

この穴をメインに捕獲をした方が楽なのだが、捕獲数が多いとこのダンボール1個では

限界があるのであくまで補助的な役割だ。

そういう理由で素手での捕獲がメインとなった。

仕事というよりも欲求を満たす事が優先されている感はあるが、捕獲方法の制限は無いので

今回は我々のストレスを思う存分発散させてもらおう。

機材を置いたポイントに戻り捕獲準備を始める。

チャックの付いたエコバックの中にコンビニの白いビニール袋を入れる、それだけだ。

柔らかい布のエコバックは個体に傷を付けずに済むのと、内側のビニール袋は

イカ墨でエコバックを汚さない為だ。

同僚の2人が捕獲用の袋を1枚ずつ持ってテトラポットから一番遠い海岸線にいる

ミニイカ娘の場所へ向かう。

そのうちの1人は1メートルぐらいの細いステンレスの棒と笊を腰のカラビナに付けて行った。

何に使うか聞いてみたがニヤニヤしながら「後でわかるよ♪」と教えてくれなかった。

まあ何となく想像はつく。

一人は波打ち際を海岸線沿いに、もう一人は波打ち際から砂浜へ(棒と笊の人)

ミニイカ娘が道路に飛び出さない様に網の方へ誘導しながら捕獲する。

その間に10本目の杭の近くで自分の捕獲用の袋を4枚ほど用意する。

後で分かりやすい様に①②③④と番号を書いた。

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捕獲作戦2(作戦開始)

干潮時間が終わり潮が上がり始める時間になった。

捕獲作戦開始。

空が少し明るくなってきた。

遠くの方で同僚が地面から「何か」を摘んでは肩に掛けた袋に入れたり

足で地面を叩いたりしている。

「何か」はもちろんミニイカ娘であり、地面を叩いているのは在らぬ方向へ逃げ惑うミニイカ娘を

誘導しているのだろう。もしかしたら踏み潰しているのかも知れない。(笑)

彼らも最初はのんびりとやっていたが、少しずつこちらに近づくに連れて忙しそうに動き出した。

密集し始めたんだろう。

同僚の一人はまだ棒と笊は使っていないみたいだ。

そして波打ち際の網の方からテトラポットに向かえずに網伝いに巣に戻ろうとしている最初の

ミニイカ娘がこちらにやってきた。

表情は見えないが触手で網を触りテトラポットの方を見ながらよちよち歩いてくる。

いつもと違う状況に「げしょ~?げしょげしょ??」と不思議そうに鳴いているのが

近づくにつれて聞こえてきた。

不思議そうに、というのは私が勝手に想像したミニイカ娘の感情なのだが。

巣の方に気を取られながら歩いているのでこちらには気が付いていないようだ。

放っておいても勝手に穴に落ちるだろう。

そして案の定、ゴロンと音がして穴に落ちた。

どうせ逃げられないので放っておこう。

波打ち際でなく、砂浜を歩いて巣に戻ろうとしていたミニイカ娘の最初の数匹は

私の姿を見て「げしょっ!?げしょげしょっ!?」と鳴いて警戒した様子で向きを変えて

触手をワラワラと靡かせながらパタパタと波打ち際へ向かって走っていた。

海岸線沿いにテトラポットの中へ入り巣に戻るつもりなのだろう。

まあ何をやっても網で張り巡らせているのでテトラポットどころか二度と巣には戻れないのだが。

深追いせず手の届く範囲で、後ろからサッと掌で掬っては肩に掛けた袋に入れる。

それを繰り返した。

他のミニイカ娘よりも身体が一回り小さくて走るのが遅く、頭をグラグラさせながら「はぁはぁ」と

息を切らして走っているのは今朝上陸したばかりの若いミニイカ娘に違いない。

まだ頭の重さと身体の動かし方、そして重力に慣れていないのだろう。

動きがぎこちなく度々パタンと転んでは再びよちよちと駆け出す。

生まれて初めて感じる重力に対し、バランスの悪い身体は動きにくいだろう。

最初のうちはこの若いミニイカ娘が捕獲し易く、私ものんびりと捕獲していた。

暫くして同僚の姿が近づくに連れて密集しながら逃げ惑いこちらに向かってくる

ミニイカ娘達が増えてきた。

巣に逃げ込もうと砂浜を必死に走るも進路上に飛び出す私の姿を見て

再びパニックを起こし蜘蛛の子を散らした様に色んな方向へ走り

ぶつかったり転んだりするミニイカ娘達。

パニックになり道路の方へ逃げていくミニイカ娘の進路を塞ぐ様に足で地面を叩いて脅かすと

また方向を変えて走っていく。

しかし段々と数が増え始め肩の袋に入れながら道路の方へ逃げていくミニイカ娘を

誘導するのは困難になってきた。

すでに2袋は約15匹ずつ捕獲しチャックを閉じて脇に置いて3袋目に突入している。

すでにノルマは達成している。

というか以前調査した時より全体数が増えている気がした。

まあ多少の変動はあるだろう。

全体数の多い時に捕獲できるのはラッキーだ。

足元で1匹のミニイカ娘が「ぴゃぃ~っ!」と泣きながら道路の方へ走っていった。

遠ざかっていくミニイカ娘の前方にジャンプして両足で進路を塞ぐも

その脇をすり抜けて再び道路の方へ走って行く。

こいつめ~!と思い進路を塞ごうと再びジャンプする。

すると突然走る方向を変えた為にミニイカ娘を全体重で踏み潰してしまった。

潰した!?と思って足を退けてみたが下は砂なので潰れずにうつ伏せで砂に埋まって

ピクピクしている。

身体の作りは頑丈のようだが、傷物になってしまったかも知れないので、今捕獲している

3枚目の袋とは別に4枚目の袋に入れようと帽子の部分を摘み上げた。

「ゲェ、ゲショ~・・・」と力なく鳴く。まだ息はあるようだ。そっと4枚目の袋に入れた。

砂地で踏み潰しても死なないとわかったので、

逃げ惑うミニイカ娘を片っ端から踏み潰す事にした。

ぴぎゃ~!ぎゃひぃ~!と色んな悲鳴を聞いていると何故だかどんどん興奮してくる。

やばい、段々楽しくなってきた。

ちょこまかと逃げ惑うミニイカ娘をジャンプしながら踏み潰す。

道路の方へ逃げ出そうとするミニイカ娘は網の方へ向かって蹴散らす。

蹴飛ばされて砂を巻き上げ転がりながら穴へ落ちていくミニイカ娘もいる。

暫くすると踏み潰されて砂に身体半分埋れピクピクしているミニイカ娘ばかりで

少し静かになった。

それらを4枚目の袋に入れていくが、中には身体が変な方向に捩れて虫の息だったり

運悪く硬い地面で顔や身体が潰されて中身が黒い液体と共に飛び出しているのもいた。

そんな状態で触手だけピクピクと微かに動いているのは不気味だ。

放っておけば鳥の餌にでもなるので潰れた個体はそのままにして、身体が捩れたミニイカ娘は

とりあえず4枚目の袋へ入れた。

中腰になってミニイカ娘を袋に入れていたら段々と腰が痛くなってきたので

膝をついて回収する事にした。

砂浜側の同僚の一人がこちらに近づいてくると共に

パニックになってこちらに走ってくるミニイカ娘もまた増えてきた。

立ち上がって踏み潰すのも面倒になってきたので膝をついたまま掌で小石混じりの砂を

ミニイカ娘に向かって撒き散らす。

まともに正面から砂攻撃を食らったミニイカ娘は後ろに吹き飛び

周りに居たミニイカ娘数匹は目に砂が入ったようで

その場で蹲りながら「げしょ~・・・げしょ~・・・」と涙を流しながら目を擦っていた。

跪いたまま近づいて回収しようと、近くで目を擦っていたミニイカ娘の1匹を

左の掌で掴んでふと顔を上げるとその後ろからもミニイカ娘達はこちらに向かって走ってくる。

パニック状態でこちらには気が付いていないらしい。

涙と鼻水を垂らし「ぎゃぃ~っ!」と奇声を上げながら走ってくる。

左手の中のミニイカ娘はまだ両手の甲で目を擦りながら「うぃ~、んきぃ~・・・」と

顔の左右にある2本の触手を器用に動かし

それぞれ親指と人差し指に絡ませ押し広げようとしている。

こいつを肩に掛けた袋に入れる間も無いな、と思い左手で掴んでいたミニイカ娘を

走ってくるミニイカ娘に目掛けて投げ突ける。

利き腕では無いので手が滑った。

親指と人差し指に絡まった触手がびよ~んと伸びてプチッと千切れ変な回転がかかり

海岸線の方へクルクルと回りながら飛んでいく。

「げしょぉぉぉ~~っ!!!」と断末魔の様な鳴き声が回転によりディレイ掛かって聞こえて

遠くへ飛んでいった。

こいつの回収は、、、同僚が気付いて回収してくれるだろう。

今度は目を擦っていた他のミニイカ娘を右の掌でサッと掴み間髪入れずに

走ってくるミニイカ娘に向かって投げ突けた。

「きぃぇぇ~~っ!」と叫びながら飛んでいき、走ってくるミニイカ娘の顔面にコーンッ!と

軽い音を立てて命中し、そのまま勢いよく後ろにバウンドする。

命中を食らったミニイカ娘は「ぎゃぃんっ!」と短い悲鳴を上げて後ろに3回転ぐらいして

仰向けに倒れた。

その後ろで同僚がニヤニヤしながら足元でのびている私の投げたミニイカ娘を掴んで

袋に入れた。明らかに楽しんでいる。

しかし、まだちょこまかと泣きながら走り回っているミニイカ娘が何匹もいる。

立ち上がって蹴散らそうかと思った時、同僚が砂の上を滑らす様に棒をサッと一振りした。

逃げ惑うミニイカ娘は足元を掬われバタバタッと次々に転んでいく。

「(身長が)5センチしかないのに2足歩行なんて150年早いッスよねぇw」と言いながら

転んだミニイカ娘を笊で砂ごと掬い砂を振るい落としてから自分のエコバックに入れた。

どうやらそれをやってみたかったらしい。嬉しそうだ。

ピクピクして倒れている残りのミニイカ娘を全て4枚目の袋に入れた。

波打ち際の方はミニイカ娘達が巣穴へ逃げ込もうと仕掛けた網伝いに走って来ては

10本目の杭の所にある穴にポトンポトンと面白いように落ちて行く。

その後方から地面を蹴り砂を撒き散らしながら波打ち際側の同僚の姿が近づいてきた。

時々「げしょぉぉぉ~っ!」「ぎょぃぃ~~っ!」といった悲鳴が波打ち際の同僚の方から

こちらに向かって飛んできてはバスンッ!ボスンッ!と砂に中に落ちてヒクヒクしている。

暫くすると動き出し、状況が分からなくなったのかキョロキョロと辺りを見回して

適当な方向へよろよろ歩き出す。

それをもう一人の同僚が掬って袋に入れる。

そろそろ捕獲作戦は終了だ。

そして最後は我々3人に囲まれたミニイカ娘3匹を捕まえるのみになった。

身を寄せ合って「げしょぉ~、、うぃ~・・・」と怯えたように我々の顔を見上げながら鳴いている。

そういえばと思い、試しに親指と人差し指の指先で1匹のミニイカ娘の身体を摘んで

持ち上げてみた。残りの2匹は自分が掴まれると思ったのか仰向けに寝転がり

手足をバタバタさせながら「いぃ~!、ぎゅぃ~っ!」と悲鳴を上げている。

小動物が危険を感じた時の行動と似ていたので思わず笑ってしまった。

掴まれたミニイカ娘は「いぃ~いぃ~うぃ~っ!」と鳴きながら

頭と手足をバタつかせて激しく抵抗する。

そして指先から仰向けにドサッと落ちてヒクヒクしていた。

写真を撮ってみた。

今までは頭の帽子とか身体全体を掌で鷲掴みして気がつかなかったが

身体だけを指先で摘むと柔らかい。

胴体だけを指先で摘むのはミニイカ娘にとっては苦痛なのだろう。

頭の硬さとは対照的に身体は柔らかくデリケートな様だ。

へぇ~こういう感触なんだなぁ、と改めて実感した。

見た感じは3匹とも無傷そうだったので私の3枚目の袋に入れチャックを閉じた。

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捕獲作戦3(撤収)

落とし穴のダンボールの中を覗くと窮屈そうにミニイカ娘達が「ゲショゲショ!」と

大きな鳴き声で蠢いていた。沢山いる。数えるのは後回しにしてダンボールの口に蓋をして

穴から抜き出した。

カラスに狙われたら面倒だ。 

その後穴を埋めて3人で砂浜を歩いて取り残しが無いか調べた。

潰されて黒い液体と共に中身が出ている個体が点々と散らばっている。

触手も動いてないのですでに絶命しているようだ。

空は随分と明るくなってきてカラスの鳴き声が聞こえ始めている。

あいつらの朝飯になるのだろう。

砂浜を隈なく歩き回り取り残しが無い事が確認出来たので

同僚の一人はミニイカ娘の入ったエコバック全員分とダンボールを車へ運び

私ともう一人の同僚は網を取り外す事にした。

潮は随分と上がってきており、1本目の杭を外すのに靴を脱いで膝まで海水に浸かった。

11月上旬の水はかなり冷たい。

本格的に寒くなるとミニイカ娘は冬眠し始めるのでその前の捕獲作戦で良かった。しかも大漁。

水の冷たさと嬉しさでブルッと震えた。

潮が上がって2本目の杭までは水の中の作業になった。

3本目の杭を抜いて網を手繰っていると網の近くで砂まみれでうつ伏せになって

倒れているミニイカ娘を発見した。

掌で掬って仰向けにすると顔は砂だらけだ。泣き疲れて意識を失ったのだろう。

目の下あたりに涙の線に沿うように砂がこびり付いている。

よく見ると顔の左右にあるはずの触手が2本途中で千切れている。

放り投げたミニイカ娘に違いない。

死んだのか?と思い海水に浸けて洗ってやると冷たさで「ぎゃひぃっ!」と短い悲鳴を上げて

手の中でピクっと身体を動かして目を覚ました。

「げぇ~げしょぉ~・・・」とボ~ッとした顔で上体を起こしあたりをみまわしている。

まだ状況がよく分かってないらしい。

回収袋は車に移動したので今更こいつ1匹を連れて行くのは面倒臭い。

騒がれるのも五月蝿いのでテトラポット目掛けて思いっきり投げ付けた。

「んぎぇ!」と変な声と共にグシャッと黒い体液をコンクリートに撒き散らした。

水風船が破裂した様に黒い体液と肉片が飛び散っている。

潰れた身体がテトラポットの下の砂地にポトッと落ちる。

よく見ると変形した顔の左半分が破裂し左腕が肩から腹にかけて裂けている。

色々な臓器が黒い体液と共に砂まみれになって裂けた身体から飛び出していてなんともグロい。

グロいのだがなぜかミニイカ娘に対しては全く罪悪感を感じない。

罪悪感どころか、まだピクピクしている触手を踏み潰して完全に動きを止めたいぐらいだ。

虐待や弱いもの虐めは人一倍嫌いなのだがミニイカ娘に対しては

不思議とそういった感情は生まれてこなかった。

ミニイカ娘が齎す被害をネット上で色々と読んでいたせいもあるのだろう。

場所によってはエビを食い荒らす性質の悪い害獣扱いにもなっている。

10本目の杭を抜いてミニイカ娘の巣の入り口を見ると

数匹のミニイカ娘がこちらを怪訝そうに見ては奥に引き返し、とウロウロしている。

警戒しているのだろう。

哺乳類でも無いのに異常に発達した表情筋が間の抜けた表情を作り滑稽な生き物だ。

研究チームの友人が言うように、そのクルクルと変化する表情から

人間の都合の良いように解釈できる様な思考力のある生き物と誤解しがちだが

たかだか5センチの生き物が知能や知性を持ち合わせているはずがない。

過酷な自然環境に翻弄され常に死と隣り合わせで生きるのが良いのか、

それとも研究所で研究対象として生きるのかどちらが幸せなんだろうな?などと思いながら

巣の横を通り過ぎて杭と網を回収し、車に戻った。

捕獲道具を車の後ろに積み込む。

回収されたミニイカ娘はまだエコバックとダンボール箱の中のまま水槽の横に積まれていた。

①と②のエコバックには研究チームが欲していた理想の状態のミニイカ娘が入っているので

数を数えて傷が無いかを確認しながら水槽に入れていく事にした。

①のバックを空けてみる。

チャックが開くのに気が付くとか細く「ぴ、ぴぃ~」「げしょ~」と上を向いて鳴く個体もいたが

暴れたり泣き喚く個体はおらず大人しいものだった。

ほとんどのミニイカ娘はうつ伏せか仰向けになって寝転がっていた。

中には起き上がってヨチヨチ歩いてみては寝転がっているミニイカ娘に躓いて転んで

「げしょぉ~・・・」と再び立ち上がろうとするのもいる。

ところどころ吐かれた墨で汚れている。

初めての陸上で突然何が起きたのか理解出来てないのと

重力で身体の重さに疲れているらしい。身体の重さはそのうち慣れるだろう。

1匹づつ掌で掬って身体の傷をチェックしてカウントしAの蓋から水槽に入れていく。

抵抗は殆ど無かった。

②のエコバックの個体も全て若いミニイカ娘で①と②トータルで31匹いた。

③のエコバックは若いミニイカ娘と上陸後1日以上のミニイカ娘の混合だった。

チャックを開けると「げしょ~!?げっしょげしょぉ~??」と

見上げている個体もあれば怯えながら身を寄せ合うミニイカ娘も数匹居る。

①と②に比べて数が多い。

身体の一回り小さいミニイカ娘を先に選別してAの蓋から水槽に入れる。6匹いた。

逃げもせず捕まえやすい。

残りのミニイカ娘達は身体の傷を確認しながらBの水槽へ入れる。こいつらは警戒して

手を入れる度に怯えた表情でハァハァと、息を切らしながらビニールの中をカサコソと走り回る。

1匹ずつ掬う度に「ぎゃぃぃぃ~っ!」とか「びゃぁぁぁ~~~っ!」とか物凄く嫌そうな顔で

悲鳴をあげて掌の中で手足をバタバタさせて暴れまわる。

必死なのだが見てると笑えてくる。

全部で14匹、特に傷もなかったので全部Bの蓋から水槽へ入れた。

④のエコバックは傷物だらけなので後回しにして

先にダンボール箱のミニイカ娘から処理していく事にした。

蓋をしている状態でも中からガタゴトとダンボールを叩いたりぶつかったりする音が聞こえてくる。

それらの音と共に「げしょ~!げしょげしょげしょ~・・・」と色んな鳴き声が聞こえてくる。

蓋を開けると突然明るくなったのでさっきより騒がしくなった。

中を覗くと底が見えない程のミニイカ娘が仲間に攀じ登ったりバランスを崩して逆さまになったり

様々だが、これだけ沢山いるとウネウネと動いている触手が気持ち悪い。

無傷で健康なミニイカ娘も多数居ると思われるが手を入れる気を無くしてしまった。

数える気にもならない。

すでにノルマは達成しているのでこいつらは必要無い。

同僚と相談し、後回しにする事にしてダンボールの蓋を再び閉じた。

同僚が回収したエコバックはそれぞれ1袋ずつ。

海岸沿いから捕獲していた同僚のエコバックには主にボテッ腹で動けなくなっていたミニイカ娘が

多かった。

手で掬ってみても、未だそれどころでは無いらしく「う~ん、う~~ん」と青い顔で唸っている。

見た感じでは傷は無く時間が経てば普通に回復するだろう、と見込みBの蓋から水槽へ入れた。

全部で9匹。

全体数から見れば9匹は少なく感じた。野生下でボテッ腹になるまで餌を食べられる個体は

よっぽど運が良いのだろう。

足の遅かった若い固体が4匹、Aの水槽へ入れる。

残りは蹴散らされてヒクヒクしていた個体が6匹。

怪我をしている可能性がるのでとりあえずダンボールの中に纏めて入れた。

もう一人の同僚のエコバックは足払いを喰らった個体や投げられた固体等20匹近くの

ミニイカ娘が力なく横たり苦しそうな顔で「ううぅ・・・げぇしょぉ・・・」と

苦しそうな呻き声を上げている。

無傷だった身体の小さい若いミニイカ娘だけ掬い上げてAの水槽へ入れる。全部で5匹。

それ以外に無傷のミニイカ娘は見当たらない。まるで戦時下の救急病棟の様だ。

足払いを喰らったミニイカ娘の足をよく見ると変な方向へ折れ曲がっているのが多い。

同僚の足払いが勢いよすぎたらしい。

同僚は「あは、やっちゃっいましたぁ~、テヘ」と明らかに反省していない。

「おっさんがテヘとか言うな(笑)」

というか「俺も足払いはやりたかったなぁ・・・」と徹夜明けの変なテンションで盛り上がる。

面倒臭いのでこの同僚のエコバッグのミニイカ娘も全てをダンボールに流し込んだ。

そして最後に私の4枚目のエコバッグ。何匹居るのか分からないが全て傷物のミニイカ娘。

同僚と話し合ってこれも廃棄、という事で数も数えずにダンボールに流し込んだ。

Aの蓋から水槽に入れた若いミニイカ娘はトータル46匹。

Bの蓋から水槽に入れた通常のミニイカ娘はトータル23匹。

傷物やらが混ざったミニイカ娘はダンボールの中に多数居る。

箱の中は折り重なるように蠢くミニイカ娘。「げしょげしょ!げしょ!」と五月蝿い。

無傷な個体は後から入れた傷物のミニイカ娘に攀じ登っている。

傷物で動きの鈍い個体は自然と下の方へ踏み潰されている様だ。

カオス状態だ。80匹位いるのではないか?

箱の1/3ぐらいの高さまでいる。一番下の個体は生きているのだろうか?

箱を軽く蹴ると下の方からも「げしょぉ・・・ぴ、ぴぃ~!」と細い声が辛うじて聞こえた。

(続く)

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捕獲作戦4(後処理)

段ボール箱の中に入っている大量のミニイカ娘は研究チームには渡せる条件の個体ではないし
我々が持ち帰って飼育する事も許されない。
何気に最初からこうなる事は分かっていた、というか我々は望んでいたのだ。
ここまで大量になるとは思いもしなかったが。
とりあえず蓋にガムテープをして箱を横向きにした。
箱の中は重力の向きが突然変わったので大騒ぎ。
しかし横にした方が床面積が広いので少しは楽だろう。
暫くして少し静かになった。


時刻は朝7時半を回ったところ。近くのファミレスへ車を移動して朝食にした。
朝食後は一息ついて眠気覚ましのコーヒーを飲む。
そしてダンボールの中の大量のミニイカ娘をどう処分するかについてミーティングをした。

「しかし・・・あれだな、捕獲作戦というよりまるで害獣駆除だったな」と切り出す。
どうやって始末するか色々と話し合った。
暫くして携帯が鳴る。研究チームの友人からだ。
「おはよ、昨夜からごくろーさん、で、どんな感じ?」と捕獲が気になって電話してきたらしい。
「余裕でノルマ達成だよ。でもさ、ちと問題があってなぁ・・・傷物がいっぱいいるんだよ。
そっちに渡す個体とは分けてダンボールに入れてあって、その中には無傷のも
いると思うんだけど、鮨詰め状態でさ。感染症の事もあって個人的には持って帰れないじゃん?
どうやって処分しようか考えてた所だよ。」
「ちょうどよかった。新たに感染症の実験をしよう、って話が出てさ、調査チームで飼える人居たら
10匹づつ飼って欲しいんだよね。」
「えぇ?突然決まった訳じゃないでしょ?何で昨夜出発前に言ってくれなかったの!」
「ごめん、忘れてたwテヘ♪」
「おっさんがテヘ言うなw それ最近流行ってるのか?」
隣りにいた同僚達は友人とのやりとりを聞いて大爆笑。
それから少し詳細を聞いた--
「もうちょいしたら帰るわ。そっち戻るの10時ぐらいかな?」
「オッケー、じゃまた後で。」
電話を切りニヤニヤしている同僚達に
「感染症の実験もしたいんで飼えるんだったら飼ってくれ、ってさ、一人10匹だって。」と
電話の内容を伝える。
「餌代は実費で出るからレシートを給料〆日に提出だそうです。」
予想外の展開に2人共驚いたようだが乗り気な様だ。
私も驚いている--

暫くしてファミレスを出た。

 

車に戻りドアを開けると、中から磯の生臭い臭いがぷ~んと立ち込める。
「臭っせ~!」と乗り込んだ同僚達は窓を開ける。
水槽の中のミニイカ娘はスポンジが吸音材の役割を果たしているので静かだ。実際は
どうなっているのかは分からないが、スペースも広いので問題無いだろう。
ダンボールのミニイカ娘は我々が戻ってくる音に反応して「げしょしょ!」と再び五月蝿く
鳴き始めた。

研究所に到着して研究チームに依頼されたミニイカ娘の入った水槽を引き渡す。
水槽の中を確認していた研究チームの友人は「いいね、良い個体だよ。」と満足そうだ。
「そっちは良い個体を選別してあるから問題無いんだけど、問題はこっちなんだよ。」と
友人の方を向きながら足元の段ボール箱をコツコツとつま先で小突く。小突く度に中から
「ゲショ~ッ!」「ピィ!」「ゲショゲショ!」と鳴き声が五月蝿い。
「さっき(電話で)言ってたのはそれの事かぁ。」と
段ボール箱を縦にしてガムテープを剥がして中を覗きこむ。途端鳴き声はさらに五月蝿くなる。
「箱に入れられてからこの状態ですでに4時間近く経つんでしょ?
普通の生物なら、こんな鮨詰め状態だったらかなり衰弱してるのにコイツら元気だな(笑)」と
箱の中を覗いたままニヤニヤしていた。
「多分弱ってるヤツは下の方へ追いやられているよ。それでだ、さっきの電話の件を伝えたら、
我々3人は飼育可能だからとりあえず飼育分は何匹か貰っていくよ。
ただ、この中に手は突っ込みたくないんだよね。見ててキモいだろ?
使ってない水槽近くにある?」と尋ねると友人は「ちょっと待ってて」と行ってしまった。
暫くして台車に水槽を載せて友人が戻ってきた。大きさは段ボール箱の2倍ぐらいはある。
「これでいい?」「とりあえずだから大丈夫、サンキュー。」
その水槽に段ボール箱のミニイカ娘を流し込んだ。夥しい数の悲鳴が聞こえる。
水槽の中央に折り重なるようにミニイカ娘の山が出来た。
完全にモノ扱いだ。
水槽に落とされた衝撃と上から降ってくるミニイカ娘に押しつぶされたりして
元気だったミニイカ娘も少し静かになった。
暫くするとミニイカ娘達は「ゲショゲショ」鳴きながらモゾモゾと動き出して
山が少しずつ平らになっていった。
床面積が広くなったとはいえ全部が折り重ならない様に広がると満員電車の様になって
身動きが取れなくなっている。
さっきより触手と手足が動く様になると今度は喧嘩をするミニイカ娘が出てきた。面倒臭い奴らだ。
元気そうなミニイカ娘の帽子を摘んで持ち上げ10匹ずつ3枚のエコバックに入れ
同僚に1枚ずつ渡す。
水槽の中は少しスペースが出来てミニイカ娘達は歩きまわれる様になった。
「残りはどうしよ?もともと殺処分の予定だったけど。」と言うと友人は
「活きの良い奴は残しておいてくれる?ミニイカ娘を欲しがってる知人が居るんだよね。」
「じゃあ傷物だけ分けて処分するよ。」と傷物のミニイカ娘をさっきのダンボール箱に入れる。
殆どは足や腕、身体が捩れて歩けなくなっている個体だ。24匹居た。
「今から殺るの?」と友人。「うん、眠いからさっさと片付けて帰るよ。」と引き上げる準備をした。
「本当はそいつらが感染症を調べるのに適性な個体なんだけどスケジュール組んじゃったから
今は必要無いんだよね。俺も行きたいけどやる事沢山あるんで、楽しんできてね♪
あ、一応目立たない所でやってね、クレーム来ると面倒なんで(笑)」と、
水槽の中を一通り見て「若い固体が多いね。知人も喜ぶよ。」と
台車を押して友人は行ってしまった。
そうなのだ、ここは研究所なので、ミニイカ娘の被害を訴える人々の側でも
愛護団体の側でもない中立の立場でなければならない。
というのは建前なのだが。

 

調査チーム一同は一旦オフィスに戻った。
持ち帰り用ミニイカ娘の入ったエコバックを置いて傷物のミニイカ娘の入った
ダンボール箱を持って研究所の裏の駐車場脇にある人目に付かない空き地へ行った。
すぐ傍に焼却炉がある。
持ってくる途中で同僚が「ミニイカシェイク!」と言いながら蓋を押えてバーテンの様なポーズで
強く振っていた。
箱にゴロンゴロンとぶつかる音と共に「げしょぉぉ~~っ!ぴぃぃぃ~!」という悲鳴。
普通死ぬだろ?と思ったが、さすがに生命力は強靭だ。
暫くするとダンボール箱の中から「げぇ、げぇしょぉ・・・」と弱々しい泣き声が聞こえてくる。

「さてと、殺りますか。」
笊を持っていた同僚は色々と準備をしていたらしく、持ってきた鞄の中を漁っている。
「何持ってきたんだよ?」ともう一人の同僚も鞄の中に興味津々だ。
半透明のコンビニのビニール袋を取り出した同僚は「鞄の中見てていいよ」と
もう一人の同僚に声を掛け3匹のミニイカ娘を段ボール箱から掬い上げ
ビニール袋に移しグルグルと回し始めた。
中から「あわわ、あわわ!ぴぃ~!」と泣いているのが聞こえる。
段々とスピードが増し遠心力が強くなると、泣き声も聞こえなくなった。
「フィニ~ッシュ!!」と言って加速のついたビニール袋をコンクリートの地面へ叩きつける。
鈍い音がして、同僚は袋ごとグシャグシャと踏みつけた。
鞄からステンレスのボールを取り出しビニール袋の中身を流し込む。
真っ黒な液体に浸った臓物、腕や顔であっただろう肉片、触手の断片などグチャグチャに
なっていた。
同僚はそれを見ながら「塩辛食いて~な。」と嬉しそうだ。

 

鞄の中を物色していた同僚は何かを思いついた様に「あ、そうだ」と言って
立ち上がりタバコを吸い始めた。
そして段ボール箱の中にふぅ~っとタバコの煙を吹き込む。すると箱の中から
「ゲッゲホゲホッ、ウゲ~」とミニイカ娘の咳込む声が聞こえてくる。
1匹のミニイカ娘の触手を摘み上げた。
モミアゲ部分の触手を摘み上げられたミニイカ娘は痛いのか両手で触手の根元を押えて
必死の形相で「げしょ~、んきききっ、んしょ~!」と鳴いている。
両足は変な方向へ捩れ曲がりブラーンと垂れ下がったままだ。
足払いを喰らった個体だろう。
触手を掴んだまま顔に向けてタバコの煙を吹きかける。
触手を軸にクルクルと廻りながら「げぇ、げっげほごほっ!」と咽た様に咳込み
「うげぇ~」とイカ墨を吐き出した。
同僚の手や足に吐き出されたイカ墨がかかる。
「きったねーなぁ、コイツ」と言いながら同僚は掌にミニイカ娘を持ち替えて
親指と人差し指で頭を固定する。イカ墨を吐いて体力を消耗したのか
「うぃ~、ひぃ~、げしょぉぉ・・・」と力なく鳴いていたが、同僚と目が合い
「ひぃ~、んぴぃぃ~、いいぃぃ~」と顔を背けようとするも頭は固定されていて
身体が左右に動くだけだ。足は動かない。
タバコの火種を足に当ててゆっくりとタバコを吸い込むと火種が赤く燃え上がり
じゅ~っと足が焼けてポトッと足先が落ちた。
「ぎゃぃぃ~ん!!」と悲鳴を上げる。
神経はまだ通っていたらしく、痛みでびぇ~びぇ~と泣き出した。
「火の始末はちゃんとしないとね♪」と同僚は
大口を開けて泣いているミニイカ娘の口の中にタバコを捩じ込み火を消し始めた。
「んごごごっ!ぅごぉぉぉ~!」と声にならない声で呻く。
タバコをグリグリやってるとジタバタしていた両手がぶらーんと動かなくなった。
「150年も生きられる耐性があるのに、あっけないなぁ」と言って同僚は
蓋の開いた焼却炉の中へ投げ入れ、再び鞄の中を物色し始めた。
それを見たもう一人の同僚も面白がってタバコに火をつけて1匹のミニイカ娘を掬って
タバコの煙を吹きかけながら弄繰り回して遊んでいる。
そんな状況を見ていたが、なんせ眠い。もう30時間以上寝てないのだ。
「1匹づつ絞めると時間掛かるからさ、手っ取り早くやって帰ろーぜ」と言うと
「あ、ちょっとやってみたい事があるんですよ~。」と鞄を漁っていた同僚が小エビと瞬間接着剤を
取り出した。鞄の持ち主の同僚が「俺も手伝う♪」とミニイカ娘を1匹掬い上げた。
この個体も足と下半身が捩れて痛みで「ん~、ん~」と苦しんでいたのだが
小エビを咥えさせるとゆっくりと食べきった。

 

再び小エビをやるとムシャムシャと勢いよく食べてもっとくれ、と言わんばかりに
「げしょ~げしょ~!」と鳴き始めた。痛みよりエビの方が優先されるらしい。
瞬間接着剤を取り出した同僚が小エビに瞬間接着剤を塗りたくってミニイカ娘に咥えさせる。
嬉しそうな表情で小エビを咥えたものの口を開けて「ぉげぇ~げほぉ~!」と
変な鳴き声を出し始めた。
よく見ると小エビが舌と上顎の間でくっついて離れないらしい。
自分の手を口に入れて舌を引き剥がそうとしているが、取れる訳が無い。
ジタバタしているミニイカ娘の頭、顔、身体と触手1本1本に瞬間接着剤で
小エビをペタペタと貼り付けた。
体中に小エビがくっついても気にする様子も無く口の中にくっついてしまった小エビを剥がそうと
もがいている。
そして小エビまみれになったミニイカ娘を段ボール箱の中にそっと置く。
段ボール箱の中で呻き声を上げていたミニイカ娘達はエビの匂いで小エビの貼り付いた
ミニイカ娘に気が付いて「げしょ!?げしょげしょぉ!?」と鳴き出し取り囲むように
集まってきた。
どうなるのかと3人で箱の中を覗きこむ。
取り囲んだミニイカ娘達は何の躊躇も無く小エビが貼り付けられた部分だけをミニイカ娘ごと
食べ始めた。
小エビごと身体を齧られたミニイカ娘は「あひぃ~っ!げほぉぉ~!!」と
変な悲鳴を上げていたが帽子や顔に貼り付けられた小エビと共に齧られていくと息絶えたのか
声は聞こえなくなり身体もぐったりと動かなくなった。
身体の表面を全て食われたミニイカ娘は原型を留める事なく黒く染まった肉片や臓物やらに
なってしまった。
「面白い生態が観察できましたねぇ♪」と同僚は目を輝かせている。
小エビごと共食いをしたミニイカ娘達は食欲に火がついたのか、身体の痛みも忘れて
ダンボールの底から我々を見上げて「げしょ~!げしょぉ~っ!」と鳴き始めた。
口の周りや身体はイカ墨で汚れている。
「じゃぁそろそろ終わりにしましょうか」と同僚の一人は段ボール箱を斜めにして
角にミニイカ娘達を集めた。
箱の角の隅に折り重なる様に蠢くミニイカ娘の上にたっぷりと瞬間接着剤を垂らしていく。
ミニイカ娘同士が張り付き団子の様になっている。
箱を水平に戻すと、団子状のミニイカ娘達はゴロンと箱の中を転がった。
「げしょぉ~!!ぴぴぃ~っ!ぎゃひぃ~!」と色んな鳴き声が聞こえる。
貼り付いた身体を剥がそうと必死だが、中には帽子と触手の境目が千切れそうになり
狂ったように暴れているのもいる。そのミニイカ娘に貼り付いた他のミニイカ娘も
貼り付いた部分が無理矢理引っ張られ触手が千切れたり皮膚が捲れたりしている。
その上から再びたっぷりと瞬間接着剤を垂らしていく。

もう一人の同僚はその上から小エビをばら撒き始めた。
小エビが団子状のミニイカ娘達の身体に張り付いていく。
こんな状況でもエビを見ると食欲にスイッチが入る様で、団子状のミニイカ娘達は
半狂乱の状態だ。
エビごとお互いの顔や身体を齧りあい引っ張ってはお互いの身体が千切れたりで
僅か5分程度でミニイカ団子は崩れ、身体がバラバラになって
原型を留めて無い個体ばかりになった。
かろうじて顔の原型を留めている個体は「げぇ・・・しょぉ・・・」と虫の息だ。
「終りますか」と同僚はジッポーオイルを箱の中に振り撒いた。
そしてダンボール箱を焼却炉の中に置いてマッチを擦り箱の中に投げ入れた。
ボッと火が上がる。
火の上がった箱の中から「ぴぃぃ~~っ・・・」とか細い断末魔の悲鳴が複数聞こえて
バチバチと燃え上がった--

 

長い1日だった。
後半は疲れと眠気で何だかよく分からない状態だったが、今までの様な調査後のストレスは
全く無く、逆にスッキリとした気分だった。
家路に向かう車の中でハンドルを握りながら色々と今日あった出来事を考えていた。
ひとつスッキリしない事もあった。
研究チームの友人が言っていたクレームについてだ。
そう、ここは海洋生物生態研究所であり世間的には中立の立場を保たなければならない。
駆除の一環として廃棄してきたが、
愛護団体等に見られたらクレームが出てもおかしくは無いだろう。
クレームだけで済めば良いが問題が大きくなれば研究所自体の立場も危うくなる。
建前とはいえ今後は軽率な行動は取らないように慎重に行動しなければ、と
自分に言い聞かせた。

信号が赤に変わり車を停止させる。
「さて、こいつらをどうするか、だな」
助手席に置いた10匹のミニイカ娘の入れられたエコバックを見る。
中の様子は分からないが袋がモゾモゾと動いて、
時々「げしょ・・・ぴぃ・・・げしょげしょ・・・」と鳴き声が聞こえる。
捕獲されてから6時間近く過ぎていて若干鳴き声に元気が無くなった様にも思えるが
150年も生き長らえる強靭な生命力があるのを考えると
「6時間ぐらい拘束されても、こいつらには大した事無い出来事なのかもな」と独り言を呟いた。

後ろの車からクラクションを鳴らされて我に返り、信号が青に変わったのに気が付いた。
帰ったら冷蔵庫に残っていた小魚の切り身とわかめをエコバックに放り込んで
とりあえず眠ろう。そして起きたらこいつらをどう飼育していくか考えよう。
この睡魔ではまともな判断が出来ない。
眠気覚ましにカーステレオのボリュームを上げ家路を急いだ--
(捕獲作戦編end)

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