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ゲショゲショ!

かわいいイカの絵様
熱烈歓迎でゲショ
edited bydude at
笹舟のミニイカ娘 3


『ンムゥッ!ゲショゲショッ!ピャアピャッピャ!ゲショムゥ~ッ!』

やはりコイツは人間をナメている。
出血が止まった途端患部を指差しながらピイピイ鳴いて抗議しだすが、俺の掌に寝そべった余裕の体勢は崩さない。
観察がてら大人しく掌に乗せてやること数分、すっかり懐かれてしまったようだ。
そんなに深くない傷とはいえたった数分でここまで治るのかと驚いたが、さすがに歯は再生しそうにないし、上唇にも色濃い痕が残っている。
極上の飼いミニイカをこの手でキズ物にしてやった喜びで、馴れ馴れしいミニイカの姿も大して気にならない。

『ゲショー…ムゥ?ゲショ!ゲショゲショ!ゲーピャッ!ゲショゲショ!ゲショムゥ!』

しばらくするとミニイカは背後にクルッと体を向け、釣竿の方を指さしながら激しい調子で喚きだした。
俺の不届きをご主人さまに言いつけてやるぞと脅してんだろうが、このド田舎の、静かな清流のほとりには現在俺とコイツしかいない。
まさか近くに来てるのかと思い俺も周囲を見渡してみるが、やはり飼い主どころか人っ子ひとり見当たらない。
いきなり調子に乗りだしたミニイカの滑稽な姿をあざ笑うのは最高の気分だ。


ようやく飼い主の不在に気付いたか、ミニイカは途端に不安な顔を浮かべプルプルと震えはじめる。

『ンピッ!…ホュ、ウミュミュ…』

しかしどうも様子がおかしい。
ミニイカは掌の上に立ち上がったかと思うと、下半身をモゾモゾさせながら奇妙な鳴き声を上げ、キョロキョロと辺りを見回しだす。
まさか…!

『ピミュッ!』 ペチャッ

俺はとっさにミニイカを放り投げ、砂利浜に叩きつけた。
ミニイカは痛がる素振りもそこそこに再び立ち上がると、触手でワンピースの裾をたくし上げ、目が合った俺に真っ赤な顔で『ピイ!ピイ!』と何かを訴える。
その身振り手振りは(見ないで!あっち行って!)とでも言いたげなもの。
やはり…間違いない。
ミニイカはその場にドッカと腰を据え、すきっ歯を食いしばり、目を><型に変形させると…

『ンムムムムッ!ンム~!』 ミチミチ、ムリムリ…

案の定、大量のウンコをひり出した。

その仕草が人に近いせいか、排泄シーンはやけに生々しい。
…それにしても、頭のオマケみたいにちっぽけな胴体の、どこにこれだけのウンコが隠れていたんだろうか。
もし俺の掌で脱糞されてたらと思うと、さっきコイツの胴体を指で摘みまくった行為が思い返され悪寒が走る。

メリメリ、ブチャァァ…プチュチュッ、プッ、プスゥ~

脱糞を終えたミニイカはすかしっ屁を数発かまして立ち上がり、『ホァ~』と安堵の溜息をつく。
そのまま直立不動で佇むこと数秒、ミニイカは何やら不安げな顔を浮かべ、まるで明確な言葉をもって、誰かを呼ぶかのように鳴き始めた。

 

 

 


 
どうせ(ご主人さまー、早くフキフキしてでゲショー!)とでも言ってるんだろう。
成体にもなってテメエでケツも拭けないとは、バカ飼い主の愛誤な過保護ぶりがわかるってもんだ。
するとミニイカ、今度は俺の方を向いて同じようにゲショゲショ鳴きだしやがる。
この際誰でもいいからフキフキしろってか?…誰がテメエの言いなりになんてなるかよ!
俺は放置を決め込んで「糞ミニイカ」の末路を生暖かく見守った。
そのまま1分もするとミニイカは『オグゥ、アグァ』などと切羽詰った声を上げはじめ、あっけなく涙腺を決壊させる。

『…ヴゥゥゥー!オギュウゥゥー!ア゛ウゥゥゥー!グビュウゥゥゥー!』 
 

 

 

 
少しくぐもった不気味な泣き声は、飼い主が来てくれない寂しさでなく、ケツ周りの気持ち悪さのみを訴えているかのようだ。

そのまま声が枯れるまで泣き通したミニイカは、口を△にして中空を眺めソワソワしながら『ウヤー、オビョゥー』と不気味な声で呻きだす。
そして力なくウンコの上にへたり込むと、なんとその格好のままズリズリと前進しはじめた。
 

 

 

 
ご主人さまがトイレのやり方教えてくれなかったのか、それともただ単に覚えられなかっただけか。
どっちにしろ、地面の砂利浜にぎこちなくウンコをなすりつけるミニイカの姿は無様という他ない。
生意気にもまだ多少の羞恥心はあるらしく、顔を真っ赤にして涙ぐんでいるのが余計に惨めだ。

 

 

初めからわかっていたことだが、上玉なのは見た目だけだったようだな。
人間っぽい見た目で、人間っぽく振る舞っていても、所詮軟体動物の域は出ないか。
スカートの中を見られるのも恥ずかしがっていたお嬢様が、惨めなモンだ…

俺はそんなミニイカの姿をあざ笑うでもなく、ただ腸の煮えくり返る思いを抱えていた。
人間に近いナリして知性の欠片も感じられない一連の行動は確かに腹立たしいが、しかし俺が本当にムカついているのは別の部分だ。
コイツは折角俺の手を離れたのに、隙を突いて逃げようとしなかった。
ここまでされてもまだ人間は安心安全、お前を無条件に甘やかすものだと信じるのか?
みんなが自分を可愛がってくれるのは当たり前だと、まだ信じるのか?
お前ら飼いミニイカは、どこまで堕落した生き物なんだ。


いいこと思いついた…確かバッグの中に綿棒があったはずだから、ソイツで目にモノ見せてやろう。
箱入りミニイカの処女を綿棒で奪い、もう一つの意味でキズ物にする…
というのは俺の気分の問題で、ただ単に排泄口に綿棒を突っ込んでやるだけだ。
大体、下等生物のミニイカに処女膜なんてあるわけないし、ミニイカの生殖行動がどんなものかなんて全然知らないからな。

早速バッグから綿棒を取り出し、ズリズリ地面を這いずるミニイカの面前に綿棒をチラつかせてみる。
するとミニイカはパッと笑顔になり、座ったままスカートをめくり上げ、汚物まみれの股ぐらを晒し、媚びた鳴き声を発した。

『ゲショゲショピ♪』 ピラッ
 

 

 

 


いつもこうやって催促しているのだろうか。
媚びに媚びた鳴き声と表情…それと対照的なウンコだらけの下半身…
不快極まりないミニイカの姿に、俺の嗜虐心は加速度的に燃え上がる。

テメエの低次元な欲求を満たすためなら、コイツは自分を散々酷い目に遭わせてきた人間にすらいい顔をするんだな…
条件反射レベルの反応…テメエの本能にのみ従順な振舞い…他者との関係を計る知恵や学習能力なんて微塵も伺えない。
人間を糞拭き係としか思わない糞蟲に、「ナメんじゃねえ!」と叫びたいのを必死にこらえる。
代わりにお見舞いするのは湿り気ゼロのシャワー用綿棒、ミニイカの排泄口には収まりきらないイチモツだ。

と、勇んで股ぐらを覗き込んではみたものの、ウンコのこびりつき方が酷すぎて穴が見当たらない。
うーん…本当は一刻も早く綿棒をぶち込みたいところなのだが、素手でミニイカのウンコを触るのは極力御免被りたいな。
不本意だが、穴が見える程度までウンコを掻き出してやることにしよう。

俺はまず綿棒でミニイカを突っついてウンコの山から払いのけ、しぶしぶミニイカの股間に綿棒をあてがい掃除を始めた。
普段と力加減が違うせいか、最初は足をジタバタさせ『ゲショー!』などと叫んでいたミニイカも、じきに抵抗しなくなっていく。
綿棒で局部を撫でられる快感か、ウンコが取れていくサッパリ感か。
ミニイカは砂利浜の上でコテンと仰向けになり、ニコニコ笑顔で嬌声を上げ始めた。

『キャハハッ♪ピャアピャッ♪ゲッショゲッショ♪』

ピクピクッ、ピクンピクン……ミニイカが笑うたび微かに体の表面が収縮するのを、俺の指先が敏感に感じ取る。
思わず胴体を押し潰してやりたい衝動に駆られるが、今後の楽しみが半減してしまうのでここはグッと我慢だ。

しかしコイツのウンコは何なんだ…やけに茶色くて粘っこい上に、まるで人糞みたいな臭いがする。
大切に育てられ、さんざん甘やかされてきたであろう飼いミニイカのこと。
さっきの口臭からも、飼い主が食事を制限させているとは到底思えない。
いつも調味料つきのエビやら油分たっぷりのエビせんばかり食べて、ろくに水も飲まないからこんなウンコが出るんだ。
これじゃキレが悪いのも当然だし、飼い主がいちいち拭いてやらないと部屋に悪臭が立ち込めて大変なことになる。
コイツがトイレを覚えられないのも道理だったって訳か。

 

クチュ…ニュル…
『オォ~♪ゲッショ、ゲッショ、ゲショゲッショ♪ピィ♪』 クイッ、クイッ♪
『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショピ♪』 ウネウネッ♪ニコニコッ♪

…またおかしなことをやり始めたぞ。
リズムにのって両手両足を伸び縮みさせ、有るんだか無いんだか分からない指をグーパーさせながら奇妙な音頭を取っている。

『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショピ♪』
『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショピ♪』
『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショピ♪』
 

 

 

 

 


俺が不本意ながらも言いなりになったせいで、コイツは俺に対する警戒や羞恥心を完全に失くしてしまったようだ。


しゃがんで背中を丸めた体勢のままミニイカの汚物と格闘すること数分、ようやく股ぐらの穴が見えてきた。
途中、快感に打ち震えるミニイカがピュッピュとションベンを漏らしたのには参ったが、逆にこれがウォッシャー液代わりになったおかげで以降は割とスムーズだった。
しかし予想以上にしつこいウンコだった…こんなウンコを出してるようじゃ、俺に関わらずとも安らかな未来は訪れなかっただろうな。
脂肪や添加物に侵され、100年もたずに苦しみ悶えながら死んでいく様が目に浮かぶ。

油断しきったミニイカはまだ両手をグーパーさせて遊んでいる。
待ってろよミニイカ、今天国から地獄に直送してやるからな。

『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショピ♪』
 グーパー、グーパー♪
『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショピ♪』
 ニコッ、ニコッ♪
『ゲッショピ♪ゲッショピ♪ゲッショゲッショ』

ズボッ!!

『ピギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』
 

 

 

 


恍惚の世界が一瞬にして暗転、ミニイカは排泄口に綿棒の先端がめり込んだ瞬間、すさまじい形相を浮かべ絶叫する。
股間周辺はミニイカにとってもデリケートな部分なのだろう、釣り針を引っこ抜いたときよりも数段激しい叫び声が辺りに響く。
さっきの釣り針は俺の過失だと思ったかも知れないが、今度のはワザとだってわかるはずだ。

ズボッ!グチャッ!
『ギャアアアアア!!ヤエエエエエ!!アギエエエエエエエ!!!』
メリメリッ、メリッ… グチャ…
『オォ――――――ッ!!オゴォ――――――ッ!!オッ……』

指先に伝わるコリコリっとした感覚と、口からブクブク泡を吹いて気絶しているミニイカを見て、綿棒が腸を突き破ったことを確信する。
先端だけでも相当な痛がりようだったが、軸までぶち込んでからは目にも留まらぬ速さで手足をパタつかせる傑作なリアクションを見せてくれた。
ミニイカは帽子さえ無事なら多少荒っぽく扱っても死なないという噂、正直疑っていたがあながち嘘でもなさそうだ。
ひとまず満足した俺は綿棒を抜き取り、ミニイカの頭を掴んで全身を川の水に浸け込み洗浄した。

 

 

『ブブブ…ホブッ!オボブブウブッブ!!ゴビョ!ゴビョ!』 ザバァッ
『ギュ――――ッ!!ゲジャアアアアッ!』

激痛で意識を取り戻し水中で暴れだしたミニイカを引き揚げてやると、胃腸をぶち壊されたとは思えないほど元気に騒ぎだした。
触手をワラワラ蠢かせるミニイカの姿は虫ケラそのもので、飼いミニイカらしいぶりっ子感は全く見られない。
…しかし冷静に考えてみると、いささかやり過ぎたきらいもあるように感じる。
特に綿棒をぶち込んだ痕跡がアリアリと残ってしまったのは問題だ。


急に不安が襲ってくる。
ここまでやってしまったら、最早しらを切るのは不可能なんじゃないか…
そもそも、このことが大っぴらになったら例え法的にシロでも仕事を失いかねないし、近所に知れ渡るのも時間の問題だろう。
いや、俺は既に何か大切なモノを失ってしまったかもしれない…たかがミニイカのために…
俺は砂利浜に横たわるミニイカを重い気持ちで眺めていた。

更にマズいことに、水から引き揚げて数分経ったここにきてミニイカの動きが急激に弱まってきている。
いくら帽子が無傷とはいえ、内臓をグチャグチャにされたら流石にこうなるか。

『…ウギュウアアアア!!ギャアアアアア!!イギャアアアアアア!!』

しかし突然、瀕死のミニイカが凄まじい叫び声を上げ、俺の心臓が飛び出るほど高鳴る。
ミニイカはショボイ両手で腹を押さえながらのた打ち回っている…命を削ってでも抵抗しないと耐えられないほど痛いのか。

――だからって、いきなりデカイ声出すなよミニイカ…
――つうか、ここまでやっといて今更ビビってんじゃねえよ、俺…

…やっぱり俺は小心者だな、今改めて思い知ったよ。
俺が勝手にこの凶行の引き金ってことにしたあの事故、あの時バカ女子高生に何も言えなかった俺は…
バカ飼い主への憎しみを、脆弱なペットにしかぶつけられない俺は…
勢い任せに動いたくせして、ビビって腹をくくることもできない俺は、こんなにも弱い男だったんだ。


『フミュゥ…ピィ…ピィィ…』

今度は弱々しい呻き声で俺の方を見やり、哀れに苦痛を訴えかけるミニイカ。
だが俺は、このミニイカが悶え苦しみながらもある一点にチラチラと目線を配っているのに気付いていた。
目線の先にあるのは、相変わらず全く人通りがない土手沿いの小道…ではなかった。
そこにあるのは川釣りセット…釣竿と、ミニイカを釣るために蓋を開けたままにしていた箱…その中には…

『エショ…エショ……ギェ…ビィィ…』

まさか、川エビか!

そういえばコイツは、さっき掌の上で喚いてたときもあの辺りを指さしていた。
あの時気付いたのか…
今思えばあれは、「ご主人さまに言いつける」じゃなく「あの箱の中身をよこせば許してやる」と言ってたんだな。

お前がいつまでも逃げようとしなかったのは、人間を無条件に信じてるからでも、飼い主のお迎えを待ってるからでもなかったんだな。
いじらしく泣いて、プリプリ怒って、笑顔を見せて…そうやって俺に媚びを売り続ければ、いつかあの川エビが貰えるとでも思ったか。
それでも駄目だと分かったから、今際の際になってとうとう直接『ギェビィ』と鳴いておねだりすることにしたって訳だ。
救いようのないクソイカが…
さっきまでちらついてたバカ飼い主の影など消え去り、俺の心は体長5センチの俗物に対する純粋な憎悪で満たされていく。
心の中で、ミニイカに語りかける。


――俺もお前も、取り返しの付かないところまで来ちまったのかもしれんが…今更後に引いたってしょうがねえよな。

『ギュエビィィ…キェビ…ウアァ…』

――お前みたいにちっぽけな飼いミニイカが死に物狂いでエビをねだってるのに、人間の俺が根負けしてたら格好悪いだろ?

『!!!ギュウウウウウウウウウッッッッッ!!』

――お前と一緖に、俺も地獄に行ってやるよ。

(続く)

 

 

 

 

 

edited byアドミニイカ at
笹舟のミニイカ娘 2

(DBの前原一征さんからアイデアをいただきました。主人公にとって頼もしい後ろ盾、ありがとうございます。)

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

コイツは今、生涯最大の恐怖と苦痛を味わっているに違いない。
逃走防止のため引っ付けたままにしてある釣り針を外そうともせず、打ちつけられた砂利浜の上でひたすら泣き叫んでいる。


――あんなおやつにもならない量の川エビに文字通り釣られちまったせいで、楽しい楽しい川下りが一転大惨事だもんなあ…

『ウエェ――ッ!ウエェ――ッ!ギャエェ――ッ!』

――さっきまで魚に向かって偉そうに拍手なんかしてた飼いミニイカが、今やこのザマだ…笑いが止まんねえっつうの。

『フギャ―――――ッ!アイィ――ッ!アイィ――ッ!アイィ―』
「うるせえ!」
『ウギュッ!!………ウゥゥゥ、ビエェ――――ッ!ビエェ――――ッ!』


いかんいかん、ミニイカの金切り声が余りにも耳障りで、つい怒鳴ってしまった…

徐々に馬脚を現してきているとはいえ、まだまだミニイカは人気ペットだ。
バカ飼い主は勿論、その辺の通行人にも、俺が故意にミニイカを痛めつけてると勘付かれてはマズい。
ここからは、あくまで釣りのセッティングを装うことにして、極力ミニイカの存在を隠していこう。
故意だという証拠さえなければこちらに非は認められないし、逆に飼い主の管理責任を問うことだってできる。
たとえバカ飼い主が詭弁を弄してこようと法律は、社会のルールは俺に味方してくれる…はずだ。


『アエー!アエー!アエー!アエー!……』

――ま、これも社会勉強だと思ってさ、ご主人さまが迎えに来るまで俺と一緒に遊ぼうぜ。世間知らずの飼いミニイカちゃん♪

『ウアァ!ウアァ!ウアァ!ウアァ!……』

――何も命まで取りゃしねえって。ちょっと痛い目に遭ってもらうだけだ。心と体に、一生消えない傷が残るくらいにな。

『ギエェ!ギエェ!ギッッッ……』

『ヒギッ!ヒギギギギッ!ヒギッッッ………』


突然顔を真っ青にして悶絶し始めるミニイカ。
どうやら呼吸困難に陥ったらしく、こわばった手足を小刻みに痙攣させ、グリンと白目を剥くと、そのまま意識を失った。
硬直したミニイカの頭を摘み上げ軽くデコピンをかましてみるも、やはり反応はない。

一瞬ショック死したかと思い焦ったが、無駄に150年も生きるミニイカがこの程度のストレスで死ぬ訳がないし、死なれても困る。
どうせ泣きすぎたせいで「ひきつけ」でも起こしたんだろう。
甘ったれ飼いミニイカのことだ、これほど長く泣き通したのは初めてだったのかもしれない。
少しグズッただけで飛んできてくれるご主人さまも、今はいないしな。

まあこれもいい機会だ、大人しくのびてる隙に、コイツがどれだけ大切に飼われてきたかじっくり観察させてもらおうじゃないか。
意識がないんじゃいくら痛めつけたって面白くないし、そもそも意味が無いからな。

 


という訳で観察開始、まずは全体を眺めてみることにした。

釣り針の引っ付いたバカ面とは裏腹に、ペットとしての程度の良さは軽く砂埃を払ってやっただけでも一目瞭然。
ほつれの全くないワンピースは漂白されたかのように鮮やかな白さで、なめらかに光る鏡面仕上げの腕輪も眩しい。
毎日のトリートメントの成果か、触手と前髪はなめらかな手触りに加えツヤもたっぷり湛えている。
マズそうだ。

続いて指でミニイカの両頬を挟み強引に口を開けさせると、上歯茎の裏側で針の「かえし」が引っかかっているのが確認できた。
そこから黒い体液がにじみ出てきているが、傷口が塞がってきたようで思ったより出血(墨?)量は少ない。
エビのついた針を思い切り噛んだせいか、前歯が数本欠けているのもわかる。
しかしそれ以外の歯は綺麗に生え揃っていて虫歯もゼロ、毎日丁寧に磨いてもらっている痕跡もありありと伺える。


ミニイカは軟体動物の分際で人間並みに立派な歯を持ち、殻付きのエビの捕食にも大いに役立っているのだが、緻密さゆえの弱点もある。
それが「虫歯」…野生種ならまず発症し得ないこの病気は、恵まれた食生活を送る飼いミニイカならではの贅沢病だ。
エビだけ食わせてれば滅多にならないらしいが、飼い主が気を利かせてエビに余計な調味料をつけたり、
歯間に詰まりやすいエビせんを食わせたりすることで発生のリスクが跳ね上がるという。

なにせこの小ささと本数だ。
一度虫歯になってしまえば治療は至難の業だし(ミニイカの歯をまともに治せる獣医は日本に数人という噂だ)、進行も異常に早い。
ミニイカがギャーギャー泣き喚くなんて日常茶飯事だから、(おくちイタイでゲショー!)とか泣いて訴えてもエビで誤魔化されるのが関の山。
激痛でエビが食えなくなるまで進行した頃には脳や内臓まで虫歯菌が侵蝕し、結果予後不良で安楽死…なんて心躍る話も聞く。
全く以て飼い主の自業自得、ミニイカなんて人間が飼うもんじゃないという一席である。

そうならないためにも毎日必死にマイクロサイズの歯を磨き、生臭い歯垢と格闘するバカ飼い主が急増中とのことだが…
まあご苦労さんとしか言えないな。
きっとコイツの飼い主も、「愛情たっぷりのエビ料理を食べさせてあげたいっ!」なんて自己満足と、毎日の歯磨きの手間をトレードオフしてるんだろう。
異常なまでに白く眩い歯が、その愚を物語っている。

ちなみにこれらの虫歯情報は、以前たまたま読んだ週刊誌の特集「本当は怖いミニイカの医学」内から得たものだ。
ミニイカ憎さが余って興味を持った訳じゃないし、ましてや自ら進んで勉強した訳じゃな…

『プハッ!』
「うわっ、臭っせえ!」


突如鼻先を襲った生温かい吐息。
手中のミニイカが急に意識をとり戻し、体内に溜まっていた息を勢い良く吐き出したようだ。
飽食の飼いミニイカが放つ口臭は摂生もクソもない食生活が窺い知れるシロモノで、嫌悪の声を漏らさずにはいられなかった。
ゼエゼエと臭い呼吸を整え、その後何秒か呆けていたミニイカも、過酷な現実を思い出してか再び涙をこぼす。

『ウエェェ…ピィィ…アイィィ…』

泣き声に合わせて小刻みに震える体はちっぽけな手足の先まで丸々と肥え、呼吸が戻ってからは血色も良くなってきている。
指先で腹のあたりを摘んでみれば、表情筋の発達した顔面と違いプニプニ柔らかな弾力。
胴体を圧迫され相当嫌がっている様子のミニイカだが、触手や蛇足でそれを押しのけようとはせず、ただ身を任せるだけ。

その態度は、誰からもチヤホヤされてきたであろう飼いミニイカの、人間に対する無条件の信頼…いや甘え。
気に食わないが今は別にいい、大人しくしてるんだったら色々見させてもらおう。
次は股ぐらだ。

キュッ、クイッ
「?」
『イァー…イァー…』

初めての「抵抗」だった。
俺がワンピースの裾に手をかけた瞬間、ミニイカは両手でスカート部分を必死に押さえ、頬を紅く染めイヤイヤと首を振った。
ミニイカ「娘」と呼ばれるだけあって見事な恥じらいぶりだが、口に引っかかった釣り針のせいで全てぶち壊しだ。

当然こんな媚びた仕草に俺がほだされるはずがない。
キーキー喚くミニイカなどお構いなしにワンピースをめくり、モゾモゾ蠢く両足をこじ開ける。
そこには、ここまでで一番の驚きが待っていた。

『キュィィィィ……』 ポッ

下等生物らしい単純なつくりの排泄口は、その周辺も含めてシミ一つ見当たらず、驚くほど清潔だったのだ。
食用の高級養殖ミニイカでも、このあたりは多少黒ずんでいるものなのに…
きっとウンコのたびに飼い主からケツを拭いてもらってるんだろう…そうでなければ説明がつかない。

 

 


『ヒクッ…エクッ…ウユゥゥ…』

どこまで過保護な飼い主なんだ…
すすり泣くミニイカを見ながら、俺は呆れ果てていた。

この隅々まで手入れの行き届いた感じ、飼いミニイカにしたってこれは上玉すぎる。
たかがミニイカにここまでするなんて…そしてそんなミニイカを川に流すなんて…
正真正銘のバカ飼い主が手塩にかけた特上ミニイカ、リベンジの相手には最適だったようだな。

それに、逃げ出す体力も度胸もなさそうだ。
飼いミニイカなんて、普通のミニイカに輪をかけて非力でドン臭くてビビリだからな。
十分怖い思いをした今なら、針を外してやっても大丈夫だろう…そう思い、俺は釣り針に指をかける。


しかしその瞬間、意識が戻って以来ずっと泣き通しだったミニイカが、まるで条件反射のようにピタッと泣き止んだ。
 

 

 

一切の抵抗を止め、涙に潤んだ視線を向け、そしてあろうことか…
 

 

 


俺に向かって弾けんばかりの笑顔を見せたのだ。
「守りたい、この笑顔」とか言われて調子こいてるバカ丸出しのニヤケ面を…
ミニイカの表面的なあざとさと、その奥底にある薄気味悪さが凝縮された、あの憎ったらしいクソ笑顔を!

震える指先に、グッと力が込もる。
いかにも飼いミニイカらしい、人間を畏れようともしないナメた豹変ぶり…俺の激情に火をつけるには十分だった。


『…ホユゥ?』

――そうだよ…ここにいる人間さんも、お魚さんも、川を流れるお水だって、みんなみーんな、君のことが大好きなんだ。

『…フワァ♪キャハハッ♪』

――だから君が泣いてるときは、優しくイイコイイコして、助けてあげるべきなんだ。

『エヒョエヒョッ!エヘヘッ♪』

――…ご主人さまが睨みを利かせてるときだけはな!

ブチッ!!

『アギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』
 

 

 


『アギュウウウウウアアア!!ウアアアアアアアアアア!!……』
『ギャエエエエエ!!ギャエエエエエ!!ビギイイイアアアアアアアアアアア!!!……』


口内から多量のイカスミを垂れ流し、情けないアホ面でボロ泣きするミニイカ。
釣り糸を勢い良く引っ張り、歯肉ごと釣り針を引っこ抜いてやったら、こんな面白いリアクションを拝めた。

身を削げば血が流れ、鼓動が乱れるシリアスさ…それでいて、時に笑いを誘われる滑稽さ…
これがミニイカ虐待ってやつか。
ネットでレポートや写真を見るだけでは決して味わえないカタルシス、「生」の衝撃に思わず身震いしてしまう。

そんな俺を尻目に、ミニイカは引き裂かれた上唇と歯茎を必死の形相で舐め回している。
触手を再生させられるというミニイカの自然治癒力は相当なものらしいが、この短時間では気休め程度にしかならないだろう。
それに歯茎ならまだしも、欠けた歯までは治るまい。
これからは大好きなエビを食べるにも少なからぬ苦痛が伴うはずだ。


――お前ら飼いミニイカの日常は、例えるならばエビの刺身だ。贅沢で、キラキラ光って、甘くとろける夢の世界…

『レロレロレロ、レロレロレロ…』

――今、目の前にある現実はどうだ?ご主人さまのエビの刺身を、こっそり食べて泣いちゃった、ツンツン辛いワサビの味か?

『ンー!ンーム!レロレロ…』

――そんなモン、比にならんほどキツイだろ。

『………ウゥゥ、アエェ!アエェ―――ッ!ピイィィィィ!ピイィィィィィィィ!…』

――頭じゃ理解出来ねえだろうから体で覚えとけ。お前が望むワクワクは、ご主人さまがいないと見れねえモノなんだよ。

(続きはまた後日)

 

 

 

edited byアドミニイカ at
笹舟のミニイカ娘 1

誰のイタズラだろう。
穏やかな清流、1匹のミニイカが笹舟に揺られてドンブラコと流れてくる。
誤って釣り糸が絡まってしまわないよう、俺は川釣りを一時中断した。

今のガキに笹舟なんて作れないだろうから、やったのは恐らくいい年した大人だろう。
ミニイカは泳げないのに、可哀想なことをするもんだ…なんて思っていると、
こちらから表情を目視できるわずか2~3メートルの距離までミニイカが近づいてきた。


『フワァー♪ピャアッ♪ゲショゲショ♪』

  

 

なんだこれは…
いつ転覆するとも知れないチャチな笹舟に乗っているのに、このミニイカは全く怖がっていない。
どこぞの映画みたいに両手を広げたり、飛び跳ねる川魚に拍手したりと、野生動物にあるまじき無警戒ぶり。
おまけに見てくれもやけに小綺麗で、厳しい野生生活の痕跡を全く感じさせない。
そもそも沿岸部にしか生息しないはずのミニイカが淡水の川にいるというのも不自然だ。

コイツは十中八九、人間に飼われているペット用ミニイカだろう。

可哀想という前言は撤回する。
「飼いミニイカ」だったら話は別だ。
誰の庇護も受けられない野生種ならともかく、飼いミニイカを憐れむ気など俺には一切ない。


――広大な自然も、飼い主以外の人間も、この世の生きとし生けるものは全て自分をワクワクさせるためにあり、
   体長5センチの小さな少女を無条件に優しく包んでくれるもの…そう信じているかのように振る舞う飼いミニイカ。

――飼い主が差した傘の下で、「安全な刺激」に頬を赤らめ胸ときめかせる飼いミニイカ。

――何の心配もない、幸せであったかい生活が150年続くと信じて疑わない飼いミニイカ。


俺の一番嫌いな存在だ。
飼いミニイカの幸福に満ちた笑顔を見ると、抑えようのない怒りがこみ上げてくる。
奴らにこれほどの憎しみを抱くようになったきっかけは、数ヶ月前に出くわしたある災難だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  

 

 


  

 



――いやああああああああああ!ミニイカちゃん!ミニイカちゃあああああん!

うわっ、ミニイカかよ…ついてねえな

――この鬼!悪魔!人殺し!

ミニイカは人じゃねえよ…

――エビフライのぬいぐるみ持ってたのよ!誰かのペットだってわかるでしょ!

たった5センチしかねえドン臭いミニイカなんざ、気づかず踏み潰したってしょうがねえだろ!

――返して!私のミニイカちゃんを返して!!

何が返してだ!そもそもテメエが公園に野放しにしたのが悪いんじゃねえか!ふざけんな!!

――返せええええええええ―――――――――――――――っっっっっ!!!!

ゴミは飼い主が責任持って片付けろよ

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

…本当は色々言ってやりたかった。
相手はいい年して頭にカチューシャなんてつけたバカ女子高生だったが、靴や手持ちのカメラから推測するに家は金持ちそうだった。
下手にもめて訴訟沙汰になるよりはマシだと、つい平謝りしてしまった自分の小物ぶりにウンザリする。

 


結局あのバカ女子高生は、ミニイカの凄惨な死骸を一度も直視することなく、全てをほったらかしにして現場から逃げ去った。
きっと代わりはいくらでもいるんだろう…ああいうのに限って、ミニイカをモノ感覚で扱うもんだ。
対象が犬や猫、他の動物だったら、あんな対応はまず有り得ないはずだ。
所詮ミニイカは見てくれが可愛らしいだけの軟体動物、ただのイカにすぎない。
なのにアイツらは、他人の迷惑を顧みず我が物顔で世界を闊歩してやがる。

体長5センチのペットを自然や公共の場所で野放しにして、「ちっちゃな大冒険」に酔う様を眺め悦に入るバカ飼い主。
花見会場で野放しにしたり、リードもつけず肩に乗せて歩いたり、病室に無理やり連れ込んだり…
ブーム初期の「どこでも一緒にいられる」という謳い文句を真に受けた一部の飼い主が、こういう問題行動を起こしている。
さすがに笹舟で川下りさせるなんてのは聞いたことがないが、それくらいのバカがいても不思議じゃない。
そのくせミニイカがちょっと危ない目に遭うと血相変えて飛んできて、謝れだの治療費を出せだのやかましい。

相変わらず笹舟の上でゲショゲショはしゃぎ続ける飼いミニイカに、そんな顔もわからぬバカ飼い主の影がちらつく。


俺は思った…これはリベンジのチャンスなんじゃないか、と。
甘ったれ飼いミニイカを自分の意思で痛めつけ、憎むべきバカ飼い主に今度こそガツンと言ってやる…
そのチャンスが来たんじゃないか?

手元には川釣りセット一式と、先ほど別の場所で釣り上げた川エビが数尾。
…チャンスだ。
俺は駆け足で下流へ向かい、先回りしてミニイカの乗った笹舟を待つ。
そして大急ぎで針に川エビを仕掛け、約5メートル先の笹舟に狙いを定めて軽く釣り竿を振った。


ポチャン『ウユ?……ゲッショオオオオ♪』
パチャッパチャッ…『ゲッショ、ゲッショ…』
『フワァァァ…キャハッ♪ハァーンムッ♪』ガチッ

『イギャアアアアア!!ギャイイイイイ!!ギャイイイイイ!!…』

 

 


リベンジの第一歩は、拍子抜けするほどあっさり成功した。
何のことはない、笹舟から数十センチオーバーで着水した川エビ付きの仕掛けを、ミニイカがわざわざ触手でたぐり寄せてくれたのだ。

甲高い悲鳴と竿の手応えでミニイカが針に食いついたことを確信し、針が外れてしまわないよう慎重に竿を引く。
すると、軽く非力なミニイカはまるで人間大砲のように笹舟から射出され、こちらに勢い良くふっ飛んできた。

『ゲショォォォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!』

緊迫感の欠片もない叫び声を上げ、涙とイカスミを撒き散らしながら迫ってくるミニイカ。
そして、束縛から解き放たれかの如く自由に、そして軽やかに下流へ消えていく笹舟。
きっとあの笹舟も、いけ好かない船頭がいなくなって清々したことだろう。


『アエー!アエー!』

いとも簡単に釣り上げてしまったので少し味気ないが、人質ならぬイカ質を手に入れたことでひとまず最初のヤマは越えた。
とりあえず、バカ飼い主が現れるまではコイツで遊ばせてもらおう。
それにしても、飼いミニイカの薄っぺらい「ワクワクさがし」をこの手で終わらせた高揚感…癖になりそうだ。

 

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「ミニイカファミリー」

近頃、ミニイカ向けのグッズ展開は今までにない活況を見せている。
150年の長寿命が皮肉にもネックとなりミニイカそのものの売上が激減したため、業界が衣服や玩具などの関連商品に活路を見出したのだ。
中でも人気なのが、玩具メーカーと研究機関の共同開発により生まれた「ミニイカファミリー」シリーズ。
エビに不自由しない飼いミニイカだけが持つ「好奇心」と「お姫さま願望」を満たすミニチュアハウスとして、発売開始から瞬く間に大ヒット商品となった。
今ではハウスのみならず追加の家具やお店、学校、遊園地…果てはミニイカが自ら乗って操縦できる電動ミニカーまでラインナップされている。
しかしその多くは既存の玩具の流用に近いもので、ヒットの裏には研究機関を名乗るミニイカ愛護団体とメーカー側の癒着があるのだが…
愛護派にとっては「それはそれ」。
最近念願のミニイカを手に入れたある女性も、一人暮らしの寂しさを紛らすべく早速「ミニイカファミリー」に飛びついた。
ハウス&家具一式の「はじめてのミニイカファミリー」と着せ替えドレス。
しめて5000円の出費も、キャッキャとはしゃぐミニイカの愛くるしい笑顔で帳消しになった。

しかし…問題はそのミニイカだった。

養殖場、ペットショップ、何のオモチャもない部屋…と渡り歩いた殺風景な生活から、一夜にして華麗なる転身を遂げたミニイカ。
全て他人任せのシンデレラ・ストーリーに胸をときめかせたのも数日、この「お姫さま」はあっという間に欲深い暴君と化した。
飼いミニイカというのは往々にして調子に乗りやすいものだが、そこに「ミニイカファミリー」が加わったときの破壊力たるや凄まじい。

 イカスミが染み付いた布製の家具…
 毎日掃除してもなお、エビの食べカスと糞尿で汚れていくハウス…
 ハウス内とその周辺に充満する腐った魚介の臭い…
 そして、贅沢を覚えてみるみる増長していくお姫さま…

「ミニイカファミリー」最大のウリであるファンタジックな世界観が、ミニイカの動物的かつ即物的な一面を禍々しく引き立てるのだ。


――(エビはまだでゲショか!)クンクン、クンクン…ヂィッ!(こんな安物イヤでゲショ!)
やがてお姫さまは高級なエビ以外一切口にしなくなり、傲慢さの増した笑顔ではとてもペイしきれないエサ代を「召し使い」に強いることとなる。

――(床にオシッコが残ってるじゃなイカ!はやくフキフキするでゲショ!)(おしりのウンチもフキフキでゲショ!)
ペットショップで覚えたトイレ所作も途端に馬鹿らしくなり、下の世話すら飼い主に要求する始末。

――(お魚屋さんほしいでゲショ!)(ピカピカお風呂買ってでゲショ!)(赤ちゃんセット!この赤ちゃんすごくカワイイでゲショよ!)
「ミニイカファミリー」のカタログなど目に入った日には、キンキン、キンキン、キンキンと、駄々をこねる金切り声が喧しい。


そんな召し使い生活に疲れ果てた彼女に追い打ちをかけたのが、同じマンションの住民による苦情の声、声、そして声…

――お宅のミニイカがうるさいんだよ!ペットOKだからってミニイカはないでしょ!?
――どういう育て方したらあんなにうるさく鳴くんだ!?…まさか虐待とかしてんじゃないだろうね?
――もう何でもいいよ!眠れないから早くどうにかしてくれ!

余計なオモチャなど与えず水槽と安いエビせんだけで済ませていれば、こんなことにはならなかったのに…
金欠と心労、そして慢性的な耳鳴りによって、彼女は極限まで追い詰められていた。
もはや、隣人や大家との話し合いの場を持つまでもない。
彼女の心は、既に決まっているのだから。

午前0時。
フカフカのベッドに体を沈め、赤ちゃんミニイカのぬいぐるみを抱っこしたまま眠るお姫さま。
その首に、召し使いの細く長い指が、そっとかけられた。

『ヒギュッ!!』

 


彼女はまだ、本気でミニイカを殺そうとはしていない。
恐れ慄きながらも、全く苦しむ様子を見せないミニイカの表情がその証拠である。
しかしそれでも、彼女が本気でミニイカを憎んでいることだけは、寝起きのミニイカにも伝わっているようだ。

従順な召し使いの豹変…お姫さまの驚愕はしかし一瞬だった。

身の危険を察知したミニイカの脳内で、彼女の存在は「召し使い」から「優しいお姉ちゃん」へと書き戻されていく。
そして、ホロホロと保身の涙が零れはじめる…

(お姉ちゃん…ウソだよね?わたし、お姉ちゃんだいすきでゲショよ…?)

たとえ愛憎半ばであっても、このミニイカは「お姉ちゃん」が金も時間も惜しまず育ててきた正真正銘の「ペット」。
それを、自らの手で殺めんとしている彼女の胸中たるや…ミニイカよりもずっと泣きたいくらいだろう。
しかし当のミニイカはそんな彼女の苦悩を慮ろうともせず、いじらしいまでの泣き顔で彼女を見つめ、ただその身を任せるだけ。

(イヤ。こんなのイヤ。…もどって。早くいつもの「優しいお姉ちゃん」にもどって…)

お姉ちゃんは知っている。
この態度が、この涙が、人間の憐れみを誘って身の危険を避けるための防衛本能でしかないことを。
そしてミニイカも知っている。
お姉ちゃんとの蜜月が、シンデレラ・ストーリーが、何の心配もいらない日々が、もうすぐ終わりを迎えることを。


『ピィィィィィィィィィィィィィィィユゥゥゥゥゥ!!!!!!』


………


あれから何日経っただろう。
結局お姫さまは、「ミニイカファミリー」どころか、飼い主の庇護も、ペットというステータスさえも失い、一介の野良へと堕ちていた。
命は取られなかった。
あの召し使いは…優しいお姉ちゃんは、それでもミニイカが好きだったのだ。

飲まず食わずのまま、当て所ない放浪の旅を数日間続けた末に辿り着いた、夜の公園。
そこには、かつて自分が過ごした「家」が無惨にも打ち棄てられていた。
郷愁と安堵を求め力なく玄関ドアを開けた瞬間、ミニイカは土埃に誘われて『クチュン!』とクシャミをする。
主を失った廃墟は惨憺たる有様で、豪奢なインテリアは無惨に倒れ、風雨を遮る屋根も破壊され、既にハエやムカデの棲家と化している。
疲れきったミニイカはそれでも表情を変えず、まとわりつくハエを触手ではね除け、ふらつく足で階段を這い上り、薄汚れたベッドに横たわった。

懐かしい感触を貪りながら、ミニイカは悟る…「ミニイカファミリー」など、所詮は砂上の楼閣に過ぎなかったのだと。

 あの女にとって自分は、「ミニイカファミリー」のアクセサリーでしかなかったのか…
 あのカタログに載っていた、きらめく商品の一つでしかなかったのか…
 散々私を持ち上げておいて…期待させておいて…愛しておいて…!
 人間は…!人間は……!

……

翌朝、廃品回収にやってきたトラックの轟音でミニイカは目覚めた。
そして、逃げる間もなくハウスごとトラックに載せられてしまう。
いや、全てに絶望し、逃げる気も起きなかったというのが正しい。

トラックの上には、打たれ弱いお姫さまが抱えるには余りにも大きすぎる轟音、振動、空腹、そして不安…
喉もカラカラなのに、止めどなく熱い涙が溢れてくる。
捨てられたことを認識したあの日の夜、寒空の下で初めて流した「本気の涙」。
ミニイカは、それがもはや自分に何ももたらさないことを知っていた。

ついに涙も枯れ果て、思い出深いハウスに別れを告げるミニイカ。
国道を猛スピードで駆けるトラック、その荷台の淵を、死力を尽くしてよじ登り…

薄汚れた身体を、そっと後続車の前に投じた。

わずか1年足らずの生涯を終えるその瞬間まで、ミニイカはついに自らを省みようとはしなかった。

(おわり)

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「半生マビキ仔ミニイカ娘」



老舗ミニイカ娘養殖業・れもん印でお馴染みの長月産業から、画期的な新商品のご案内です!
その名も「半生マビキ仔ミニイカ娘」
栄養満点、クセのない柔らかな風味が人気の仔ミニイカ娘を、丸ごと御賞味いただけます。

・「マビキ仔」を使用し、低コスト化を実現!
部位に欠損があるものや、ワガママが過ぎるものは間引きの対象となり、仔のうちに加工・調理されます。
本商品はこの「マビキ仔」を使用することでリーズナブルな価格を実現しました。
勿論、安全性については一切問題ございません。

・高度な手作業が必要だった脱衣処理を、最新技術で完全オートメーション化!
今まで、仔ミニイカ娘は「かき揚げ」「塩辛」などの加工した状態でしか流通できませんでした。
仔は成体に比べ小さくデリケートなため、脱衣処理には熟練の職員による手作業を要し、手間とコストに見合わなかったのです。
しかし当社独自の最新技術がこの懸念を解消、仔ミニイカ娘の柔らかい身を傷つけることなく、一瞬でむき身にすることに成功しました。

・特殊な電気ショックによりイカ帽子の内部だけを超高速で粉砕!
ミニイカ娘は調理前にストレスを与えると余計な水分が抜け、身が締まり旨味も増すことが知られています。
しかし本商品は、敢えて脱衣処理から間を置かず一気に〆ることで、仔ミニイカ娘本来のやさしい味わいを閉じ込めました。
皆様の食欲を損なわせない穏やかな表情は、ライン上でほとんど苦しむことがなかった証です。

・ISO22000取得の最新工場で生産、安全と高い品質をお約束します。

・素材そのままの美味しさにこだわり、食塩・添加物は無使用!
お料理、毎日のおやつには勿論、ダシ取りや釣りエサにもお使いいただけます。
またペットに与えても安心です。
 

 

 

※開封後はできるだけ早くお召しあがりください。食感は落ちますが冷凍保存も可能です。

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『格差』

天然のミニイカ娘は数が非常に少なく捕獲も困難な上に、ミニイカ娘ブーム最初期に起こった乱獲によりさらに数が減ってしまった。
そのため現在日本にいるミニイカ娘は、養殖モノとその子孫が殆どである。
ペットとして飼われているもの、食用として消費されるもの、そして…街で暮らすもの。

 
半年前、ペットショップからお姉さんの家にやってきたミニイカ娘。
お姉さんはミニイカ娘を目一杯可愛がり、ダンスやスキップをすればエビを与え、家にいる間ずっと遊び相手になってくれていた。

ある日、お姉さんと一緒に公園を散歩していたミニイカ娘は、植え込みの中で同胞3匹が蠢いているのを見つけた。
体は汚れ、少しやつれた顔の3匹。彼女らもミニイカ娘の存在に気づき、うつろな表情でミニイカ娘たちを見上げる。
ミニイカ娘はお姉さんにせがんで植え込みに降ろしてもらうと、笑顔で同胞のもとに駆け寄って
「一緒に遊ぼ!」とでも言いたげに「ゲショ!ゲショ!」と鳴き、砂遊び用のミニスコップとミニバケツを差し出した。

だがその瞬間、先頭にいた同胞が触手でバケツを払いのけスコップを奪い取る。
そして間髪を入れず、スコップでミニイカ娘の頬を殴りつけた。

 

 


「パコン!」小さく乾いた殴打音で、ミニイカ娘たちを微笑ましく眺めていたお姉さんが凍りつく。
殴られたミニイカ娘は一瞬呆然としたあとその場にへたり込み、
「ビギャアアアア!ゲジョオオオオオ!」と堰を切ったように泣き出した。
同胞は再びスコップを持った触手を振りかざしミニイカ娘を殴ろうとするが、
すかさずお姉さんがミニイカ娘を救出したため事なきを得た。

手のひらに乗せられたミニイカ娘は、お姉さんの顔を見上げると笑顔で指に触手を絡めて、キュッと抱きつく。
他の2匹は、仲間の豹変ぶりを見てしばし呆気にとられていたが、やがて黄色いバケツをいじりだす。
その傍らで触手でスコップを握りしめたまま、お姉さんに甘えるミニイカ娘を恨めしそうに睨むミニイカ娘が1匹。
その視線に気づくことなく、お姉さんはミニイカ娘と一緒に逃げるように公園を後にした。



ミニイカ娘を妖精の類と信じていたお姉さん。
「ゲショォォ!ゲーショォォー!…」
飼育放棄の理由は「幻滅」…それだけだった。
「ピィィィィッ!ピィィッ!ピァァァッ!…」
乱雑に投げ込まれたコンビニ袋の中。
「ピィィュゥ!ピィィュゥ!ピィィュゥ!…」
黄色い靴とポシェットを身につける動きは、悲しい習性としてミニイカ娘の脳裏に残っていた。

 


朝日が昇ってきた。
養殖場で(人間にとって)規則正しい生活リズムを叩き込まれたミニイカ娘は、この時間に起きたことがない。
ミニイカ娘はポシェットの中にカリカリがあることを思い出し、コンクリートの道の上で立ち止まりポシェットを器用に開けはじめる。

「ゲ…?ゲジョー!ギャピイィィィィ!」
それは突然だった。
大きな頭を支えるには心許ない細い首に、汚れた青い触手が絡まる。
首を力一杯に締め上げられ、後ろを振り返ることができないミニイカ娘。
その背後では、1匹の薄汚れたミニイカ娘が虚ろな目で立っていた。

 

 

 


「ピギュウウウ!ピィー!キャアアア!」
青い顔でもがき苦しむミニイカ娘。
まるで誰かに助けを求めるように、両手と触手を前方に伸ばす。

しかし、夜が明けたばかりの公園には全く人気がなく、ミニイカ娘のか弱く悲痛な叫び声だけが響いていた。

朝焼けを浴びる2匹のミニイカ娘。
首を絞められたミニイカ娘は、口から黒い泡を吹いてうつ伏せに倒れている。
手足が変色していることから、既に死亡したようだ。

飼い主との幸せな暮らしを取り戻せなかったミニイカ娘だが、辛い野良生活をたった数時間しか送らずに済んだのは、
ある意味幸せだったのかもしれない。


「アムアム…ンムンム…」
その傍らでは、薄汚れたミニイカ娘が、エビの味がする食べ物をポシェットから取り出し、夢中で頬張っている。

そして全て食べ終えると、死んだミニイカ娘の靴を脱がせ、触手で自分の足に履かせていく。
街中における靴の重要性を知っていて、なおかつ手際の良い動作…
この薄汚れたミニイカ娘も、かつては飼いミニイカ娘だったのだろうか。
靴を履いて笑顔のミニイカ娘は、ピョンピョンとジャンプし履き心地を確かめると、
「ゲショ!ピャアア♪」とバンザイして喜び、消えた。

柔らかい何かを蹴飛ばした違和感でランニングの足を止めた男性。
「うわっ、ミニイカかよ!朝から気分悪りぃな…」
数メートル先には、壮絶な表情のミニイカ娘が1匹、イカスミにまみれて転がっている。

 

 

 

 


「何だこいつ…生意気に靴なんか履いてんじゃねえよ!野良のくせによ!」
ジャージの裾とシューズをイカスミで汚された怒りで、男性は瀕死のミニイカ娘を地面に踏みつける。
人間の全体重がのしかかり、すり潰されたミニイカ娘は「ギェ」と小さい断末魔を上げ、文字通り路傍のシミと化した。

この公園に暮らす野良ミニイカ娘は、人通りが多く危険なランニングコースにはまず出てこない。
にも関わらず、薄汚れたミニイカ娘は、エビの匂いをうっすら漂わせる隙だらけの同胞に釣られ、フラフラとやってきてしまった。
そのために、命を落としてしまった。
しかし、もう二度と食べられないと思っていたエビの味を堪能した直後、
短い苦しみで死ぬことが出来た彼女は、野良としては望外な幸せ者といえよう。

 

 

 

 

 

 

 

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 ~ミニイカ娘肥満防止キャンペーン~

食事管理は飼い主の義務。ミニイカ娘の愛らしさを守れないのなら、あなたは虐待派です。
「こんな姿になっても、あなたは愛し続けるのですか?」

 

   


            ~守ろう、可愛い生命を~
私たちはミニイカ娘を守るため、動物愛護法の改正を求めます。


  

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マンガ「冬のおそとは寒いでゲショ」 ~エ

 マンガ「冬のおそとは寒いでゲショ」 ~エピローグ~

 

 

 

 

 

 

  

 

音声も合わせてどうぞhttp://www1.axfc.net/uploader/Sc/so/279199

 

 

 

 

 

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ビジュアルノベル風
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