スレ3↓
スレ4↓
http://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/school/10876/1314400376/997-1000
で幸せを願うと言ったな
「ビャービャ、ゲショゲショ!」
あれは嘘だ
「ピイィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!」
ある晴れた日曜日、小ぶりなプラスチックケースの中の、20匹あまりのミニイカ娘は窮屈ながらも
ゲショゲショと楽しそうにお喋りしていた。
「ゲショゲショ♪今朝食べたエビは美味しかったでゲショ♪」
「夕べのエビも美味しかったでゲショ♪」
「私たちのご主人様、無愛想だけど心は優しいでゲショ」
「私たち、いいご主人様に飼ってもらえたでゲショ」
彼女たち、ミニイカ娘は、昨日まで養殖場の殺風景な養殖用ケージの中にいた。
養殖場で育てられたミニイカ娘は大概の場合、ある程度に成長すれば市場に出荷され、
小売店に買い取られ、最後は一般家庭の台所の俎上に乗せられる運命である。
ところが稀に、養殖場の職員と個人的なパイプでもあるのか、養殖場で直接ミニイカ娘を
買い取っていく人もいる。
今、プラスチックケースの中ではしゃいでいるミニイカ娘たちも、そうして前日に養殖場から
直接買われたパターンだ。
彼女たちは今、ケースのまま車の助手席に乗せられ、日曜日のドライブに連れ出されている。
ハンドルを握るご主人様は信号待ちの間、助手席のミニイカ娘をチラ見し、目の合ったミニイカ娘は
「私をもっと可愛がって欲しいでゲショ☆」と、目一杯の笑顔を見せて、ぴょんぴょん飛び跳ねたり
踊ったりしている。
そんなミニイカ娘の様子を見て、ご主人様も唇の端に笑みを浮かべた。
ご主人様の微かな表情の変化を目ざとく察知したミニイカ娘たちは、ますます張り切って
スキップしたりくるくる回ったりと、自己アピールに余念が無い。
プラスチックケースのミニイカ娘は「ゲッショ♪ゲショゲショ♪」と合唱するように鳴き声を上げ、
車の中はさながら遠足バスの賑やかさだ。
「私たち、きっと幸せになれるでゲショ!!」
「私たち、もっと幸せになれるでゲショ!!」
「ご主人様にエビをいっぱいもらって、いっぱい遊んでもらって、いっぱい可愛がってもらうでゲショ!!」
車が停まったのは小さな狭い砂浜であった。養殖場育ちのミニイカ娘も、養殖場で見たDVDで、
ここがどんな場所だか分かっている。
「ここは・・・“砂浜”でゲショか?」
「・・・それにしては、何か狭いんじゃなイカ?・・・」
「テレビで見た砂浜は、もっと広くて綺麗だったでゲショ」
「思ったほど楽しそうじゃないでゲショね・・・」
楽しい遠足だと思ったら、連れて来られたのがショボい浜辺でミニイカ娘たちはガッカリ。
早速みんなで「ゲビッ!!ギャビビッ!!」と不平の声を上げ始めた。
ところがご主人様は、そんなミニイカ娘の不平などどこ吹く風、ルーフトップの
シーカヤックを降ろし、カーゴスペースからパドルその他諸々の道具を運び出してきた。
最初は不満げに鳴き立てていたミニイカ娘たちも、興味津々でご主人様の様子に見入った。
「あれは何でゲショか?」
「DVDで見たことあるでゲショ。“ボート”って言うでゲショ」
「あれで海に浮かんでこれから遊ぶんじゃなイカ?楽しそうでゲショ♪」
「私たちをボート遊びに連れ出してくれるんでゲショ♪やっぱり優しいご主人様でゲショ♪」
さっきまでの不機嫌はどこへやら、みんな掌を返して「ゲッショ♪ゲショゲショ♪」と
ご主人様を讃える歌を歌い始めた。
ご主人様はミニイカ娘の期待に応えるかのように、荷物とともにミニイカ娘の入った
プラスチックケースをシーカヤックに積むと、砂浜から海に滑り出した。
ミニイカ娘たちは楽しさMAX!「どんぶらこっこ、どんぶらこ♪」と歌いながら、銘々が思い描く
これから始まる大冒険の展望を語り合った。
「この後、激流下りがあるでゲショ」
「渦に呑まれたりもするんでゲショ?」
「大波をかいくぐってサーフィンも楽しめるでゲショ!」
「お魚どもが、私たちのために飛び跳ねて躍って見せるでゲショ」
「ここは海だから、サメやシャチもでるんじゃなイカ?」
「ビェェェェェェェン!サメは怖いでゲショォォォォ!!出なくていいでゲショォォォォ!!!」
「大丈夫でゲショ!きっと優しいご主人様が私たちを護ってくれるでゲショ!!」
ベタ凪の沖合いにシーカヤックを漕ぎ出すと、ご主人様はプラスチックケースの蓋を開け、
中を覗き込んだ。
『どいつにしようかな? やっぱり一番元気のいい奴から始めるか』
言葉が分からなくても、人間が自分たちを品定めしている視線は敏感に察知できるミニイカ娘たちは、
一斉に「わたし~!!わたしを選んで欲しいでゲショオ~☆」と嬌声を上げた。
ご主人様はその中から一番元気そうな固体をつまみ上げた。
「嬉しいでゲショオオオ♪私がトップバッターでゲショオオオ♪」
喜色満面で媚を売るミニイカ娘の顔を見て、
『うん、実に元気が良さそうだ』
と、これまた満足そうな笑みを浮かべたご主人様は、左手で固定したミニイカ娘の背後から
右手に持った釣り針をブスリと突き刺した。
「???くぁwせdrftgyふじこlp!!!」
突然自分を襲った激痛に、事態が全く把握できないミニイカ娘は、ショックでピタリと動きが止まった。
『やべ、殺しちまったかな?ミニイカ娘は生命力が強くて、帽子が無傷なら死なないと
聞いてたんだけどな・・・そうだな、海水に浸けてみて、生きてるかどうか試してみるか』
釣り針に刺したミニイカ娘を、ちゃぷんと海水に垂らした。程なくミニイカ娘は呼吸困難から意識を
取り戻し、アップアップとおぼれ始めた。
ご主人様は釣竿を上げてミニイカ娘を手繰り寄せると、ゼェハァ荒い息をしているその顔を
しげしげと見つめて、ニヤリと笑った。
『期待通りの生命力だ。今日はこいつをソフトルアー代わりに、シーバス釣りにチャレンジだ』
そう呟いて、ご主人様はヒュンと釣竿を振り回し、ミニイカ娘をキャスティングした。
海面上に鮮やかなラインを描き、海水にぽちゃんと着水すると、ご主人様は緩急つけながらリールを回す。
「ゴボッ!ゲフッ!ガホッ!!・・・く、苦しいぃぃぃ・・・」
突き刺さった釣り針の痛みと、呼吸困難から、まさに昇天しそうな苦しみを味わいながら、しかし逞しい
生命力のミニイカ娘は、ご主人様の手元に手繰り寄せられるまで、この程度のことでは簡単に
死ぬことはなく、涙目でゼェゼェハァハァと息を切らすにとどまった。
『うん、流石にエビを充分に食べさせたことはある。簡単に死ぬことはなさそうだ』
ミニイカ娘の様子を手にとって確認すると、ご主人様は海中に再びキャスティング。
今度は緩急つけずに猛スピードで一気呵成に巻き戻した。
「ウゲッ!・・・ウガッ・・・ギャヒッ・・・・・・・」
海中で体に刺さった釣り針を猛スピードで引っ張られ、体を裂くような激痛に耐えかねて、
ご主人様の手元に手繰り寄せられる頃には白目を剥いて気を失ったミニイカ娘、優しいご主人様は
そんなミニイカ娘の顔を見ると、白い帽子をギュッっと捻って意識を取り戻させた。
『生餌を使うなら、活きのいい方が良いからな』
急所を突かれ、頭を抱えて痛みに耐えるミニイカ娘を一瞥し、ご主人様はキャスティング。
今度は一転して超スローモーに巻き戻した。
「ゴ・・・・・ゴボッ・・・・・・こ、呼吸が・・・息がく、苦しい・・・・・・」
海洋生物のくせに泳げないミニイカ娘、またしてもご主人様の手元に手繰り寄せられる頃には意識不明。
ご主人様もこの段階になると扱いを心得たもので、ミニイカ娘の帽子にビシッとデコピン一閃、
鮮やかに意識を回復させた。
『期待通りの生命力だ。後はシーバスがこいつに喰らい付いてくれるかどうかだが・・・』
そう呟きながらの4投目、今度は緩急つけながら巻き戻すと、釣竿にビビッと手応え。
見事80cmの中量級を釣り上げた。
『よっし!1匹目からこのクラス! 餌の大きさといい活きのよさといい、シーバス釣りに
ミニイカ娘は最適だ!!』
釣り上げたシーバスから針を外してやると、ミニイカ娘はそのまま口に咥えせさせて、
ご主人様はシーバスを放流した。
『キャッチ&リリースは釣り人の精神。もっと大きくなってから、また釣り上げてやるぜ』
さて、トップバッターがズタボロにされた挙句に魚の餌にされた様をまざまざと見ていた、
プラスチックケースの中のミニイカ娘たち、ケースの中で脱糞しながら声を失いガクブル状態。
『うわっ、くっせぇぇぇ!こいつら、うんち漏らしやがった・・・でも、臭いがきつい方がシーバスが
寄って来るかもな』
そう考えながら、2匹目の餌を取ろうとケースの蓋を開けると、「今だ!」と一斉にケースから逃げ出した。
「ビャビャッ、逃げるでゲッショ」
「このままでは、針に刺されて水責めにされて、魚の餌にされるでゲショ」
「速くこのボートから脱出・・・」
わらわらとシーカヤックの舳先に辿り着いたミニイカ娘達、でもそこから先は、深い、広い、海である。
「み、水でゲショ・・・?」
「底が見えないでゲショ。足も触手も届かないんじゃなイカ?」
「私たち、泳げないでゲショ・・・」
「こ、こっから先には逃げられないってことじゃなイカ!!」
しばし呆然としたミニイカ娘たち、気を取り直してご主人様の前に集まった。
「おぬし、ちょっといイカ? これでは私たちは逃げられないから、岸まで着けてくれなイカ?」
そんなミニイカ娘達の嘆願が伝わるはずも無く、ご主人様は一切構わず、群れの中から一番大きな
個体をつまみ上げると、釣り針に引っ掛け投げ入れた。
最早釣り餌になるか入水自殺するしか選択肢の無いミニイカ娘、逃げ惑うしかすべが無く、
狭いシーカヤックの中でかくれんぼするのが関の山。
最後の手段のイカ墨攻撃もゴム手袋で容易に遮られ、早々と万事休す。
『服は剥ぎ取った方が食い付きが良いかな』
『ああ、こいつ、もう息も絶え絶えだな。釣り餌になりそうにないや、捨てるか』
『今度はケースの中のうんちを擦り付けて臭いをきつくしてみよう』
『しまった、頭だけ噛み千切られて逃げられた!!』
『こいつは活きが悪いな。バラバラに千切って撒き餌にしてみようか』
難なくシーカヤック内のミニイカ娘を捕まえては釣り餌に使うご主人様は、コツコツと
釣果を上げ、ついに120cmの大物を釣り上げた。
『よっしゃあああああ!!これが釣れれば、今日は大満足だああああ!!!』
シーカヤックの上でガッツポーズを決めたご主人様、釣り上げた獲物をデジカメに収めると、
今までと同様にミニイカ娘を咥えさせたまま放流した。
『ああ、自然のものは自然に帰すのが一番だな』
満足そうに空を見上げたご主人様、達成感の浮かんだ顔でしばしの賢者タイムの後、
『今日はこのへんで終わるか』
と呟いた。
「も、もしかして私たち、魚の餌にされなくて済むでゲショか?」
残り数匹、舳先で身を寄せ合って震え上がっていたミニイカ娘たち、シーカヤック内に漂う
「今日はもう終わり」の雰囲気を察知し、生存の可能性に顔を輝かせた
―――のも束の間、ご主人様に一掴みに捉えられると、無造作に海中に投げ込まれてしまった。
『お前たちも、自然に帰れよおーーーー!!!元気でなあーーーー!!!』
ぽちゃんぽちゃんと音を立て、広い海に小さな波紋をいくつか残して、海に消えたミニイカ娘たち。
「ゴボゴボ・・・お、溺れるでゲショ・・・」
「・・・私たち、結局、助からないでゲショか?・・・」
「このままだとサメが来るでゲショ!!怖いでゲショ!!」
「サメが来る前に溺れ死ぬでゲショ・・・」
次々と海に沈むミニイカ娘たち、ある者は蛸に足を引っ張られ、ある者はシーバスに丸呑みされ、
ある者は潮に流され何処ともなく消え去り、最後まで海面でもがいていた1匹は、たまたま漂着した
板切れに乗り、安堵の表情で足を組んで寝そべっていたところを、沖まで羽を伸ばしていたカモメに
攫われ、遠い空へ去っていった。
そんな海に向かって、ご主人様は腹の底から叫んだ。
『やっぱり自然って、いーーーなーーー!!!!!』
気が付くと傾き始めた太陽を背に、シーカヤックを漕ぎ始めたご主人様。その頭の中では、
次は河口エリアで釣るか、あるいは遠くの浜まで遠征するか、そんなことを考えていた。
<終わり>
イカ娘のブルーレイ3巻が届いた。ミニイカ娘混入、という事で箱を開けてみると、、、
居ない。。。 どこだ?
箱の中のダンボールの隙間から「ゲショ・・・」と声がするので、ダンボールを捲ると
その裏にサササッと隠れてしまった。
そのうち出てくるだろう、と放っておいてブルーレイを鑑賞し始める。
途中で菓子でも食うか、と思い食べかけのえびせんの袋の中に手を入れると
「(ガサゴソ)ピャィ~、あわわ、あわわ」と声が聞こえるので中を覗くと
ミニイカ娘がえびせんを全部食ってしまっていた。
「こんにゃろぉ~!」
「ぎゃぃぃぃ~っ!」
袋の中からミニイカ娘を鷲掴みにして取り出すとえびせんのカスまみれ。
ジタバタ暴れるので腕をブンブン振ったら目を回したみたいで「ゲェ~ゲェェ~ゲショォォ~・・・」と鳴き声も弱々しくなり大人しくなった。
水道水で乱暴にあらってタオルで軽く拭いて机の上へ寝かす。
最初は可愛い、とも思ったがやはり食べ物を食い荒らす害獣のようだ。
というか、やはり害獣だった。
飼おうかとも思ったがこんな調子じゃ先が思いやられる。
食用にもなるらしいので、捌いてみようと思い立った。
「自業自得だ、こんにゃろぉ!」と喉元を鋏の先端で固定する。
「フェェ~、フェェ~ン!」と泣き出す。
知能も無いたかが5センチのイカのクセに泣き落としとはあざとい生き物だ。
しかし暫く様子を見ていたら、ちょっとだけ可哀想かも、という気持ちも出始めた。
そんな時、くしゃみをもよおす。
今年の花粉は酷い。
「はぁぁ、ふわぁぁ、ふわぁぁ~っくしょ~ん!!」と力んだ勢いで鋏にも力が入る。
プチン!とした感触を残し、ミニイカ娘の頭は机の上をゴロンと転がった。。。
「やっちまった~。。。」
とも思ったが、こいつは害獣なのだ。
可愛いらしいという感情もあったが、いきなり貪欲さを見せつけられて殺意を感じたのも事実だ。
泣き顔のまま転がった頭から生えた触手はまだピクピクと動いていた。
絶命してもなお動く触手が気持ち悪い。
顔は可愛いかも知れないがやっっぱりただのイカなんだよな、と思い
キッチンへ行って鍋で湯を沸かし始めた。
<終>
『キャッキャ♪ゲッショ、ゲッショ♪』 コロコロ…
「じょうず、じょうず、コロコロお上手♪ミニイカちゃ~ん♪」 カシャ、カシャ!
『ゲショ~♪ゲッsピギュッ!』 ブチュッ!
「…ん、今なんか踏んだ?」
「!!! きゃああああああ!!ミニイカちゃん!ミニイカちゃああん!!」
『ギュイイイイ!ギェジョオオオ!ビャア!ビャア!…』 プシャァァァ…ドクドク…
「ヤダ何これ!…ちょっと、私のブーツ汚れちゃったんですけど!」
「…はぁ!?待ちなさいよ!あんたのブーツとミニイカちゃん、どっちが大事だと思ってんのよ!」
「ホントに大事なら、こんな雪の日に外出させなきゃいいじゃないですか!
ミニイカって寒さに弱いのに、両腕むき出しのカッコで雪の上歩かせるなんて…大事にしてない証拠じゃない!」
『ム゛ゥィ…ギュィィ…』 ピクピク…
「うるさい!元はといえば、ロクに足元も見てないあんたが悪いんでしょ!このミニイカ殺し!謝れ!」
「ミニイカで遊ぶなら自分ン家でやってよ!迷惑なの!あーもう、近道で公園なんか通るんじゃなかった!
…それよりブーツのクリーニング代、ちゃんと出してもらえますよね?イカスミって自分じゃ落とせないんですよ!」
『グェボ…』 クター…
昨日の夜、ドライブの帰りの山道で車の前を何か小動物のようなものが横切ろうとしていたので、俺は慌てて急ブレーキで停止した。間一髪轢かずに済んだらしい。念のため車から降りて見てみると、よほど怖かったのだろう、一匹のミニイカ娘が両手で頭を触手で体をガードしながら丸まって倒れた姿勢で気を失っていた。
このまま放置すると他の車に轢き殺されかねないので俺はこのミニイカを安全な場所に逃がそうと額を指で突っついてみたが、ミニイカは目を覚まさない。どこかの草むらに置いて帰ろうかと考えるも、それではタヌキや猛禽類に餌として差し出すようなもので後味が良くない。これも何かの縁かと少なくとも目を覚ますまでは面倒を見ることにし、俺はミニイカをダウンジャケットのポケットに仕舞って家路に就いた。
あと少しで自宅という頃、ミニイカがポケットからもぞもぞと這い出てきて、俺の顔を不思議そうに見上げ、
「ゲショ」
お、無事なんだな。俺が何とはなしに自分の人差し指を近づけてみたら、ミニイカは最初その指先をはみはみ甘噛みしていたが、すぐにゲショゲショ車の中をうろつき始めた。くんくん鼻を鳴らしているところから見て、何か食べ物を探しているようだ。しかし、生憎、車内にはミニイカが食うような物は何もない。そのうちミニイカはグズり出し、ついにはビエービエーと泣きながら、そこら辺にある物に八つ当たりを始めた。
俺は数ヶ月前に読んだ新聞記事を思い出した。かつてはその類稀な可愛らしさで愛玩ペットとして一世を風靡したミニイカも、最近はまさにその類稀な可愛らしさゆえにめっきりブームが去ってしまったのだという。つまり、あまりにも可愛いものだから飼い主はついつい甘やかし過ぎてしまい、そうされたミニイカは必然的に付け上がって飼い主の手が付けられないほど我が侭放題に育ち、こうなってしまうと遅まきながら矯正しようと思っても、何が良くて何が悪いかを体で覚えさせるべく心を鬼にして厳格な態度で臨む必要があるのだが、それができるような飼い主であれば、そもそも最初の段階から過剰に甘やかしたりすることも普通はなく、従って、大部分の飼い主が矯正を諦める結果となり、郊外の山間部などにミニイカを捨ててしまうといった事例が後を絶たないらしい。
俺が拾ったこのミニイカはまさにその典型例なのだろう。厄介なのを拾っちまったな…もう一度捨てるかな。そんな考えが頭を過ぎったが、俺の中途半端な責任感がそれを邪魔し、
「なぁ、静かにしろよ。餌をやらないわけじゃないんだ。あと少しすれば、食わせてやるから」
暴れるミニイカを軽く左手で抑制し、そう語り掛けると、なんとミニイカは俺に向かってイカ墨を吐き出し、ゲーッショゲッショゲショと笑った。そんな仕種さえ愛くるしく、なるほど、これでは鉄拳制裁が躊躇われるのも当然で、ミニイカの矯正とは実に困難な作業なのだなと当惑したものの、こんなんじゃ野生で生きていけるはずがないし、こいつのためを思えば仕方ないと覚悟を決めた俺はハザードを出して車を停め、左の肩から脇腹に掛けてべっとり付着したイカ墨をタオルで拭った。
その体の構造上、ミニイカは鋭利な物で切られたり刺されたりすることに対しては脆弱そのものである一方、面での強打に対しては痛みはあっても耐性自体はかなり高く、数百キロレベルの衝撃でもない限り、臓器にダメージを負うことも皆無と聞く。
ドアの肘掛部分によじ登り、あたかも不当な理由で監禁された車内から脱出しようとしているかのようにサイドウインドウを触手で叩いているミニイカの背中を俺は左手のタオルで掴み、その正面をこちらに向き直らせた。ミニイカはピギャギャ喚き散らし、手脚と触手を振り回しながら、またイカ墨を俺に吐き出そうと頬を膨らませ口を尖らせたが、俺はそれを食らう前に右手でミニイカを殴り付けた。
今まで殴られた経験などなかったのだろう、ミニイカは自分が何をされたのか理解できない様子でポカンとしていたが、徐々に涙目になっていった。
俺は罪悪感を禁じ得ず、
「お前が騒ぐからだぞ」
そう言った瞬間、不意打ちのつもりなのか、ミニイカは俺の顔に向け触手で攻撃してきた。
俺はそれを手で払い除け、その手でまたミニイカを殴打した。
するとミニイカは火を付けたようにピギャーピギャーと泣き出した。
二発はやり過ぎだったかなという後悔混じりに俺は右手の指でミニイカの頭を撫でつつ、
「痛かったか?お前が良い子にしてたら、もう殴ったりしないからな」
しばらくして、ミニイカはどうにか泣き止んだので、俺は続けて、
「よし、じゃ急いで帰るか。帰ったら、すぐ飯を食わせてやるぞ」
ジェスチャー混じりのその言葉にミニイカは両手の甲で顔の涙を拭うと、つぶらな瞳を輝かせ、口から涎を垂らした。
要は飴と鞭ってことなんだろうな。基本的にこいつは喜怒哀楽がそのまま出る単純で素直そうな奴だし、うん、乗りかかった船だ、野生で一人で生きていけるようになるまで俺が面倒見てやろう。俺はそう思った。
マンションの自室に着いて冷蔵庫のドアを開けた途端、ミニイカは俺の足に触手ごと纏わり付いてきたが、俺が大根を出して、その端を切って目の前に置くと、明らかな失望の色を浮かべ、ぷいっと顔を背けた。やっぱりそうか。こいつは偏食なんだ。俺は大根をミニイカの方にさらに押しやった。するとミニイカはそれを足蹴にした。間髪入れず、俺はミニイカを蹴り飛ばした。ごろごろ転がっていって頭から壁に激突したミニイカはまたあの調子で泣き出したが、今度は俺は何もせず無視していた。ミニイカは泣いても意味がないことを悟ったらしく、渋々大根を触手で持ち、ぽりぽりと完食した。俺がそれを見届け、明日の晩飯にフライにする予定だった大きなエビのパックを開けるや、ミニイカはゲッショー!と叫び声を上げて触手を互いに絡ませ合いながら走り出した。そんなにエビが好きなのかと思い、俺は6本あったエビをすべて大皿に乗せて床に置いた。ミニイカの食いっぷりは凄まじく、次々とエビを丸呑みしていったが、最後の1本はゆっくり味わうことにしたと見え、一口齧っては幸せそうな顔でもぐもぐと咀嚼して、んぐっと嚥下し、俺の顔を見てにっこり笑ってから次の一口に移り、そうやって全て食べ終えると、満足そうに腹を擦るのだった。
俺はミニイカの絡み合った触手を解いてやりながら、
「美味かったか?」
ミニイカは笑顔でゲショっと肯いた。
食欲が満たされたら今度は好奇心がうずき始めたようで、ミニイカは何か面白い物はないかと俺の部屋をあちこち探検し始めた。俺は入浴することにし、そのついでにやや汚れが目立つミニイカを洗ってやろうと考えた。
バスルームに入り、まず服ごとミニイカを洗ってシャワーで泡を流し、バスタブにぽちゃんと投げ入れ、自分の体を洗う。しかし、じきに様子が何か妙なことに気づいてバスタブを見ると、ミニイカが底に沈んで手脚と触手をバタつかせていた。
こいつ、イカっぽいくせに泳げないのか。俺は大急ぎでバスタブに手を突っ込み、ミニイカを拾い上げた。
ミニイカはしばらくゲションゲションと咳き込んでいたが、それが収まるや、俺に向かってイカ墨を吐き、俺の脚を宿主でポカポカ叩いた。
俺はそれを甘んじて受け、
「ごめんな、今のは俺が悪かった。てっきりお前は泳げるものだと思ったんだ。許してくれ」
しかし、ミニイカはまだ腹を立てているようで、ゲショゲショ不貞腐れていた。
そこで俺は洗面器に湯を張り、
「これはお前用の風呂な」
そこにミニイカを入れてやった。
これでミニイカはすっかり機嫌を直したらしく、湯をばしゃばしゃ跳ね上げ始めた。
風呂を出た俺がビール片手にソファに座ってケーブルテレビを点けたら、ミニイカは俺の足元に来て、隣に座らせてくれとねだった。俺はミニイカを片手で摘み上げ、自分の隣に置いた。ミニイカはテレビが好きらしく、俺がJスポにチャンネルを回せばラグビーに熱中し、MTVに回せばミュージッククリップに合わせてゲショゲショ口ずさみながら踊っていたが、ディスカバリーチャンネルに回し、画面一杯にドアップで映ったサメを見るなり、悲鳴とともにソファから転げ落ちて、部屋の隅まで走って逃げてしまった。
ちょうど俺の車に轢かれそうになった時と同じく、頭と体を両手と触手で守って丸まった姿勢で戦慄いているミニイカのところにいって、背中に指を置き、
「大丈夫。あれはテレビだ」
俺がそう繰り返していると、ミニイカは絶対にテレビを見ないですむよう触手で自分の視界を自ら狭めた格好で恐る恐る顔を上げ、
「…ゲショ?」
「テレビの中なんだよ。実際にいるわけじゃない」
意味が通じるとは思えなかったが俺はそう言って、チャンネルをラグビーに戻し、その画面を軽く叩きながら、
「ほら、分かるか?ラグビーなら平気だろ。見てみろよ」
ラグビー中継の音に安心したようにミニイカが触手を降ろしてテレビを見たので、俺はまた画面に手を触れ、
「な?こんな勢い良く走ってても、この中から出てはこれないんだよ」
いざとなればいつでも逃げ出せる慎重な歩みでこちらに近づいて来て、そろりそろりと伸ばした触手でテレビ画面に触れたミニイカはそこで初めて仕組みを理解したらしく、大きく息を吐き、自らを納得させるようにゲショっと言った。
試しにディスカバリーチャンネルに戻してみても、そこに写し出されたサメにミニイカは一瞬ビクっとなりこそすれ、さきほどのような恐慌を来たすことはないのを確認し、俺は以前録画しておいたジョーズのDVDをBDプレーヤーに入れて早送りしたうえで再生を始めた。怖がらせてしまった詫びと言っては何だが…。狙い通りちょうど巨大人喰いザメとロイ・シャイダー演ずる主人公の最終決戦のシーンで、ミニイカは俺のパジャマの裾にしがみ付いてそれを見ていたが、物語もいよいよクライマックス、主人公が空気ボンベを利用してサメを爆破させると、ミニイカは両手とすべての触手で万歳し、ゲショーと大歓声を上げながら、飛び跳ねたり、部屋中を走り回ったり、両腕を組んで触手を腰に当てまるで自分がサメを倒したかのような勝ち誇ったポーズを取ったりした。
ミニイカはまた俺のとこに駆け戻って来て、テレビを指差し、ゲショっゲショっと言って、爆破シーンをまた見せるよう催促した。
2回目ともなればミニイカはサメをもはや恐れず、それどころか、その末路を知っているせいだろう、ある時は何やら勇ましく掛け声を掛けながら画面の中のサメを触手で攻撃し、またある時は迫り来るサメから素早く身を翻し、そんなこんなで辿り着いたラストシーンではまた大はしゃぎしてから、もう一回とせがんだ。
俺はミニイカの気が済むまで10回くらい繰り返してやった。
そのうち、ミニイカは眠くなってきたようで、あくびを一つし、床に横になろうとしたが、俺は温かい場所で寝かせてやろうと思い、取り外し式のダウンジャケットのフードにミニイカを入れた。そのフカフカした感触が気に入ったと見え、ミニイカはゲッショゲッショ言いながらフードの中を転がっていた。
俺も眠くなり、フードごとミニイカをベッドに持って行き、それを枕元に置いて、自分も横になった。
隣を見ると、ミニイカと目が合い、ミニイカはにこっと笑った。
俺もつられて微笑み返し、右手の指でミニイカの額を撫でてやると、ミニイカは嬉しそうに気持ち良さそうにゲショーと呟き、両手で俺の指を握り締め、目を閉じた。
ミニイカとの生活が始まるのか…案外楽しいかもな…。ぼんやりそんなことを考えていたら、ふとあることを思い、
「そうだ、お前、寝る時はその帽子取ったらどうだ?」
俺はそう言って、もうすでにまどろみ掛けているミニイカの帽子を左手で脱がせてやり、自分も眠りに落ちていった。
翌朝、ブラインドの隙間から降り注ぐ爽やかな朝日と外から聞こえる小鳥たちの楽しそうな囀りに俺が目を覚ますと、隣には地獄の罪人もかくやというほどのおぞましい苦悶の表情に顔を醜く歪め、舌をだらりと口から出し、四肢をそれぞれ不自然な方向に折り曲げたまま、まるでミイラのように干からびたミニイカ娘の姿があった。
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