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ゲショゲショ!

夏の日のミニイカ様
夏の日のミニイカ 5
「はぁっ…はぁっ…はぁっ…はぁっ…ゲッショ…ゲッショ…」
海岸線の賑わいとは打って変わり人影の無い住宅街を、ミニイカ娘は脱兎のごとく駆けて行く。
夜の帳が降りた静かな町中では、花火の音と光はかえって強調され、
紅い閃光が背後から地面を照らし自分の影を浮き上がらせる度、ミニイカ娘は「ひいぃっ」と一層速くなる。
徐々に息切れし体力も減り、何度も躓いて「げひゃんっ!」と転がるが、決して止まることはしない。
海からやって来た恐怖の大王は、怒りで夜すら明るく燃やしているのだ。
だがすでに気力だけでは限界だった。先程の人間達の踏みつけ攻撃も応えたし、
柔らかい砂浜と違い固いアスファルトは、ただ走るだけでも手足を痛めつけた。

ミニイカ娘は隠れられる場所を探して、走りながら左右を見渡していたが、
背後の爆発で夜が昼に変わった一瞬、電柱の根元から一筋の長い闇が伸びているのを見つけた。
「ゲショォッ!!」とミニイカ娘は歓声を上げ、素早くその影に身を翻した。
電柱に背中を張り付け、「がはぁっ…はぁ…はぁ…ぜぇ…」と荒い息を整える。
何度も爆発が起こっても、ここの狭い空間だけは不思議と夜を保っている。
ミニイカ娘はへなへなとしゃがみ込むと、安堵のあまり「げそ…げそぉ…えへへぇ~…」と笑い出した。
手足はびりびりと痙攣し、心臓がバクバクと今にも破裂しそうに波打つ。
これまでに経験したことの無い運動量に、自分の体が自分ので無いようだった。
そうしてしばらく息を整えていると冷静さを取り戻し、これまでの体験が思い返された。
想像を絶する恐怖、爆発、炎、大量の人間の足、迫り来る巨大な何か…。
全てがこの年若いミニイカ娘の経験を上回り、遺伝子に組み込まれた自然の常識を超越している。
またあの浜辺に戻りたい、いつもお腹をすかしていたけど、仲間達のいる平和なあの生活へ―。
「…うっ…うぅ…くっ…ぐすっ…げしょおぉ…げぇしょおぉお~…」
ミニイカ娘はショックのあまり、なり振り構わず泣き出したのだった。

ミニイカ娘が泣き続けていると、背後から光が迫って来た。
爆発の光とは違い、消えること無く大きくなる持続的な光だ。
そして近付いて来る特有の轟音に、ミニイカ娘は「…げそ?」と気付いた。
この音はさっき聞いたことのある、巨大な―。
涙を慌てて拭いて、電柱からそぉっと顔を出して恐る恐る背後を覗き込むと、
車のヘッドライトが目に突き刺さり、ミニイカ娘は「ギャアッ!!」と悲鳴を上げた。
強烈な光で視界を潰され、逃げようにも逃げられない。
ミニイカ娘は背中を電柱にベタッと張り付け、「ひぃいいぃっ~!!」と震えあがった。
視力が戻ってくると、恐ろしいことに目の前の安全だった闇が狭くなるのが見えた。
轟音が徐々に唸りを上げて迫り、その光線が安全地帯を侵食してゆく。

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夏の日のミニイカ 4
だがそこは、予想よりはるかに危険な世界だった。
ミニイカ娘が雑踏の中へ降り立った瞬間、浮き上がった巨大な足が迫って来た。
「ひっ!!」
驚いたミニイカ娘は踏まれまいとして、頭を抱えてその場にしゃがんだが、
足の裏がイカ帽子の先端をヂッ!!と擦ってしまい、「ギャッ!」と悲鳴を上げて倒れこんだ。
「ああぁぁあぁ~っ!!」
起き上がったミニイカ娘は、なんとかこの雑踏から脱出しようと逃げまどった。
イカ帽子の先端は僅かにひしゃげ、皮がめくれて肉が見えていたが、気にしてなどいられない。
ミニイカ娘は人々の足の動きを見極めようとしたが、あまりに無謀な行為だった。
「ひぎゃっ!!」「げぇっ!!」「い゛っ…!!」「げじょぉっ…!!」
まるで殴られ屋のように、一方的に顔や肩や胸や腹など全身を隈無く蹴られながらも、
ミニイカ娘は隙をついて走り続けた。立ち止まったらそれこそ群衆に踏まれてしまうからだ。
やがて人々の脚の間に光を見付けたミニイカ娘は、「げしゃあぁっ!」と大喜びしてその方向へ駆けたが、
その油断から背後で触手を踏まれて、「ぎあぁ!!」と仰向けに転倒してしまった。

「げっ…!」「げしょあ゛っ…!」「げじょお゛ぉっ…!!ブプッ…ブブゥッー…!!」
次々と足蹴の洗礼を受け、ミニイカ娘はイカ墨を撒き散らしながら虚しく抵抗した。
「わっ!何か踏んだぞ!」「うあ、濡れた!何だぁ!?」「下に何かいる!」
幸い人々は踏んでもすぐに足を上げるため、ミニイカ娘は致命傷を負わずに済んだ。
徐々に群衆に滞留が出来、慌てた警察官が駆け寄ってこれを大声で捌く。
その隙にミニイカ娘は起き上がると、「ガハァッ…ハァッ…ゼェッ…ゼィッ…」と荒く息を整え、
動物らしく四つん這いになると、「…ゲショッ!!」と勢い良く駆け出す。
足の間を縫い、それを飛び越え、ついに雑踏から飛び出した!

打撲と擦り傷で全身が痛み、砂と泥とゴミと自分の体液で汚された屈辱など忘れ、
ミニイカ娘はドブネズミのようにひたすら走り続ける。
その様子は、まるで自分の醜い惨めな姿を人前に晒したくないようにも見えた。
ミニイカ娘が道路を横切った瞬間、交通規制を解除された一台の車がそこに迫って来た。
人間の誰かがそれを見て叫び、振り向いて車に気付いたミニイカ娘は「ギャッ!!」と横に飛んだ。
車は急ブレーキで止まったが、ミニイカ娘はまるでぶつかったように弾け飛ぶと、
着地の姿勢など考えていなかったため、そのまま地面に激突して「ギャピピッ!!」とゴロゴロ転がった。

「うわぁ何だアレ…」「やだ、汚~い」「ドブネズミかよキモイなぁ」
人々がそれを軽蔑した眼差しで一瞥し、警察官が近付いて来てつま先でつついた。
ミニイカ娘は謎の巨大な機械に轢かれそうになった恐怖とショックで放心状態になり、
仰向けのまま白目をむいて、「…ぇ…ぇそ…」とぴくぴく痙攣している。
警察官がミニイカ娘を摘もうとした瞬間、また空で花火が爆発し、
ミニイカ娘は「ぴゃあぁっ!!」と蘇生したように飛び起きた。
「あわわわぁあ…」と狂ったようにその場でぐるぐる回り、再び「ゲジョッ!!」と走り出す。
呆気にとられた群衆を尻目に、この四つん這いのドブネズミもどきは、明かりの少ない住宅街へ消えていった。

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夏の日のミニイカ 3

『…○○市花火大会へようこそお越し頂きました。まもなく開始いたします…』

頭の中にぐわんぐわんと響き渡るアナウンスに、ミニイカ娘は「…お?」と目を覚ました。
人間達の言動がやおら静かになり、皆して海の方向の空を見上げている。
それに興味をそそられたミニイカ娘は、だらしなく垂れたヨダレを拭き取ると、
「ふぇ」と耄けた声を上げて自らも寝ぼけ眼で海側の空を注視した。

空気を弾くような音が鳴り、人々が歓声を上げると、海面から火の玉が空を切り裂くように昇っていく。
尾を引くように伸びる奇妙な高音と、今までに見たことの無い虹色の妖しい光に、
ミニイカ娘は呆気にとられて「ほぇ~…」と眺めていたが、一瞬闇が戻った後、突然空が爆発した!
ミニイカ娘が「ギャッ!!」とその場に尻餅をつくと、すかさずドォン!と大地が揺れる。
「ゲジャアアァァ~ッ!!!」
炎の第二波が上がり、空が再び爆発すると、ミニイカ娘は脱兎のごとく駆け出した!

「ヒイィィ~ッ!!」
地面がまたもドォンと揺れ、あの人間達ですら悲鳴を上げている。
とにかく海から離れなければならないが、背後の陸側は高い壁がそびえて立っている。
ミニイカ娘は「はわわぁ…!」と壁の真下で右往左往してたが、ふとその端に目をやると、
壁が切れて人間達がぞろぞろと出て来る場所があった。階段の登り口だ。
「ゲショ!」とミニイカ娘はそこまで走り、折り返して段差に突き当たった。
自分の身長より僅かに高い石段がいくつも並んで山の斜面のようにそびえ、
おまけに人間が大量に昇り降りしていたが、ミニイカ娘に躊躇している暇など無い。
そうこうしている間にも世界の終わりが海から迫って来ているのだ。

「ハァッハァッハァッ…んっしょ、げっしょ…ハァッハァッ」
ミニイカ娘は両手と触手を使って苦戦しながら、石段を休み無く一つずつ上がってゆく。
人間があまり足を踏み入れない階段の端を昇ったが、そこはゴミが散乱し悪臭が鼻をついた。
徐々に車や警笛の音が近くなり、ついにミニイカ娘は階段を上がりきって地上に出ると、
そこは野生の生き物には想像も出来ない世界が広がっていた。
浜辺など比較にならない数の人間の群れ、そして恐ろしいスピードで走り去る巨大な人工物。
夜の路上を照らす信号や交通整理等の照明は、世界が燃えているように解釈出来た。

あまりにも多過ぎる未知の脅威に、ミニイカ娘は「ひいぃいぃぃ…」と歯を鳴らして怯えていたが、
背後の空から再び爆発が起こると、「ゲジョアァァッ!!」と驚いてコロンと前に倒れた。
それがこの動物の生存本能を呼び戻した。
「ゲショッ!!」
起き上がったミニイカ娘は、迷う事無く人々の雑踏の中へ飛び込んだ。

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夏の日のミニイカ 2
 
しばらくすると、餌の山から海老が消えた。
「げしょぉ…」とミニイカ娘は寂しそうにその山をかき分けていたが、
海老が無いと気付くと少し不機嫌になり、仕方なく良い臭いはするがあまり興味をそそらない、
他の餌にも手を出してみることにした。

ますは焼きソバのキャベツを掴み、すんすんと臭いを嗅ぐが、これはすぐに「…チッ!」と放り投げた。
次に最も多い焼きソバの麺の切れ端だ。臭いを嗅いでから一口頬張るってみると、
あまり美味しくはないが食べられないこともないと判断し、これは手元に残しておくことにした。
次にその大きさからとても気になっていたタコ焼き。まずは衣をむしり一口食べてみる。
これは先程の麺をさらに味気無くしたような感じで気に入らず、わざわざ食べる気にもならず「…チッ!」と捨てた。
ミニイカ娘は好奇心からタコ焼きに両腕を突っ込み、それをむしると、中から赤い身が出て来た。
馴れ親しんだ海鮮の臭いに興奮し、鼻をくっ付けてフンッフンッと一心不乱に臭いを嗅ぐ。
「…げしょお!」と思わず笑みがこぼれて、タコの身をパクッ!………「…チッ!」。

あれも「…チッ!」。
これも「…チッ!」。
それも「…チィッ!」。
ミニイカ娘は増々機嫌が悪くなり、最後に砂まみれになった紅生姜を取り出した。
ソースと砂の香りに混じる微かな酸臭に、その正体を見極めようと臭いを嗅ぐ。
やがて恐る恐るそれを一口かじると、経験したことの無い刺激が口いっぱいに広がった!
「…ギャイィッ!ベエェッ!!」と紅生姜を吐き出し、ペッ!ペッ!と唾も吐き出すと、
ミニイカ娘は「きいいぃ~っ!!!」と癇癪を起こし、残った餌の山に触手で砂をかけた。
「ぎいぃぃ~っ!」と喉を掻きむしり、大急ぎで砂にまみれたタコ焼きを頬張ったが、
砂のジャリジャリとした食感に喉を詰まらせてしまい、慌ててぺっ!ぺっ!とそれを吐き出す。

万策尽きたミニイカ娘は自然に刺激が収まるまでの間、餌をくれた人間にいじわるされたのだと思い、
頭上の階段を楽しそうに渡る人々に向かって、恨めしそうにひたすら悪態をついていた。

間もなく空は暗くなり、人々の賑わいはさらに増した。
疲れ果てたミニイカ娘は、鬱々とした状態でその声を仲間達の声と重ね合わせていた。
本来なら自分は巣穴に戻って、仲間達と密集して眠っている時間だ。
帰ろうにも辺りは人間が森のように蠢き、しかも足下は暗いため、とても通ることは出来ない。
ミニイカ娘は寂しさから、「…げぇしょぉ~…げぇしょおおぉ~…」と鳴き出したが、
やがて睡魔に襲われて、その場にウトウトと眠り始めた。

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夏の日のミニイカ 1
ここは関東の某海岸。
毎年夏には花火大会が開催されており、この日の夕方も浜辺はたくさんの出店とごった返す人で賑わっていた。
そんなところに場違いな野生のミニイカ娘が一匹。
「げしょぉ~?げしょぉ…」と指をくわえて不安そうに辺りをうろつき、
時折人間に踏まれそうになって「ギャピッ!」と悲鳴を上げて「あわわ…」と逃げまどう。

本来野生のミニイカ娘は、普段は人間の立ち入らない浜辺の端の岩礁に住むのだが、
この年若いミニイカ娘、以前遭遇した人間に餌をもらったことがあり警戒心が薄く、
昼間にはるか遠くの浜で出店の準備をする人間達の姿を偶然見つけ、
その威勢の良い声に刺激されて、好奇心から半日近くかけて歩いて来たのだ。

「あっ、見て見て!ミニイカ娘よ!」「本当だ!可愛い~!」
その存在に気付いた人間が集まり、小さな輪となってミニイカ娘を囲む。
不安になったミニイカ娘は「ひいぃっ、げしょぉ…」と身を縮めて怯えるが、
人間の一人が焼そばからムキ海老をつまみ、しゃがんでそれを差し出すと、
ミニイカ娘は鼻をひくひく動かし、すぐに「…ゲショッ!」と満面の笑顔を咲かせて遠慮無くパクッ!と食い付いた。
「なんだ調子良いなーコイツw」「アハハ、面白い!カワイイー!」
その露骨で正直な態度に人々は沸き、次々と餌になりそうなものを差し出す。
「げ、げそっ!?ゲソゲソ!」とミニイカ娘は嬉しそうに困惑し、
10本の触手を伸ばすと、選り好みする間も無くそれらを全て受け取った。
ミニイカ娘は「ゲショォ!エヘヘェ~」とはにかんで笑い、
触手と両腕で大量のもらいものを抱えると、その場からてくてくと走り去る。
人々はそれを笑いながら見送ったが、その小さな後ろ姿が人ゴミの脚の間に消えると、
彼等もまたすぐにその場から立ち上がり、何事も無かったかのように出店を回ったり談笑したりしていた。

海岸線を走る道路から浜辺へ下りる階段の下、吊るされた電飾の明かりが作る影にミニイカ娘は鎮座した。
人々の脚の間を大量の餌を抱えて走るのは大変だった。
踏まれないようにとにかく素早く、「ゲッショ、ゲッショ…」と駆けて行き、
途中餌がぽろぽろ落ちる度、名残惜しそうにそれを見送るしかなかった。
「フゥーッ、げしょぉ」とため息をついたが、目の前に積まれた餌を見ると疲れもふっ飛ぶ。
大量の餌の中からまずはムキ海老だけを掴み、「あーん、ぱくっ!」と食べていく。
野生下では食べたことの無いその大きさと味に、これまでに無い至福を感じ、
ミニイカ娘は思わず「んふぅん~っ」と満面の笑みをこぼした。
先のことなど考えず次々と海老を頬張り、その度に幸福度はインフレ的に上昇する。
両手の指や口の周りもベロベロ舐め回し、「えへへぇー、げしょお!」と歓喜の声を上げた。

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