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ゲショゲショ!

栄子との別れの後・・
オレンジ色のヘルメット
今日、倉鎌の山を歩いてたら、
朝顔のドレスを着て花の髪飾りをした一匹のミニイカが楽しそうにスキップしてた。
ミニイカ娘は大変臆病と聞くが、
そのミニイカはペットとして変われてて人間に馴れてるようで、
俺に気付いても、しばらくはキャハキャハとハシャいでた。
ところが、少しして、そのミニイカの腹がグゥと鳴ったかと思うと、
ミニイカはアエーアエーと大声で泣き始めた。
腹が空いたらしい。
「何か食いたいのか?」
俺がそう聞いたら、ミニイカはぴたっと泣き止み、
期待が込められた目で俺を見つめながら、大きくゲショっと頷いた。

俺はちょうど持っていたコンビニのお握りを取り出し、
その一欠片をミニイカに与えたが、
ミニイカはそれを一瞥しただけで、チっと投げ捨てた。 

俺は努めて穏便に、
「悪かったな。お前は米を食べたくなかったのかもしれないし、
生物学的に米を食べられないのかもしれないな。
でも、米は人間にとっては食べ物で、
ましてや日本人にとっては重要な食べ物なんだ。
それをあんな風に投げ捨てたりしちゃだめだろ?
分かったかな?
さぁ、もう食べろなんて言わないから、
今お前が投げ捨てた米粒を拾ってくるんだ。できるな?」

自分が食べたくないものを与えるばかりか、
自分に説教をしてくる人間が存在することがよほど気に食わないらしく、
ミニイカは米粒のとこに走って行くと、
八つ当たり気味にそれを足蹴にしたり踏み付けたりを繰り返すのだった。 

俺は付近に目撃者や防犯カメラの類がないことを念入りに確認し、
「分かったよ。うちにエビがあるから、それを食わせてやろう」
エビという単語を耳にするなり、ミニイカはゲッショ~と歓声を上げ、
俺が差し出した手にニコニコ顔でよじ登って来た。
俺はミニイカをバッグに仕舞い、家路に就いた。

帰宅後、俺は約束通り、ミニイカにエビをたっぷりご馳走してやった。
ミニイカはそれをあっという間に平らげると、満足そうに腹を擦るのだった。
俺はそんなミニイカに聞いてみた。
「どうだ上手かったか?」
ミニイカは満面の笑みで肯いた。
俺は重ねて尋ねた。
「今こうやって満腹の良い気分になったとこで答えて欲しいんだが、
お前、さっき山で米粒を投げ捨てたことを本当はいけないことをしたと思ってるんだろ?」
しかし、ミニイカは馬鹿なことを聞かないで欲しいといった表情で首を横に振った。 

「そうか。じゃ、これを見てくれ」
俺は以前録画しておいた、
米と日本人の長い歴史や米農家の苦労をテーマにした教育番組をミニイカに見せ、
その最中のミニイカがどんな反応を示すか注目していたが、
ミニイカはさきほど食ったエビの殻をポリポリ噛りながら退屈そうに見ているだけで、
再生が終わった際に俺が満を持して、
「さぁ、どうだ?これでもまだお前は自分が米を投げ捨てたことを反省してないのか?」
とそう聞いてみても、逆に俺を小馬鹿にしたように首を横に振るだけだった。

「こんなことはしたくなかったんだが、仕方ないな」
俺はそう言って、ミニイカに軽くデコピンした。
かすった程度のデコピンで全く痛くはなかったはずだが、
ミニイカはかつて人間に暴力を振るわれたことなどなかったと見え、
テーブルにぺたんと座り込み、天上を見上げ、ビエービエーと号泣した。
「もうこうなったら、この際、形だけ、上辺だけで良いよ。
お前が自分のしたことを悪かったと反省するなら、すぐさっきの山に帰してやる。
反省しないなら、もっと痛い目に遭ってもらう。
どうだ?反省してるか?」
泣き虫で痛がりで怖がりのくせして相当に強情な性格らしく、
ミニイカは何事か喚き散らかしながら、激しく首を横に振るのだった。 

ミニイカは完全に意地になってしまったようで、
俺が何度同じ質問をしても首を横に降り続け、
従って必然的に俺の体罰もどんどん苛烈なものへとなっていった。

いったいどれだけの時間が流れたのか、
やがて全身ボロボロになり、意識も朦朧となったミニイカがふと部屋の一点を見つめると、
もはや潰れ掛けた両目から大粒の涙を零し、
すべての指が逆方向に折れ曲がってしまっている右手を高く上げて左右に振りながら、
おそらく助けを求めているのであろう、大きな声で叫び始めた。
一体何があるのかと俺がミニイカの視線の先を追ってみれば、
そこには赤系のオレンジ色をした俺のヘルメットが置いてあったが、
このヘルメットがミニイカにとってどんな意味合いを持つのか俺には皆目見当も付かない。
ただ、これが極めて重要性の高いことだけは分かり、
俺はミニイカに一旦目隠しをすると、
そのヘルメットを自ら被ってミニイカの前に立った。
すると、どうだろう?
かなり早い段階で俺によってすべて鋏で切り落とされたはずのミニイカの触手が、
切断面から再び生えてきて、そのすべてが一斉に俺に向かって、
いや、正しくは俺の被るヘルメットに向かって伸びてくるのだった。

胸糞悪い奇蹟を見せられたかのようで、
生理的な嫌悪感に駆られた俺は触手がヘルメットに届く寸前に大きく頭を後方に反らすと、
十分な反動を付け、ミニイカの真上からヘッドバットを叩き込み、
テーブルとヘルメットの間でミニイカがグチャっと潰れる音がしなくなるまで、
それをひたすら繰り返したのだった。

完 
edited by仂様 at
天国から地獄へ


ミニイカ娘があの雨の日に栄子に拾われてから約150年。
栄子の孫とその家族に優しく見守られ、安らかな臨終を迎えたミニイカ娘の元に、
生前に交わした”ずっとずっと一緒にいよう”という約束通りに栄子が現れ、
二人仲良く天国へ昇っていきます。
ミニイカ娘には栄子に話したいことがたくさんありました。
かつて栄子と過ごした日々がイカに楽しかったか。
栄子と死別した後に自分がどうやって暮らしていたか。
そして、栄子とこうして再会できたのがどんなに嬉しいか…。
そんなミニイカ娘に栄子が笑い掛けて言いました。
「これからはずっと一緒だからな。もう二度と離れ離れにはならないで良いんだ」
天国はまだ少し先だというのに、ミニイカ娘の心はすでに天国にありました。

間もなく二人は天国に到着しました。
大きな門が二人を出迎えます。
まだ門を潜らないうちから、すでに香しい匂いが漂い、
陽気な音楽も聞こえてきます。
天国の中はいったいどれだけ素晴らしいのでしょう。
ミニイカ娘の期待は嫌がおうにも高まり、
自然とその歩みもスキップになってしまいます。
と、その時、一人の管理官が現れ、栄子とミニイカ娘に向かい、
実はミニイカ娘の行き先はここ天国ではなく地獄であると告げました。
あまりのショックにミニイカ娘は泣き出してしまい、
栄子はカンカンに怒って、その理由を問い質します。
管理官は端的に事務的な口調で説明しました。
死後、天国に行くか地獄に行くかは生前の善行と悪行を天秤に掛けて決定されること。
ミニイカ娘のケースは悪行が大幅に善行を超過していたこと。
特に小エビ以外の食べ物を粗末にした行為、
自分より弱いカタツムリを自分の都合で虐待した行為、
地球侵略を企てた行為、この三つの行為の悪質さは群を抜いていたこと。
そのうえで、管理官はこう断罪しました。
ミニイカ娘は栄子と出逢ってからの自分を幸福だと信じ込んでいたけれど、
食べ物を大事にする心、他の生き物への思いやり、
自分が暮らす地球への愛が欠落した生活を幸福と呼ぶなど滑稽極まりない、と。

栄子はそれでも何とか食い下がり、
ミニイカ娘の地獄行きを撤回させようとしますが、
管理官はまったく揺らぐことなく逆に聞いてきました。
「ミニイカ娘さんの行き先を地獄から天国へと変更するたった一つの方法があります。
それは、磯崎栄子さん、あなたが身代わりに地獄に行くことです。
どうです?ご主人やお子さんやお姉さんや弟さんと別れて、
一人で地獄に行く覚悟がおありですか?
天国での生活をミニイカ娘さんのために捨てる覚悟がおありですか?」
それまで泣き通しだったミニイカ娘がその言葉に即座に反応します。
「私は地獄で良いから!
私のために栄子が天国から出て地獄に行くことなんてないから!」
管理官は再び聞きます。
「どうします?ミニイカ娘さんの代わりに地獄に行きますか?」
栄子は無念そうに言葉に詰まってしまいます。
管理官はそれを見ながらこう重ねてきました。
「ちなみに、栄子さんとミニイカ娘さんのお二人で地獄にご一緒するという選択肢も可能ですが、これはいかがしますか?」
ミニイカ娘は雷に打たれようになったかと思うと、
栄子の顔を食い入るように見つめます。
栄子は表情を歪めることしかできません。
管理官は軽く肯き言いました。
「分かりました。地獄にはミニイカ娘さんお一人で向かっていただきます」
ミニイカ娘の号泣が響きます。
「ごめん…」
栄子はそう繰り返すのがやっとでした。
管理官は地獄がどんなところであるが詳細にミニイカ娘に話して聞かせました。
それは聞いているだけで身の毛もよだつような場所でした。
怖がりで痛がりのミニイカ娘は今にも気絶しそうになっています。
「もうやめてやってくれ!」
何度も栄子は頼みましたが、その度に管理官は言いました。
「無理です。これは規則ですから」

やがて地獄についての話を終えた管理官が栄子に語り掛けます。
「栄子さん、あなたは天国の住人である自分がなぜこんな苛烈な選択を迫られ、
なぜこんな過酷な思いをしなくてはならないのかとお思いでしょう。
当然のことです。
しかし、これはミニイカ娘さんに与えられる罰の一環とお考えいただきたい。
そうです。今ここでの私とのやり取りは、
ミニイカ娘さんに自分が捨てられた事実を突き付け、
自分の不幸さを心底思い知らせるためのみのものなのです。
従いまして、もしあなたがお望みなら、ここでのやり取りはもちろん、
あなたのご記憶の中にあるミニイカ娘さんにまつわるすべての情報を
我々の手できちんと消去して差し上げます。
あなただけではありません。
この処置はミニイカ娘さんを知る天国の住人と地上の住人のすべてが対象です。
地上に残されたミニイカ娘さんの痕跡も同様です。
すなわち、ミニイカ娘さんという存在自体が始めからなかったことになるのです。
よって、あなたやその周囲の方々が
地獄にいるミニイカ娘さんのことを気に病む必要はなくなります」

ミニイカ娘は耳を疑いました。
私が栄子に忘れられる…?栄子の中で私がいなくなる…?
そんなのイヤイヤイヤ!たとえ一人で地獄に行くことになろうとも、
栄子が私を覚えていてくれることだけが支えになるはずだったのに…。
ミニイカ娘は恐怖に戦慄きながら、ぎゅーっと栄子に縋り付きます。
栄子はミニイカ娘を正視することができませんでした。
管理官は穏やかに言います。
「ミニイカ娘さんの存在を無に帰すことをお望みになるかどうか、
ご本人の前でお答えいただくのは難しいでしょうから、後ほどで構いません。
さて、そうこうしているうちに時間が参ったようです。
ただ今より、ミニイカ娘さんには地獄へ行っていただきます」
その言葉と同時にミニイカ娘の足元の地面に穴が空きました。
果てしない距離があるにも関わらず、
地獄の罪人たちの苦悶の声やおぞましい叫び声がここまで聞こえてきます。
ミニイカ娘は栄子にしがみ付き、離れようとしません。
管理官は短く溜め息をつくと、ミニイカ娘を栄子から毟り取り、
その穴に放り投げました。
ミニイカ娘は栄子に向かって触手を伸ばしましたが、
それが栄子に届く寸前に穴は塞がってしまいました。
それからわずか数秒後のことです。
真逆さまに地獄へと落ちていくミニイカ娘の耳に天上の管理官から報告が入りました。
「磯崎栄子さんはミニイカ娘さんの存在抹消をご希望されました」
ミニイカ娘の両目から大粒の涙が溢れ出ます。
その涙は地獄の業火にいくら焼かれようとも、けして乾くことがなかったといいます。

おしまい

edited byアドミニイカ at
>>805

友人の見舞いである病院に行った時、一匹のミニイカ娘をみつけた。
「どうしたお前?なんで病院なんかにいるんだ?」
するとそのミニイカ娘は逃げるでもなく、
「…ゲショ~…」と力なくつぶやいた。
その様子が気になった俺は、そいつを拾ってみることにした。
最初こそ元気が無かったものの、家にあったエビを与えるとしだいに元気を取り戻していった。
「ゲショ、ゲッショ!!」テケテケテー
どうやらかつて人に飼われていたらしく、警戒心もなく俺の後をついてくるようになった。
「…うぜぇ…」しかし、暇つぶしに拾ったようなものなのでなつかれても困るのだ。
「…そうだ。雪も降ってるしどこか遊びに行くか?」俺は、近所の公園に連れて行くことにした。
「ゲショ?…ゲショ~!」パァア
どうやら前にも来たことがある場所のようで、喜んでスキップまでし始めた。「ゲッショゲショ♪ゲッショゲショ~♪」
「…。」俺は立ち上がって無言で歩き始める。
「ゲショ?ゲショゲショ~♪」テッテケテー
気付いたミニイカが追いかけてきたが、俺はダッシュで一気に引き離し、回り込んで木陰から少しミニイカ娘の様子を観察してみた。
「ゲショ?!ゲショ~!!…に゛っ!」トテテテテテ…ポテッ
涙目になりキョロキョロしながら走っていたが、つまずいて転ぶ。
「ふぇ…ぴぃ~…ピィイ~!ピィイィ~!!!」昔の飼い主と別れた時のことでも思い出したのか、激しく泣きじゃくるミニイカ娘。
後ろから走りより、手で握るように捕まえる。
「ピっ!ピィイー!!」手をぱたぱたさせながら喜ぶミニイカ娘のほっぺたをつねりあげる。
「ふぇ?!げ、げひょぉ~!!」ギリギリギリギリ…
「悲しがるフリすんな。お前にとって飼い主は"餌係"でしかないんだろ?」
「げ…げひょぉ~…」フルフル
「嘘つけコンニャロー!」
首を振って否定するミニイカ娘を全力で木に投げつける。
ドガッ「げひゃっ!」…ポトッ
木に激突して落ちたところを踏み付けた。
「み゛っ!みみみみみ!!」ジタバタ
「お前の前の飼い主もお前のこと嫌いだってさ」グリグリ
「み゛…みみ…げ…げしょぉ…グスッ」フル…フル…
力なく否定するミニイカ娘を蹴っとばす。
ドカッ「びゃっ!!」ポテッ、ポテッ…
「ケホッ…げ…しょ…」ポロポロ
2回ほどバウンドしたあと泣き出したミニイカ娘に
「じゃあな」
と吐き捨てると、俺はその場を後にした。
その後そのミニイカ娘は、深い悲しみの中、孤独に雪に埋もれていった

edited byアドミニイカ at
>>743

栄子が死んだ後、この変なペット(ミニイカ娘)の処置をどうするか、医師と看護師はしばらく相談していた。
「そうね、飼い主さんのところへ行かせてあげるのがいいわよね」
どのスタッフも、栄子が放し飼いにしていたこのペットの横暴ぶりに辟易していたので、誰も異論はなかった。
夜中にビィビィ泣いて他の患者を起こし、病室のあちこちドス黒いイカスミを吐いて回り、病人食に入っているエビだけを食い散らかし、足元を走り回っては回診の道具をひっくり返して全て使えなくし、他の部屋に入り込んで点滴の管に噛みついてあわや死亡事故の事態になり…。

「ちょっと待ってて、すぐ片付けてくるから」
そう言うとドクターは病棟を出て、地下の解剖室へと入っていった。ミニイカ娘は乱暴に帽子を指でつまみ上げられ、
「はゎゎゎゎゎ…いい~、ギャイーッ!」
と身体をバタつかせてイヤイヤをしている。スタッフはみな、冷ややかな視線で摘ままれたミニイカ娘を見つめていた。

解剖室の冷たい洗浄台に寝かされて、キョトンとしているミニイカ娘はまだ事態を飲み込めていない。
「ゲショ?ゲショゲショ?(あんた、誰?ちゃんとエサはくれるわよね?)」
これから何をされるのかより、今後のエビの事でちっぽけな頭がはち切れそうなミニイカ娘は、怪訝そうにドクターを見上げる。
ふと傍らを見ると、真っ白な皿に小エビが山盛りにしてある。お供えとしてドクターが線香と共に置いたものだったが、ミニイカ娘にそんな事が理解できるはずもなく、ただ己の食欲を満たすために
「ゲッショー!!」
と目を輝かせて飛び付こうとした。

しかし最後のエビをミニイカ娘が口にすることはできなかった。

触手はドクターの左手にしっかり押さえつけられ、右手に握ったメスがその中心部を狙い違わず刺し貫いたのだ。
ピッ、ズズズッ…スパー…ッ…。
内臓と共に、噴水のようにイカスミが吹き出した。

……ヒギャアアアアアーー!!

地下の解剖室に響くミニイカ娘の断末魔。青々とした髪の毛はいつしかドス黒く汚れ、吹き出すイカスミの勢いでミニイカ娘の体は解剖台の上を滑った。激痛に歯を食い縛ったのか、歯がボロボロ欠けて落ちる。
安らかな死を迎えた栄子とあまりに対照的な、見るも無惨な死に顔だった。
「ふ~っ、やっとスッキリしたぜ♪」
ドクターはミニイカ娘の死体をゴミ箱に放り投げ、エビと線香を片付けて解剖室を出ていった。
(終わり♪)

edited byアドミニイカ at
原作のフィルムを逆回転

━ミニイカ娘の寿命はおよそ150年。人間より余程長生きする。


「おばあちゃん!」
病室でひっそり息を引き取った祖母の亡骸にすがりつく栄子。
「遂に逝ってしまったのね…」
「おばあちゃん…」
一族が悲しみにくれる中、祖母の布団の上になにやら不思議な生物がいるのを栄子が見つけた。
「あら、これ…ミニイカ娘じゃない?」
「ああ、○○さん(祖母)がいつもかわいがってましたよ。入院してからずっとね」
側から看護師が口を挟む。
「ねぇ、このミニイカ娘、ウチで飼ってみない?」
栄子の掌で、ミニイカ娘は小さく
「ゲショ?」
と小首を傾げた。
見た目にも愛らしい生き物、のはずだった。



祖母が飼い慣らしていたミニイカ娘はなるほど、確かに人懐っこく愛らしい仕草で祖母亡き後の一家を慰めてくれる。しかしある日、ミニイカ娘は体長5センチのまま150年も生きるという実態を聞いて、一家は唖然とした。長女の千鶴などはもしかしたら海の家で客引きに何か使えるだろうかと思っていたが、その思惑は見事外れた。イカスミもあの量ではパスタにも使えない。特に芸をするわけでもない。かといって妙に神経質なので、熱帯魚のように観賞用にも使えない。しかし神経質な割には夜も昼も時間を選ばず金切り声で泣いてはエサを要求するし、うっかり水槽に戻し忘れると、敵とみなしたものには構わずイカスミをぶっかけまくる。だんだん新しい環境に慣れてくるにつれ部屋のアチコチをズカズカ歩き回ってはブブーッ、ブブーッと吐いていた。まな板の上、洗面台、洗濯物の山、タンスの下、テレビの画面…家中がイカスミでシミだらけになった。


(一体ミニイカ娘ってのは何なんだ?)
祖母から受け継いだこの生物に、家族は次第に疑問を抱きはじめた。
そんな栄子の危惧をよそに一日中脳天気に
「ゲッソゲッソ♪ゲショー♪」
と、一日千秋に同じ踊りを飽きもせず続けるミニイカ娘。微笑ましくはあったが、かわいいという気持ちは日が経つにつれ薄皮を剥ぐように家族の間から失せていった。むしろ、祖母の法事やら日中の仕事やらてんてこ舞いになっていた家族にとってはある種のストレスになっていたのである。


祖母が大切に育ててきたこの生き物を、憎いとは思わない。しかし、今の相沢家にはこれほど大食漢であるペットを飼いおく余裕はなかった。一家は海の家れもんの収入で何とか毎日を食いつないでおり、長女の千鶴、そしてまだ小学生のたけるまで健気にも時々店を手伝ってくれている。栄子の高校の学費のためなら…と、長女の千鶴は推薦の話があったにも関わらず結局大学進学を諦めた。
「いいわ、栄子ちゃんが無事卒業してお金に余裕ができたら、また挑戦してみるわ。栄子ちゃんはちゃんと勉強して高校を出ることだけ考えてればいいのよ」
普段は魑魅魍魎としてつかみどころがない姉だったが、栄子は初めてその優しい心に触れたような気がした。


(何とか姉貴の気持ちに応えなきゃな!)
仕事との両立は体力的にも辛かったが、栄子は仕事が終わってからも必死に机に向かった。
(進級がヤバいなんて言ってられるか、姉貴に顔向けできねーよ!)


…ふと気が付けば、時計の針は午前0時。ペンを握ったままウトウトしていた栄子は、水槽の中の喧しい鳴き声に目を覚ました。
「ワァー、ピィ~、ワァ~ワァ~、ピィ~…」
そういえば夕食をあげていなかったな。閉店後の売上計算やら何やらですっかり後回しになってしまった。今までこんな事はなかったが、最近暑さと忙しさで段々余裕がなくなってきている。

「ごめんね、いまあげるから」
栄子は足を忍ばせて台所に行き、なけなしの小遣いで買ってきた伊勢海老を冷蔵庫から取り出してきた。
(おばあちゃんが一生懸命育ててきたペットだもん、大事にしなきゃね)
祖母は月に1~2回、ミニイカ娘の大好物の伊勢海老を与えていた。そのことは祖母から問わず語りによく聞いたから、高校生にとってはかなりな出費ではあったが伊勢海老をたまに与えることにしていた。栄子は普段のお菓子代や、友達と遊びに行くお金を少しずつ倹約してその費用に充てている。


伊勢海老を目の前にしたミニイカ娘は果たして大喜びである。知り合いの魚屋で値切って買い叩いた伊勢海老は、しかしみるみるうちに小さくなっていく。自分の体より遥かに巨大な物体を奇妙な音と共に凄まじい勢いで食べ尽くす姿はホタルイカのようだ。だいたい、あれだけの体積のものがどこへ入っていくのだろう?

「ゲッソゲッソ♪」
「え!まだ足りないのね…いいわ」
何かないかと冷蔵庫を探すと、夕食の残りの乾燥エビがあった。残り少ないので袋ごと与えることにした。

「ゲッソゲッソ♪」
パラパラと水槽の上から散らしてやると、この時だけは凄まじい勢い寸分違わず落下地点に爆走し、与えられたエビをパクつく。普段はドンくさいのに、エビとみるや異様に執着して食いつく姿を栄子はいつもクスクス笑いながら見ていた。
「ゲショー、ゲショー♪」
そして再び巨大な口を開く

しかし…次から次へと高価な食材を平らげていくこの生物に、栄子は不安が現実に迫ってくる焦燥感にかられた。
━このままでは、こいつのために家が傾くんじゃないだろうか…。

いつまでも高価なエビばかり食べさせる余裕はない。栄子は、他の食べ物はどうか試してみることにした。

「シッ!」
「ケッ!」
「フンッ!」
タコ、小魚などの魚介類から、海の家の厨房から出た残飯の焼きそば、ご飯類まで試してみたが、エビ以外は一切受け付けず悉く触手で横に投げ捨ててしまう。
思わず栄子は頭を抱えた。


それから数日後の夜、栄子はミニイカ娘を入れた小瓶を片手に夜の浜辺に立っていた。
━ミニイカ娘のエサ代まで払う余裕はない。このままでは一家離散してしまう…エビ以外のエサを試してみたことを家族にも相談した結果、ミニイカ娘を海に返すことにしたのだ。最初は祖母が育ててきたのだから…と気乗りしない様子だったが、エサの問題を突きつけられては最早選択の余地はなかった。

「ごめんねおばあちゃん、一生懸命やってみたけど、これ以上はもう無理なの。家計も苦しいのよ。きっとおばあちゃんなら分かってくれるよね?」


ピィィ!ピィィ!ピィィ!
ミニイカ娘が這い出して追いかけてこれないように、そっと砂浜に立て掛けたビンの中から媚びるようなか弱い鳴き声が聞こえる。
もう一度だけ振り返ると、栄子を追いかけようとしてミニイカ娘が真ん丸な体で瓶の中を這い上がろうとしては滑ってズリ落ちている。数日間のエサ用にと入れてやった乾燥エビも早々に食べ尽くしてしまったようだ。
一瞬、こっちを向いたミニイカ娘と目が合って栄子はギクリとした。いつものような満面の笑みを向けられ一瞬決意したはずの心が揺らぐ。しかし、意を決して立ち上がった。
(さようなら。もう、いいでしょ?)


「ホィエ?」
ミニイカ娘はキョトンとなった。
━いつもと違うでゲソ?私をここから出してくれないのでゲソ?
歪んだガラス越しに、小さくなっていく飼い主の背中を見てミニイカ娘は必死に触手で瓶をペチペチ叩く。
ピィィ!ピィィィィ!
キィィィ!キィィィ!キィィィ!キィィィ!
この中から這い上がるほどの力さえも持ち合わせないミニイカ娘は、ただ徒にか弱く瓶を叩いては金切り声を上げるだけである。触手を精一杯伸ばしてみたが、どうしても瓶の口までは届かない。それでもツルツル滑る壁を必死で駆け上っては触手を伸ばしてみたが、「最後だから…」と夕食に出されたエビを次から次へと食べ尽くし、栄子がエサ用にと入れた最後のエビまで早くも綺麗サッパリ食べてしまい、一時的にせよ自分では動けないほどの肥満体と化していたミニイカ娘に出来ることは、せいぜい媚びた金切り声で泣くことくらいなものだった。そう、80年間祖母のもとでそうしてきたように。
ビィエエー!ビィィィー!アーン!ビィエーン!
ボデ腹で起き上がることも出来ず、ただ幼児のように手足をジタバタするしかないミニイカ娘。

昼間の猛暑が嘘のように、雨がパラつきはじめた真夏の夜。波の音にかき消され、遠く離れたミニイカ娘の鳴き声ももう聞こえない。いつの日か知らない誰かにまた拾われて、幸せに暮らすことを願いつつ栄子は湘南の浜辺を歩き続けた。
雨足はさらに強くなり、叩きつけるようなどしゃ降りになってきた。栄子は前屈みになって家路を急いだ。


━翌朝、湘南海岸にはいつものようにジリジリ真夏の太陽が照りつけていた。
「へいビールお待ち!」
猛暑のお陰で海の家れもんも今日は大繁盛である。
(あいつ、元気かな?ま、何とかやっていけるよね)
笑顔で汗をぬぐいながら、ふと思う栄子であった。
「栄子ちゃーん焼きそば」
「あいよー!」


栄子がそっと置いていった瓶はどうなったのだろう?
打ち寄せる波に拐われたか…。
瓶の中で強烈な日差しに灼かれるまま干からびてしまったのか…。

その後、誰もその姿を見た者はいないという。

(終わり)

edited byアドミニイカ at
1->>232- 師長

 栄子亡き後――の病院。
 悲嘆の涙にくれるミニイカ娘は飼い主の最期を看取った看護師たちから一様に憐憫と同情の視線を受けていた。
 悲しいは悲しいものの、この視線を感じると同時にミニイカ娘の中には人語を用いて表現するならば――

――この白い服を着た女の人たちなら、これから私の面倒を見てくれそうでゲソ。

といった浅墓な感情が湧き上がってきたこともまた事実である。

「……あの方は長患いだったから。」
 看護師たちの中で最も恰幅が良く、威厳すらたたえた中年の女はそうつぶやくと、太い指でミニイカ娘の帽子をつまみあげ、透明な薬の空瓶にそっと身体を入れてやった。
「……病室にペットを持ち込むのは本来なら許されることじゃなかったんだけどね。」

 突然、自分の棲家だった水槽よりも狭い空間に閉じ込められたミニイカ娘は、目をきょとんとさせ、触手でぺちぺちと透明な壁を叩く。

「……あのお亡くなりになった患者さんには身寄りが本当にいらっしゃらないのかしら? このミニイカ娘もお渡ししたいんだけど」
「でも師長、いつまでも病院の中に軟体生物を置いておくわけにも……」
「そうね、そうよね、この子は海に帰してあげたほうがいいのかもしれないわね。」
 小声で呟きながら、師長と呼ばれたその中年の女はおもむろに瓶の中へ乾燥小エビをパラパラと落とす。
 ミニイカ娘は目を輝かせ、あさましくも頭部の面積の半分に迫るほどの大口を開け、降り注ぐ小エビを丸飲みした――それが、彼女の生涯で最後に口にすることになるエビとも知らずに。

 午後5時30分。勤務交替で帰宅する師長の手にはミニイカ娘を入れた透明の瓶が握られていた。瓶の中では、新しい生活環境に期待を寄せるミニイカ娘が「げっそげっそ♪ げしょー♪」と元の飼い主を忘れたかのように上機嫌な声をあげる。自分のことをかわいがってくれる新しい家族に笑顔で迎え入れられる。エビもふんだんに与えられる。今までとなんら変わらない生活が続くのでゲソ――と、ミニイカ娘の中には触手の先ほどの疑いもなかった。

 ほどなく、病院から道路を一本隔てた海岸に瓶を持った師長は足を踏み入れた。通勤用の踵の低いパンプスに砂が入ってくる不快感はあったが、女は迷わず波打ち際へと歩を進める。
 ミニイカ娘の目は丸くなった。
 70有余年前、自分が栄子に拾われたその日以来久しぶりに見る大きな海が目に飛び込んでくる。「げしょ…?」微かな声を上げたその刹那、太い2本の指がスッ、とミニイカ娘の帽子をつまみ上げた。

「ずうーっと飼い主さんに大事にされてたんだもんね、ひとりで生きていくくらいの知恵も強さも……あるわよね」
その声が潮風にかき消される前に、すでにミニイカ娘の身体は波に濡れた砂の上に置かれていた。
「それじゃね、この広い海で強く生きていくのよ、さよなら……」
ミニイカ娘はようやくその小さな脳で事態を理解したのか、後姿を見せた女に向けて伸ばした触手を遠ざかろうとする脚に絡める。

――ピイイーッ、ピイイーッ!

……こう泣けば飼い主はいつも私の要求に応えてくれたでゲソ、そしてこの人も同じでゲソ! そうに違いないでゲソ!

 「いかにも」な可愛げの中に、明らかな傲慢さも含んだ鋭い鳴き声が海岸に響く。

 ミニイカ娘を見下ろし、女は触手をほどきながら言った。
「ごめんね、私も旦那も子供もみんなイカアレルギーでミニイカ娘は飼ってあげられないのよ」
 目に涙がいっぱいになるや、ミニイカ娘は砂浜に仰向けになり、手足をジタバタさせてその言葉に抗ったが、女の姿は影を残して遠ざかってゆく。

……なぜでゲソ、人間はわたしを捨てるのでゲソか?
……こんなにかわいい私を? 私って何でゲソか? ただのイカだったのでゲソか?
……これからどうやって生きていけのいうのでゲソ? エビはいったい誰がくれるのでゲソ! 私はおなかすいてるでゲソよ!

 泣き喚くミニイカ娘の身体は、次の瞬間岸に打ち寄せた波にひきずられた。

 漆黒の闇以外に何も見えない海上で、浮遊するペットボトルにつかまり命をとりあえず永らえたミニイカ娘はようやく、悟った。
 かわいいから、か弱いから、ただそれだけで、誰もが自分の意のままに動くわけではないということを。おのれ自身の無力さを。何より、どうしようもない空腹感を自力で満たす術も、海の厳しさも知らずにいるということを。
 80年にも及ぼうかというミニイカ娘の安穏とした生活は、この日あっさりと終わった。そしておそらく、そう永いこともないであろう。



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1->>40 ヤシガニ

栄子と別れたミニイカ娘は、天涯孤独になった。

その後、帰る場所も無くなったミニイカ娘は、気付いたらゆっくり一人で砂浜を歩いていた。これからどうしよう…泳ぎの練習でもしようかな…でもとりあえず疲れたな…。不安だらけだったが、しばらく何も食べていない事に気付く。
それからしばらく食べ物を探して歩き続けると、そこで大きなエビらしき生物に遭遇した。「!?」
その生物は全然動かなくてピクリともしない。「!?」それを見たミニイカ娘はエビが死んでいるのだと思いチャンス!だと思った。
それでも警戒心は強く、触手を伸ばして触ってみたり、キックをしてみたが何も反応がなかった。「ゲソー!」 そこで初めてミニイカ娘はこれを一人で食べられると確信したのだ。
大きな口を開けて体の部分から食べようとした次の瞬間!
ガチャーン! 「ギャ…」何かに掴まれた後、ミニイカ娘の体は真っ二つになった。

その生物の正体はヤシガニだった。ヤシガニのハサミが真っ二つにしたのだった。ヤシガニもミニイカ娘を狙っており、油断するのを待っていた。逆に食べられているミニイカ娘。そこへもう一匹のヤシガニがやってきてバラバラのミニイカ娘を激しく取り合った。
ガチャ!ハサミ同士がぶつかる音、ぐちゃ!体がちぎれる音。
結局二匹に食べ尽くされた。
ミニイカ娘はヤシガニを知らなかったのである。新種のエビだと勘違いしていた。

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60年ぶりの再会
「ゲショ・・・」
海岸での運命の出会いから長年連れ添った栄子が老衰で亡くなり、
ミニイカは好物のエビも喉を通らない日々が続いていた。

そこに、音信不通だった弟のタケルが突然現れた。
「ミニイカ、久しぶりだな」初老の男はニヤリと笑った。

「ゲ・・・ゲショ!ゲショ!」身の危険を感じ後ずさるミニイカ。
タケルは続ける。

「こんなイカに姉を奪われた俺の気持ちが分かるまい。
 栄子姉ちゃんは捕まえてきたお前をペットにすると主張したが、
 俺と千鶴姉ちゃんは珍しいから水族館に売るべきだと言った。
 早苗は剥製にしたい、シンディは解剖したがっていたがね。

 それでも話は進まず、お前にほれ込んだ姉ちゃんは毎日
 伊勢エビばかり食べさせたため海の家は傾いてしまった。
 俺が「今晩のおかずにしてやる」と包丁を持ち出したところで
 姉ちゃんがお前と家を飛び出してから60年、この機会を待っていた。」

「ゲ・・・ショ・・・・」壁際に追い込まれたミニイカ。
タケルの皺だらけの手が伸びる。ミニイカは触手で指に絡みつき抵抗するが、
タケルは躊躇せずそのまま触手ごと持ち上げて、ミニイカを床に叩きつけた。

ピク・・・ピク・・・・突然の衝撃で動けなくなったミニイカを箱に入れ、
「亡くなった千鶴姉ちゃんの分も含めて、きっちり落とし前つけてもらうからな」
とタケルは病室を後にした。

written by 姉弟シリーズ様
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