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登場人物
時田律(高校生or中3)結構母親思いのいい子。冷静というかトーンが低いが正義感とかしっかり。
時田麻貴(3~40代) 律の母親。自由人。行動力が半端ない
時田澄 (40代麻貴と2~5歳差)律のおば。おおらか。京都人!って感じ
猪口暮露
扇
なつめ
三郎太(猫又) 一人称わし。最も古参。でも現代に適応
つくもについては性別不詳。イメージではちょくぼろんは男。その他女。猫又はなんかどっちでもいい
スポット 中央に律
律 ※ 九十九神って知ってますか。長い間人間に使われた物に神様や霊が宿った、妖怪みたいなものです。これは、俺のある夏の思い出。九十九神と過ごした、一夏の思い出。
雑然とした部屋。ヘッドフォンをして漫画を読む律。
母 りつー?律?
母、律を呼びながら扉を開ける
律、気づいてヘッドフォンをはずす。
律 なに?
母 ・・・ぇーっとですね。・・・・そうだ、京都へいこう!
・・・(間)
律 (咳払い)ごめん。よく聞こえなかった。もう一回言ってくれない?
母 京都に行きましょう!!
律 ああー最近耳が悪くなってきたのかな。おかしな言葉が聞こえる。
母 京都!!行こ!
律 (ため息)いや・・・わかったけど・・・。なんで?
母 なんとなくです!!
律 ……いってらっしゃい(優しく)
母 何言ってるの。律も行くのよ!
律 やっぱりそうなるか……。いつ行くの?
母 今日!
律 ……いってらっしゃい(優しく)
母 何言ってるの。律も行くのよ!
律 嫌だよ!学校は!?部活は!?
母 大丈夫。学校には欠席届。部活には退部届を出したわ!
律 退部届!?なんで退部届なんだよ!部活も欠席でいいじゃん!
母 あ、そうだった。うっかりしてた。まあ、また入部しといて。
律 ……最悪だ。なんで同じ部活に二度入部しなきゃいけないんだ……。(死ぬ)
母 一泊するからね。夕方出発。
律 ………
母 ほら、律。終わったことにいつまでもうじうじしてないの!
律 ………
母 もう、せっかくおばさんの家にいけるんだから、もっと喜びなさい。
律 ……おばさん?
母 うん。
律 ・・・俺会ったことある?
母 ・・・3歳ぐらいの時に?
律 そんなの覚えてないよ
母 そりゃそうでしょうね。私も3回くらいしか会ったことないもの。
律 そんな、ほとんど会ったことない人の家に泊まるの!?
母 いいのいいの。私ってそういうの気にしないし。
律 だろうね。
母 でもおばさん優しいわよー。何泊でもええよーだって
律 ・・・ふぅん・・・。
母 じゃ、ちゃんと準備しといてね!アデュー!
律 あ、ちょっと!!
母、退場
律 ・・・はぁ・・・。たまにはゆっくりしていたいよ・・・。
スポット
律 こんなふうに、いつもどおり母さんのはた迷惑な行動力に振り回されて、俺は京都まで出向くことになった。母さんの奇行には慣れてるけど、今回ばっかりは、なーんかいやな予感がした。いや、そもそも、すでに嫌なことはおきてるわけだけど。京都って修学旅行以来だから、そんな変な気分になっただけなのかもしれない。
場転。京都の叔母宅
叔母がいる。
叔母 どうぞ、あがってあがって。
母 お邪魔しまーす。
律 お邪魔します。
叔母 まきちゃん!いらっしゃい。そっちは……律ちゃん?
律 こんにちは
叔母 立派になったね~。うん!かっこええわ~!
律 ど…どうも……。
叔母 律ちゃん覚えとる?昔会うたんやけど……。
律 いえ・・・すみません・・。
叔母 せやなぁ。まあちっちゃかったしなあ。ああ、座って座って。
※ 律 母 座る
母 すみませんお姉さん。突然押しかけて……。
叔母 いやいやええんよ。突然電話きたと思ったら泊まらせてゆうてびっくりしたけどな。
母 あはは……。なんかふと京都行きたいと思って……。
叔母 まきちゃんのそういうとこ私好きやわぁ。行動力あって!
母 えへへへ……。嬉しいです~。
叔母 どこいくん?決めとる?
母 うーん……何も決めてないんですよね。良いところありますか?
叔母 せやなぁ…祇園とかはええお店いっぱいあるで
叔母 案内したろか?
母 いいんですか?
叔母 ええよ ええよ。あ、お抹茶飲む?
母 え?いいんですか?!
祖母 うち、お茶の先生やってはるんよ。まかせとき。
律 準備とか大変なんじゃないですか?
叔母 大丈夫やで。お抹茶点てるくらいならすぐやで。
律 そうですか・・・ありがとうございます。
叔母 じゃあ、ちょっと道具とって来るな。
母 あ、手伝います
叔母、母退場。扇、部屋に入ろうとして律と目が合う。
扇 あっ
律 あ、どうも。(会釈)
扇子 あ、あ・・・どうも・・・。
律 えーと、いとこ・・・になるのかな?いくつ?
扇子 え・・・あの・・・えっと・・・
律 名前なんていうの?
扇子 えっと・・・
律 俺は律。女みたいだろ?
扇子 ・・・・・・
律 ・・・・・大丈夫?
扇子 あ・・は、はい・・・。
律 どうしたの?
扇子 あ、あの!!ごめんなさい!!
扇子、退場
律 ・・・・すっげー人見知り・・・。
叔母、母入場
叔母 おまたせー。
律 あ、ありがとうございます。
母 茶箪笥見せてもらったけど、お茶の道具ってすごくきれいよ~。
律 そうなんだ。
母 ほら、このいれものとか。
叔母 それはなつめ。お抹茶はいってるからきぃつけてな?
母 あ、はい。(律に手渡す)
律 朝顔・・・?
叔母 うん。お茶はいろんなところに季節感をだすんやで。
母 へえー
律 ・・・そうなんですか。あ、ありがとうございます。(おばになつめを返す)
叔母 特にそれはうちのお気に入りなんや。
叔母、お茶を点てだす。
母 きれいですもんね。
叔母 うん。それに、祖母の代からつかっとるもんやし。
律 そんなに使ってるんですか。
母 長い間使ってるんですね。
叔母 元のものもええし、手入れして使ってきたからな。
律 ・・・ふうん・・・。
母 そんなに長い間使ってもらえて、きっと、その なつめも感謝してますよ!
叔母 ホホホ。せやったらうれしいわぁ。はい、どうぞ。
母 やったーありがとうございます。
叔母 律ちゃんも。
律 どうも。
(3人、お茶を飲む。)
律 あ、そういえばおれ、明日留守番しててもいいですか?
母 えー律行かないのーー??
律 うん。ふたりでいくならいいじゃん。
叔母 なんでぇ?もったいないやん?
律 もともと母さんが心配でついてきただけだし・・・
母 息子に心配される私って・・・
律 それに、娘さんも一人じゃ寂しくないですか?
叔母 娘?
母 娘なんていました?
叔母 ううん。いーひんよ。
律 いや・・・いたじゃないですか。11,12歳くらいの・・・。親戚ですか?
叔母 このうちにはこの3人の他におらへんけど・・・。
律 じゃあ、さっきのは……。誰?
3人 ・・・
母 き・・・きっとなにか見間違えたのよ!!
律 そ、そうかな。
母 ねっお姉さん
祖母 ………。
母 お姉さん?
祖母 座敷わらしかもしれんねぇ。
母、律 えっ?
祖母 よくあるんよ。出かけから帰ってきたら、物の場所が変わってたりするんが。
母 そうなんですか?
祖母 ええ。きっと りっちゃんのこと気になって見に来てくれたんでしょうね
母 律、明日いいの?本当に来なくて?
律 いいよ。
母 怖くない?
律 ……別に。
母 大丈夫?
律 うん。俺そういうの信じてないし。
母 来なくていいの?
律 いかないって!女の人の買い物ってめんどくさいし・・・。
母 ・・・わかったわ。何かあったら電話するのよ?
律 小学生じゃないんだから。
母 ・・・もう・・・。
叔母 じゃ、じゃあ今日はお風呂はいって寝よか。
母 あ、ありがとうございます。律、はいってきたら?
律 ・・・ああ、うん。
スポット。
律 結局。あの女の子はいったいなんだったんだろう。座敷わらし?でも、本当にそんなのが現実にいるのか?
暗転
違う場所。薄暗い。
扇 どうしよーー。見つかっちゃった・・・。
猫 誰にじゃ?
扇 律・・・。
猪口暮露 律か?懐かしいな。
猫又 何かはなしたんか?
扇 ううん。うちの人と勘違いしてたみたいで、いろいろ聞かれたけど、答えないで戻ってきた。
猫又 ・・・そうか。
猪口暮露 ならまあ大丈夫じゃないか?
猫又 ああ、すぐ帰るじゃろうしな。
扇 そうかなー?大丈夫かな?
なつめ、入場
扇 あ!なつめ!お帰り。
なつめ 扇・・・君、律に見られた?
扇 うん・・・ごめんね・・・。
猫又 なにかいっておったのか?
なつめ なんか、座敷童子ってことで片付いてた。
猪口暮露 ははっ。間違ってはないな。
猫又 妖怪ってとこだけじゃが・・・。
なつめ で、明日は律一人でいるらしいから、気をつけないとね。
扇 うん・・・。
猫又 ※まあ、ばれたらばれたでどうもならんと思うけどな。
扇 え?なんで?
猫又 子供の話じゃぞ?誰も信じん。すぐ帰るしな。本人も不思議な思い出になって終わるじゃろう。
猪口暮露 まあそうだが・・・。
なつめ 見つからないに越したことはないんじゃない?
扇 ……でも、私、律と話してみたい!
なつめ ……?ああ、律は扇のお気に入りだったね。
猪口暮露 よくもまあ一度使われただけの人間に愛着がもてるな。
扇 猪口暮露さんだって、死んだ哲男さんにいつまでも愛着持って・・・。
猪口暮露 長い間使ってくれたんだ。当然だろう?
なつめ まあまあ。考え方なんて人それぞれ。
猫又 好きな人がいるってのは大事なことじゃ。じゃが、人に見られてはいかん。
扇 え、なんで!?
猪口暮露 私たちはいままでそうしてきたんだ。そうして付かず離れずの関係を保ち、うまくやってきたのだ。
扇 でも……。
猫又 それに、わしたちは、人間を慕う心で存在できておる。おまえも、律を思う心でそのような姿でいられるのじゃ。
猪口暮露 そんなお前が、律と話して、それに満足してしまったら……。
なつめ 最悪、消えちゃうかもね……。
扇 そんな……。
猫又 確かめたこともないからの、実際のところどうなるかわからん
猪口暮露 会わなくていいに越したことはない。
なつめ それなら、一応隠れる努力はして、もし見つかったらしゃべればいいんじゃない?
猫又 (ため息)なにを言っておるんじゃ……結局なつめは、扇のみかたじゃな。
猪口暮露 絶対にだめだ。私たちならまだしも、律を慕ってる扇が律に会うなんて、言語道断。
猫又 わしも、今回ばっかりは猪口暮露に賛成じゃ。慕う人に会いたい気持ちはわかる。しかし、どうなるかわからんのも事実じゃ。会わせるわけにはいかん。
なつめ ……そうね。私だって、扇には消えてほしくないわ。
猫又 そういうことじゃ。諦めい。
扇 ……。
猫又 猪口暮露 退場。
スポット 扇、なつめ
なつめ 残念だったね、扇。でも、私たちが言ってることわかるでしょ?
扇 でも、でも……それでも、私は律に会いたいよ!!
扇 走ってはける
なつめ あ、ちょっと、扇!
追いかける。
暗転
朝。居間。
なつめ 走って登場。
なつめ 扇―。扇―。
猫又 登場
猫又 ん?どうしたんじゃ。
なつめ それが、扇が昨日から見つからなくて……。
猫又 なんじゃと?
なつめ 猫又さん。一緒に探して。
猫又 ああ。わかった。猪口暮露にも手伝わせよう。
猫又 なつめ はける
律 登場。
律 おはよー。
・・・
律 あれ?母さんたち、もう行ったんだ・・・?
(電話の音)
律 あ、母さん。もしもし?
扇 律の背後から登場し近づいていく。律は気づいてない。
律 うん。ああ、出前とればいいの?
猪口暮露 猫又 なつめ 登場。扇を連れ戻そうとする
わかった。朝は?・・・ああ、(時計を見て)まあいいよ。
妖怪大戦争
・・・うん、うん。じゃあね。
猪口暮露 猫又 なつめ 律に見つかりそうなので退却(決して扇に負けたわけじゃない)
律 ・・・(溜息)
律 扇と目が合う
なつめ、居間に入ろうとする。
扇 久しぶり!
律 昨日の座敷わらし!(あとずさる)
扇 違う違う!座敷わらしじゃないって!
律 じゃあ、なんなんだよ!
扇 え、えーと……。私は、ここの近所の子です!
律 近所の子……?
なつめ ……扇といいます。
律 扇さん・・・?あの、今叔母でかけてるので・・・
扇 ……え、ええ。そうみたいだね。
律 は?(いやみっぽく)京都では人のうちに勝手に上がりこむんですか?
扇 ごめんなさい。でもね、昔はそうだったんだよ?留守でもかぎかけずに・・・。
律 ・・・・そうですか。伝言あれば預かりますよ。
扇 むー。最近の子はひどいなぁー。帰れオーラがでてるよ!
律 (イライラしながら)すみませんね。そんなつもりなかったんですが・・・。
扇 そうなの?
律 で?
扇 ん?
律 伝言預かりますが!
扇 ・・・あ、ああ・・・ 実はあなたに用があったの!
律 は?
扇 私たち 会うのは初めてじゃないのよ?
律 え?……そういえばさっき、久しぶりって言ってたな。
扇 そ、会ったことあるのよ。私たち。昔に
律 昔って……。まさか、俺が3歳のときにここに来たとき?
扇 ピンポーン
律 マジで?あれから、十年以上経つのに……、よく覚えてたな……。
扇 うん。忘れたときなんて一回もなかったよ。
律 そ、そうか(照れる)……でも、ごめん。俺、全然覚えてないや……。
扇 ううん。別にいいわよ。気にしないで。
律 あ、ああ。
扇 ねっどうせ今暇なんでしょ。
律 え?まあ、そうだけど……。
扇 それなら、せっかく久しぶりに会えてんだし、一緒に遊ぼ。
律 は?遊ぶって……。
扇 面白い所知ってるの。ほら、来て。(律の手を引いていく)
律 あ、おい!(引っ張られる)
扇 律 はける
なつめ 猪口暮露 猫又 そっと登場
なつめ どうしよう。扇、自分から見つかりに行っちゃったよ……。
猫又 一体なにをやっておるんじゃ……。
猪口暮露 どうする?
なつめ このままだと、扇、消えちゃうのかな?
猫又 どうかの。
猪口暮露 とりあえず、何とかして扇を連れ戻そう。
猫又 できれば、わしらも律に会わずにすみたいの。
なつめ それなら……こういうのはどうです?(耳打ち)
猫又 ふむふむ……。なるほど。
猪口暮露 それなら、いいんじゃないか?
なつめ でしょ。じゃあ、さっそく作戦実行!
暗転
扇 律。戻ってくる。
律 お前、元気だなぁ……。
扇 そう?普通だと思うけど?
律 ちょっと休憩させろ……。
猪口暮露(フル装備) 隠れていたところから姿を現す。
律 うわあぁぁ!なんだコイツ!?
扇 猪口暮露さん!!
律 何、知り合い!?
扇 い、いや、し、知らない!
猪口暮露 ……(近づいてくる)
律 扇 あとずさる
猫又 舞台袖から現れて、律の後ろにいる扇を連れ去る
律 お前、なんなんだよ!
猪口暮露 急に 退場する
律 ……なんだったんだ?ってあれ?扇?あれ?(周りを見渡す)……どこいった?
律 扇―?
律 退場。
妖怪たち 登場
扇 ちょっと。猫又さん!なにするんですか!
猫又 それは、こっちの台詞じゃ。
猪口暮露 律に会うなとあれほど言っただろう。
扇 それは……。
なつめ もう、消えちゃうかもしれないって言ったでしょ。厳しいこと言うようだけど。私たちはあなたに消えてほしくないのよ。
猪口暮露 そうだぞ。消えると決まったわけじゃないが……。あまりいいことはおこらんだろう。
猫又 そうじゃぞ。わかってくれるな?
扇 私は……私は……消えてもいいよ。
猫又 なに?
扇 律に会えるのなら、消えてもいいよ!それでも、律に会いたいの!
猪口暮露 強情だな……。
なつめ ほんとにもう。こんなに言うなら、もう1回だけ会わせてあげてもいいんじゃない?
扇 本当!?
猫又 なつめ……!
なつめ その代わり、これが最後よ。お別れの言葉を言いにいくだけよ。
扇 え……。
なつめ そして、私たちがあなたに付き添います。
猫又 わしらも律に会うのか!?
なつめ どうせなら、もう正体もばらしちゃいましょう。そうすれば、律も納得してくれるわ
猪口暮露 信じないと思うぞ。
なつめ なんとかするわ。ほら、早速作戦実行よ。
律 扇―?(声だけ)
妖怪 はける
律 登場
律 扇?どこいったんだよ
なつめ 登場。
なつめ こんにちは
律 え?あ、どなたですか?(怪しみながら)
なつめ 私は、なつめと申します。
律 なつめさん?あの、祖母なら、出かけてますが……。
なつめ いえ、あなたに用事があるので。
律 はぁ・・・。
なつめ ちょっと、会わせたい人がいて。会ってくれますよね?
律 え・・・
なつめ 来ていいわよ―?
律 まだ良いっていってないんだけど。
なつめ まあまあ。どうせ暇なんでしょ。
律 ・・・そうだけど・・・。
なつめ 扇―?
律 ・・・オウギ?
扇 ・・・や、やっほー…律。
扇子、登場
律 お前・・・扇!いきなり何処行ってたんだよ。
扇 ごめんごめん
律 ・・・どうゆうこと?
扇 えーと……(なつめを見る)
なに?
なつめ 仕方ないので言いましょう。
律 なにを?
なつめ わたしたちの正体を!です
律 ・・・なんだそれ。
なつめ えっと・・・私達の正体は「付喪神」です!!
律 ・・・・・お引き取り願います。
なつめ いや、ほんとですって!
律 は?
なつめ 猫又さん来てください!!
猫又 なんじゃ。
猫又、登場
律 ・・・あ・・・怪しいのが増えただけなんですけど。
猫又 なんじゃおまえ!!失敬な!
律 だって・・・ただのおっさんじゃん。
なつめ よく見てください。猫耳があります!
律 キモいからあえて無視したんだよ……。
猫又 これだから若いもんは!!年長の序というのを知らんのか?!
律 ・・・
猫又 まったく・・・いつもはかわいいかわいい言うてわしをなでるのに!
律 なでるも何も・・・きもいじゃん・・・。
猫又 なんじゃと・・・
猫又 にゃーん☆
律 ・・・うわ・・・キツ・・・。
猫又 なにを?! かわいいじゃろう!!
律 どこが!!
なつめと扇子、思わず噴出す。
猫又 お前らまで・・・失敬な!!
なつめ ・・・ふふっ・・・(笑うのを我慢して)やっぱり人間って面白いですね。
律 ・・・まだそんなこといってんのかよ・・・。
なつめ ほんとですってー。最後まで聞いてください。
律 ・・・楽しんでるだろ・・・いい加減にしろよ。
なつめ 私たちの存在そのものが動かぬ証拠ですって!
律 証拠ってコイツ普通に・・・きm・・
なつめ んんん!!(咳払い)では、次を呼びます。おーい。来てくださーい
律 次?
(猪口暮露、登場。猪口をかぶっている)
猪口暮露 なんだ、さわがしい。
律 うわ・・・お前、さっきの……!!
扇 猪口暮露さん、正装じゃん。
猪口暮露 何を?いつもこれだわ。
扇子 じゃあ今頭にかぶってるのは何ですか~?
猫又 やる気満々じゃないか。
猪口暮露 ・・・う、うるさいわ!!
なつめ まぁ、久々の人間の前ですからね。仕方ないですよ。
猪口暮露 ・・・・。
律 今日1であやしい・・・なんで猪口かぶってるの?
なつめ 知りませんか?暮露っていうお坊さん。
律 ・・・・知らない・・・。
猫又 あれじゃ。籠かぶって尺八っちゅう笛ふいとる・・・。
扇 これのことだね。(扇子、暮露さんの絵を見せる)
なつめ 何でそんなの持ってるの?
扇 え?よくわからないお客さんのために・・・。
律 また分けわかんないこといって・・・。
なつめ こればかりはわたしにもわかりません。
扇 いっ・・・いいんだよ!
律 ・・・・で、その・・・チョコボーロ?
猪口暮露 ちがーう!ちょ・く・ぼ・ろ・んだ!!いってみろ!!
律 声がこもってて聞こえない!!
猪口暮露、猪口をはずす。
猪口暮露 ちょくぼろんだ!!
猫又 はずすのか。
律 ・・・俺、この展開についていけない・・・。ネコミミのじいさんと、坊さんごっこしてるおっさん・・・付喪神ってなんだよ・・・。
なつめ あそびすぎましたか。
扇子 大丈夫?
律 ・・・あ、ああ・・・。とりあえず、説明してほしいです・・・。
猫又 敬語になっとるな。
なつめ 。でも、魑魅魍魎の類を信じていただかないと話にならないのですが・・・・。
律 いいよ、信じるよ。信じるから。
なつめ そうですか。うーん・・・何から説明したものですかね
律 ・・・最初から・・・。
なつめ 私達は付喪神です。猫又さんは違いますが、おなじようなもんです。
律 猫又は聞いたことあるよ。長い間飼われてた猫が妖怪になるっていう・・・。
猫又 おお。知っとったか。うれしいのお。
律 付喪神っていうのは?
なつめ 同じようなものです。元が猫ではなく道具なだけでほかはかわりません。
律 よ、妖怪なの?
なつめ そう言う人もいますし、神様だって言う人もいます。
律 結局はどっちなの?
なつめ どちらもそんなに変わりませんよ。ぞんざいに扱われれば禍をもたらしますし、大切に使われれば福をもたらします。
律 今日は何しに来たの?人間をからかいに・・・とか?
なつめ いえ。できれば見つからずに済ませたかったです。
律 それが、なんでぞろぞろと・・・?
なつめ ちょっと扇が暴走しちゃいまして。
律 扇が……?
なつめ そうです
律 この子が?なんで?
なつめ さっき言ったじゃないですか?大切に使われた道具に宿る神だと・・・。
律 え、ああ、うん。
なつめ だから、私達人には感謝してるんです。
律 ・・・で?感謝の念を伝えに来た・・・とか?
なつめ 律さんはお気に入りのものとか、大事にしてるものってありますか?
律 ああ・・・うん。ペンダントかな。
なつめ わたしたち道具も同じで、使ってくれてる人に愛着を持つんです。
律 だから?
なつめ 扇はあなたをすきなんですよ。
律 (扇のほうを向いて)な、なんで・・・?
扇 前にあったときにね、
律 ・・・前?
扇 うん。覚えてない?
律 うん・・・ごめん。
猪口暮露 ふん。人間なんてそんなもんだ。
扇 私はいいんだよ。律ちっちゃかったし。
律 ちっちゃかったって・・・3歳のときだよな……。
扇 たぶん、そのくらいだったと思う・・・
律 なんで?
扇 そのときは、こうやって人としてじゃなくて、普通に扇って言う道具としてだったんだけどね、律は私を見て、きれいだっていってくれたんだよ。それがうれしくて・・・・。
律 ・・・それだけ?!
扇 うん。持って帰るって駄々こねてたんだ。
律 ・・・そんなんで・・・。
扇 そんなんって、ひどいなあ!私うれしかったのに!!
律 でもたしかに、扇って・・・かわいいよな。
扇 え・・・あ、あの・・・ありがとう!!
なつめ 照れちゃって・・・かわいいですね。
扇 う・・・うるさいなあ!
なつめ かわいいです。
律 他の・・・人?も誰かに愛着持ってんの?
なつめ ええ、私は澄に。
律 ふーーん・・・叔母さんか・・・。まあ、普通だね。
なつめ まあ。代々大切に使ってもらってますからね
律 あ、なつめって昨日の!
なつめ ええ。ていうか今まで気づかなかったんですか?
律 だって、なつめって名前みたいだし・・・
なつめ まぁそうですね。
律 あ、だから浴衣が朝顔柄なのか・・・・。
なつめ あ、ああ。そうですね。
律 扇子は普通に扇子もってるし、猪口の人は猪口・・・かぶってたし・・・。
猪口暮露 猪口の人とはなんじゃ!猪口暮露じゃ!
律 チョコボーロ?
猪口暮露 くどいわ!ちょ・く・ぼ・ろ・ん!
律 ていうかなんであなただけものの名前じゃないんですか?
猫又 付喪神の中には、特別なものもいるんじゃよ。
律 特別?
猫又 ああ。その形からなのかの?たとえば瀬戸物は瀬戸大将っちゅう妖怪になる。猪口もそのひとつじゃな。
律 ふーーん・・・。あんたは誰が好きなの?おばさん?
なつめ いえ。この人は哲夫です。
律 哲夫・・・哲夫って言うと・・・?
猪口暮露 澄の夫だ。
律 おじさん・・・てこと?
猪口暮露 そうなるな。
律 でも、おじさんってなくなったんじゃなかった?そうそう、その葬式で俺此処に来たんだ。
扇 そうだよ。猪口暮露ってちょっと変わってるんだよ・・・。
猪口暮露 お前に言われたくないわ。
扇 居もしない相手好きなんて、おかしいよ!
猪口暮露 好きなものは好きなんだ!仕方ないだろう!
なつめ あら、意外と素直なところがあるんですね。かわいらしい。
律 え?なんか気持ち悪いだけだけど・・・
なつめ そういってあげないでくださいよ。もう誰も使ってくれなくて、寂しい思いしてるんですから。
律 どういうこと?
猪口暮露 澄は酒が好きではないのだ。だから、俺はずっと茶箪笥の中だ。
律 ふうん・・・。
なつめ 逆に哲夫は酒飲みでしたからね。毎日のように使っていました。
律 確かさっきぞんざいに扱われれば災いを起こすとか言ってなかったっけ。今の扱いに満足してるの?
猪口暮露 満足はしてないが・・
律 えっじゃあやっぱり・・・
猪口暮露 いや。禍を起こすような気はない。
律 ・・・じゃあよかった。でもなんで?
猪口暮露 使ってもらえないのは寂しいが、私は澄にも感謝してるんだ。
律 え?なんで?つかわれたこと、ないんでしょ?
猪口暮露 ・・・ああ。でも毎日私を洗ってくれていたのは澄だったからな。
律 ・・・ふうん?
猪口暮露 私は哲夫のお気に入りでもあったし、澄は大事に扱ってくれた。だから、澄には感謝しているんだ。
律 ・・・なんかさ、不思議だな。
扇 なにが?
律 なんか・・・もう、全部が全部なんだけどさ、普段何の気なしに使ってる道具に魂があって、道具も人に感謝してくれてるってのがさ、新鮮で、ちょっと感動した。猫又さんと、なつめさんも同じなんだろ?
猫又 わしは、こいつらとはちがって元が生き物だからな。長く家に居ると怪しまれる。
律 じゃあ、いないの?
猫又 いや。最初に飼ってくれた人間には感謝しとる。
律 そっか。
猫又 それに、今はいろいろな家を転々としとるが、それはそれでたのしいぞ。
律 ふうん?
猫又 たくさんの人がかわいがってくれるのがうれしくてな。ちゃんと名前をつけてくれるし。
律 それならよかった。あんたは?
なつめ 私は、澄です。
律 やっぱり。
なつめ 代々使ってもらえてることもうれしいですし、なにより彼女のほうも私を気に入ってくれています。
律 言ってたね。おばさん。
なつめ ええ。うれしいものですよ。
律 そうだろうね。
なつめ だから、律も扇子のことを大事に思ってくださいね。それ以外のものもです。
律 (扇のほうを見て)うん、そうするよ。
扇 ・・・なんか、照れちゃうな。
なつめ ふふっ。今日はよかったですね。
叔母 ただいま~。
猪口暮露 帰ってきたな。
猫又 みんな、帰るぞ。
なつめ はい。今日はありがとうございました。
扇 ・・・もっとはなしたかったな。
なつめ 仕方ないよ。行こう?
律 あ、あの。
猪口暮露 どうした。
律 また・・・会えますか?
なつめ ……あまり私たちは、人間に会うことをよしとしないんです。今会いに来たのも、扇が駄々をこねたから、別れの言葉を言うために出てきたんです。
律 ……そうですか。
扇 でも、私たちは、物としてはいつでも会えるから。これからも大切に使ってね。
律 (微笑)それもそうか。
なつめ そうだ。やっぱり伝言預かってもらえます?
律 え・・・?う、うん。
なつめ よかった。それでは「ありがとう」と、お願いします。
律 それだけでいいの?
なつめ ええ。
律 わかった。
扇 ・・・律。
律 なに?
扇 ・・・「ありがとう」じゃあね?
律 ああ、ありがとう。また来るよ。
(付喪神、退散する)
母 ただいま~律。
律 おかえり。楽しかった?
母 うん。律も来ればよかったのに。
律 ああ・・・
叔母 お土産かってきたでな。
律 ありがとうございます。
叔母 ええよ~。留守番ご苦労さん。
律 ねえ、叔母さん。昔、俺が綺麗だって言った奥義、覚えてますか?
叔母 ああ、覚えとる覚えとる。りっちゃんがえらい大切にしてはったから、よぉ覚えてます。
律 それ、できれば俺にくれませんかね
叔母 別にかまわへんけど、あんな古いのでええの?
律 いいんです。……あ、そうだ。叔母さん。伝言預かってるんですが。
叔母 ああ。おおきに。どなたから?
律 ・・・なつめさん。
叔母 夏目さん・・・?何って?
律 「ありがとう」だって。
―完―
edited byusio
at2012/04/28 - 18:32