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東校

台本置場

イカロスが飛べた理由
講演
2011年 秋大会 講演
edited byusio at
イカロスが飛べた理由(わけ)
キャスト

♂羽川 大翔  気さく
♀空峰 陽菜  穏やか
♂白鳥 和哉  エロ
♀江戸川 飛鳥  さばさば
♂烏丸 雄介  いやみっぽい
♂霧島 憂
♂小鳥遊 


「翼をください」前奏が流れる。空峰、独唱。

空峰   今私の願い事がかなうならば翼が欲しい

   歌い手が少しずつ増え、合唱。

全員     この背中に鳥のように白い翼つけてください。この――

   羽川、急いで教室に入ってくる。

羽川   わりぃ!遅れた!

       合唱中断。

空峰   大翔!

白鳥   遅いぞ大翔ー。

羽川   わり、練習あるってこと忘れてて、帰りそうになっちまって……。

白鳥  おいおい……

江戸川  あんたね…放課後合唱練習するって、こないだのHRで陽菜言ってたじゃん。

空峰   文化祭近いしね。そろそろ始めないと。

羽川   分かってるって。最近物忘れが激しくてさ。

江戸川   (ため息)あんたはじじいか

烏丸   (咳払い)羽川君。君ね、練習に来るなら来るで、遅れてくるなんて真似はやめてくれないかな。みんなの士気がさがるだろう。

羽川 うあ、烏丸・・・

烏丸  文化祭で下手なことをして、恥ずかしい思いをするのは、委員長である僕と、空峰さんなんだよ。(詰め寄る)来るなら早く来たまえ!

羽川  わかった。わかった。機会があればな。

烏丸 君は、都合が悪くなるとそればっかりだな。

空峰 いや、大丈夫。私は気にしてないから…。

烏丸   (ため息)まあ、まだ来るだけましか……。2年4組総勢40人。そのうち集まったのはたったこれだけ……。

江戸川 なーんか癇に障る言いかたね。

烏丸 別に

白鳥 まあ、この学校の文化祭はちゃっちいしな、やる気になるやつなんてそうそういないだろ。

烏丸 うぐ、それは、そうだがね……。

空峰 まあ、これだけでも集まったんだし、いいじゃない!それにほら、今日だけ用事でこれなかった人とかもいるし、次からはもっと増えるわよ。

白鳥 そういえば……小鳥遊も入院してて来れなかったしな。

江戸川 まあ、事故にあったんじゃ来れないわよ。

羽川 ああ……あいつ、残念だったな。

烏丸 まあ、事故にあってしまってはしょうがないね。さあ、みんな!練習を続けよう!(みんなに指示を出している)

羽川 はぁーあ、それにしても、何が悲しくて、文化祭で合唱なんかやらなきゃいかんのかね。

白鳥 しょうがねーだろ。文化祭に時間も金もエロさもないのはこの学校の伝統なんだからさ。

江戸川 エロは最初からいらないから。

空峰 (苦笑い)まあエロは必要ないけど…いやな伝統だね……。

白鳥 大体、学校が力入れなさすぎなんだって。

江戸川 そうね。ま、うちのクラスには、合唱部のエース、陽菜いるからね。合唱しなきゃ損でしょ?

空峰 エースだなんて、やめてよ。

江戸川 照れるな。照れるな。陽菜がいれば、たかがクラスの合唱にも、はくがつくってもんよ!

白鳥 そうそう。

羽川 陽菜は歌がうまいしね。

白鳥 この前のコンクールで賞とって、全校集会で表彰されてたしな。

羽川 ん?あれ?そうだったけ。

江戸川 (ため息)なーに言ってんのよ。バカね。

白鳥 バカだな。どうせ集会中エロいことでも考えてたんだろ。

羽川 うるさい変態(白鳥に向かって)

白鳥 な、へ、変態って。あのなぁ、俺は普通の人よりちょっと性欲が強いだけで――

江戸川 あ、立花さんのスカートがめくれて――

白鳥 いよっしゃあ!絶景いただきーっ!!(飛び込んで立花の方を凝視)ってあれ?なんだよ。めくれてねえじゃ――あ……。

3人 …………。(白い目)

白鳥 ……。……べ、別にいちごパンツとかを期待してたわけじゃないからな!

3人 ……。

烏丸 ほら、そこの4人!しゃべってないで練習するよ!

             各個返事

        SE 何かが割れる音

羽川 ん?

白鳥 どした?

羽川 え、今、音が……。

江戸川 音?

羽川 いま、なんか変な音聞こえなかった?

      江戸川・白鳥・空峰 顔を見合わせる。

空峰 ううん。なにも聞こえなかったけど…

白鳥 おれも。

江戸川 うちも。

羽川 あれ……?

白鳥 どうしたんだお前。大丈夫か?

羽川 おっかしいな。確かに聞こえたはずなんだけど……。

烏丸 ほら、そこ早くして。

白鳥 あ、わりぃ。

     全員  それぞれの位置につく。
     溶暗と入れ替わりで花道サス

         どこか

??? ついに始まりましたか・・・・・・。私にはもう、止められません。

        花道 溶暗 入れ替わりで溶明

烏丸 よーし。それじゃあ、そろそろ終わりにしようか。みんなお疲れさま。

         エキストラ はける。

白鳥 大翔。帰ろーぜ。

羽川 んー(了解)

空峰 あ、私もっ。

白鳥 飛鳥は?

江戸川 うちは、ちょいパス。

空峰 どこかに寄っていくの?

江戸川 ほら、小鳥遊のとこ。あいつのお見舞い行こうと思って。

羽川 あーじゃあ、病院か。反対方向だな。

空峰 じゃあ、私たちも行きましょう?

白鳥 そうすっか。年頃の男女が二人きりとか、青少年の健全な育成に悪影響を与えるような事態に発展しかねないし…

江戸川 小鳥遊はあんたみたいな変態じゃないから大丈夫よ。

白鳥 ふん、甘いな…男はみんな心の中にエロスを抱えて生きてるんだぜ… それと俺は変態じゃねえからな!

羽川 烏丸―。お前行く?

烏丸 ふんっ僕は忙しいんだ。

羽川 ああ、そうなの。

烏丸 ……まあ、どうしてもと言うなら行ってあげ――。

羽川 んじゃあ、みんな行くか。

        各個返事
       
烏丸以外退場。
        
烏丸 ………。

烏丸 ……きょ、今日は塾もないし、たまたま、暇で、たまたま行くだけだ……。

烏丸 ………待ってー!

     烏丸 走って退場。

溶暗と入れ替わりで花道サス

??? 知っていますか?人間はもともと走り方を知らないんです。走り方というのは、覚えるものなんです。そして一度覚えるとその走り方でしか走れなくなる……。記憶というのは、そういうところにまで司るんです。記憶こそが、人を人らしくさせているんです……。

           SE 何かが割れる音

         花道 溶暗 入れ替わりで溶明

         病院 


羽川 結局お前ついて来てんじゃねえか!

烏丸 誰が行かないと言った。

羽川 忙しいって言ってただろ。

烏丸 愚かな。忙しいという言葉は断る理由にはならない。

羽川 はいはい。もいいよ。

空峰 あっ。いけない。

羽川 どした?

空峰 大変。私たち、小鳥遊くんのお見舞いになにも持ってきてないわ。

烏丸 ああ、そういえば、そうだったね。

白鳥 お見舞いぃ?そんなのいるのかよ?鉢植えでも持ってくか?

烏丸 愚かな。お見舞いに鉢植えを持っていくやつがいるか。

江戸川 そんなの常識でしょ。この変態!

白鳥 だからな。俺は変態じゃなくて、ただ性欲が強いだ――

江戸川 あ、美人のナースだ。

白鳥 なにいぃ!(素早い動きで指差したほうを凝視)

白鳥以外 …………。

白鳥 なんだよナースなんかどこにも――あ……。

全員 …………。

白鳥 ……これが男だ。

全員 ……。

烏丸 じゃあ、僕が何か買ってくる。果物とかでいいだろ。

白鳥 果物ならバナナだな!むしろバナナ以外考えられない!

羽川 じゃあ頼む。バナナ以外でな。

白鳥 バナナァァァァァ!!(羽川に縋り付く)

羽川 あぁ!鬱陶しい!(引きはがす)

白鳥 ……まあいいか、バナナならもうここに…

         江戸川 白鳥を殴る。

白鳥 グボァ!(死ぬ)

江戸川 じゃ、いこっか。

羽川 こいつ、本当に変態だね。

空峰 そうね。

白鳥 だ…から、俺は変態じゃな――

羽川 病室、ここであってるよな?

江戸川 うん。あってるよ。

空峰 おじゃましまーす。

       入室

羽川 あれ?……誰もいねえじゃん。

江戸川 あれ、検査の時間だったかな?

白鳥 トイレじゃね?もしくは美人の看護婦さんといちゃい…

空峰 (白鳥の言葉をさえぎり)そうね。少し待っててみましょう。

白鳥 ………。

空峰 でも、病室って久しぶりね。小学校のとき以来じゃないかしら。

羽川 小学校って、ああ。お前、事故って入院してたもんな。

江戸川 陽菜だけじゃなくて、あんたもでしょ。

羽川 え?

白鳥 あんときは、マジビビッたよな。

羽川 ちょちょちょ、ちょっとまった。あのとき事故って入院したのって、陽菜だけだろ?

江戸川・白鳥 え?

江戸川 何言ってんのよ。あんたたち……一緒に轢かれたのよ?

  回想 照明変わる

           十年前
        4人の小学生時代。

江戸川 よーし。キャッチボールだぁ!

空峰 えー。飛鳥ちゃん、もううちょっと女の子らしい遊びしようよぉ。

江戸川 うちは、キャッチボールがしたいの。大翔くん。和哉くん。いっしょにやろ?

羽川 えー。飛鳥ちゃんの なげる球、速いし、あぶないもんなぁ。

江戸川 なにいってるの!男の子でしょう!

羽川 飛鳥ちゃん、このまえ男の子泣かせてたじゃん。

江戸川 あれはあの子が よわかったの!

羽川 えー。でも、あたると痛いしなぁ。やめとこうかな。

白鳥 なに言ってるんだよ。男の子が女の子に負けるなんてかっこわるいよ。

羽川 和哉くんは、飛鳥ちゃんとキャッチボールしたことないから、そんなこと言えるんだよ。あたると痛いよ?飛鳥ちゃんよく変な方向とばすし。

江戸川 ボールならいっぱいあるから。(エアボール)大丈夫。

白鳥 大翔くん。大丈夫だよ。取れなかったら避ければいいしさ。大翔くんが取れなかった分はこの僕が取ってあげるから。

羽川 えー分かったよぉ。

江戸川 いよーし!じゃあ、いっくよー!

白鳥 どんとこーい!

江戸川 そりゃ!(ボールを投げる動作)

羽川 あぶね(ボール避ける)

          SE 打撃音

白鳥 (ボール直撃)どぼっ(吹き飛ぶ)

羽川 あぶなぁ。相変わらず速いなぁ。

        空峰 ボールをとりに行く

江戸川 ふふん。どんどん行くわよ。

白鳥 ちょ……待って……。

江戸川 そりゃぁ!(投げる)

羽川 おっと(避ける)

          SE 打撃音

白鳥 どぅふあ!(吹き飛ぶ)

羽川 やっぱ速い。

江戸川 だんだん、目が慣れてくるわよ!

羽川 そーかなぁ。じゃあ、慣れるまでやってみるよ。

白鳥 待て…。ほんとに……。

江戸川 ほら、次!そりゃ!(投げる)

羽川 おっと。(避ける)

          SE 打撃音

白鳥 スト……プげぼらぁ!(弾け飛ぶ)

羽川 ほらほら、どんどん投げて。

江戸川 ちゃんと、ボールとってから言ってよ!(投げる)

羽川 あぶな(避ける)

          SE 打撃音

白鳥 ま…て…。ぶらぁ!(弾き飛ぶ)

江戸川 それ!(投げる)

羽川 よっと。(避ける)

          SE 打撃音

白鳥 助け…ごぶ!(死ぬ)

江戸川 えい!(投げる)

羽川 おっと(避ける)

          SE 打撃音

白鳥 ……(反応がない)

江戸川 ちゃんと取ってよ(投げる)

羽川 むりだよ!(避ける)

          SE 打撃音

白鳥 ………(ただの屍のようだ)

江戸川 もー。こんなのキャッチボールじゃないよ。

羽川 ボールが速いんだって。ねえ、和哉くん。

白鳥 …………。

江戸川 ほら、もう一球!ちゃんととってね

羽川 うん。

江戸川 そりゃ!(投げる)

          SE ピューン

ボールが明後日のほうに飛んでいく

江戸川・羽川 あ

羽川 あれは取れないよ

江戸川 ごめん。手が滑っちゃった。

空峰 あ、私、取ってくるね。

        空峰 はける

羽川 あ、ちょっと。飛び出したらだめだよ!

       羽川 追いかける

        SE 事故音

          暗転

      回想終了 再び病室

江戸川 結局二人とも轢かれちゃって、大変だったんだから。

羽川 そうだっ……け?

白鳥 お前、マジ覚えてないの?お前のほうが重症だったんだぜ?俺もだけど。

羽川 陽菜が入院したのは覚えてるんだけどな……。

江戸川 普通、忘れなくない?

          SE 何かが割れる音

羽川 え?

            花道サス

          全員 止まる

??? おや?話が噛み合っていませんね。そんな衝撃的なこと、普通は忘れませんよね。普通は。

            花道 消える

          全員 動き出す
   
空峰 大翔、大丈夫……?

羽川 おっかしいな……。そもそも小学校のころの記憶もほとんどないし……。

白鳥 マジ?じゃあお前が女の子千人斬りするとか言ってスカートめくりまくってたのも覚えてないとか?

空峰 いや、やってないから。

江戸川 大丈夫?

       霧島 登場

空峰 あ、

江戸川・白鳥・羽川 ?

霧島 こんにちは。

  各個挨拶

白鳥 あれ?病室間違えた?

霧島 いやいや、小鳥遊君のお見舞いに来たんでしょう?私と小鳥遊君でこの病室を使ってるんだ。この病室であってるよ。

空峰 あ、そうなんですか。

霧島 私は霧島 憂。小鳥遊君とは、同じ病室どうし、仲良くさせてもらってるよ。

白鳥 仲良くって、まさk――。

空峰 私は、空峰 陽菜って言います。この子が江戸川 飛鳥ちゃんで、(それぞれ指差していく)

江戸川 どーも。

空峰 羽川 大翔に、

羽川 ども

空峰 白鳥 和哉君です。

白鳥 どうも

霧島 うん、よろしく。

空峰 はい

霧島 ……でもよかった。小鳥遊君にお見舞いの人が来てくれて。

羽川 何かあったんですか?

霧島 酷く落ち込んでてね。心配していたんだ。

江戸川 ああ。はい。うちら、お見舞いがてら、小鳥遊を元気付けようと思って来たんです。

白鳥 あいつが落ち込むなんて相当だけどな。

霧島 そうなんだ。頼んだよ。落ち込んでいるときは、友達ほど心強いものはないから。

空峰 はい!

羽川 ……それにしても、小鳥遊いつまで検査に行ってるんだろうな。それなりに時間たつけど。

霧島 検査?

空峰 ええ、ここにいないので、トイレか検査に行ってるんじゃないかってさっき話してたんです。

白鳥 あと、美人の看護婦さんとイチャイty――

江戸川 さすがにこんなに長い間トイレってことはないだろうしね。

霧島 ……?おかしいね。そんな検査を受けているところは一度も見たことないけど。

羽川 え?

霧島 だって、重症とはいえ骨折だからね。そんな検査なんてないはずだけど……。

空峰 それも、そうですね……。

江戸川 まさか、病院、抜け出したとか?

白鳥 え、まじで?まさか看護婦さんと駆け落…

羽川 (さえぎり)でも、重症なんだろ?そんなに動けないだろ。

空峰 でも、長いこと病室にいないのもおかしいわ。

羽川 まあ、そうだけど

空峰 ちょっと探してみない?

羽川 えー。大丈夫だろ。どっかで時間つぶしてるだけだって。今日は帰って次の機会で会えばよくね。

江戸川 もう、次の機会っていつよ。

白鳥 それか、もうちょっと待とうぜ。ずっと待ってればいつか来るだろ。

霧島 でも、ここの病院、たしか学生だとあまり遅い時間までいられないんじゃなかった?

空峰 そうなんですか?

霧島 私もちょっと心配だし、探してみないかい?

空峰 そうですね。じゃあ、私ロビーのほう行ってみる。

         空峰 はける

羽川 あ、おい。(ため息)……いかなくてもいいと思うけどなぁ。んじゃあ、俺適当に探してくる。

         羽川 はける

白鳥 んじゃ俺も、探してくるわ。特に女子トイレを入念に!

    はけようとするが、江戸川の前を通るときにラリアットを食らう

白鳥 ドゥフッ

江戸川 そっちは、うちが行ってくるよー。あんたは!中庭でも!行ってな!(とどめ×3)

白鳥 ・・・・・・・・・・・・。(死ぬ)

         江戸川 はける。

烏丸 鼻歌歌いながら登場。

烏丸 さあ、愚民ども!この僕自ら買ってき――

霧島 ……………。

烏丸 ………………………………………。間違えました。

         烏丸 はける

    白鳥 よろよろと立ち上がる。

白鳥 か、顔は・・・目はだめだろ・・・・・・見えねえ。そして、綺麗にキマりすぎだ・・・・・・。


小鳥遊 おえ。(ゴミ箱に吐く)

白鳥 う…、い、行くか。

         白鳥 はける

 小鳥遊 ゴミ箱から飛び出す。

小鳥遊 うわあぁ!気持ち悪ぃ!なんで吐きやがるんだぁ!

霧島 や。小鳥遊くん。災難だったね。

小鳥遊 ・・・・・・。あんた、気づいてたのか。

霧島 まあね。

小鳥遊 で、あいつらおいはらってくれたのか・・・・・・。

霧島 どうかな。

小鳥遊 なんで、分かったんだよ。

霧島 どう見ても怪しいから、そのゴミ箱。

小鳥遊 マジで?

霧島 まあ、友達は気づいてなかったみたいだけど。

小鳥遊 なんで、あいつらに黙っててくれたんだ?

霧島 何か事情があって、隠れてたんだろう?

小鳥遊 ……ああ。

霧島 何で隠れてたんだい?

小鳥遊 ……今は、顔があわせづらいんだよ……。

霧島 何かあったの?

小鳥遊 ……。

霧島 まあ、話したくないならいいよ。君にも事情があるんだね。

小鳥遊 いや、たいした事じゃないんだ。事情だなんて呼べないようなことだよ。

霧島 ?

小鳥遊 俺さ………陸上部だったんだよね。

霧島 陸上部?

小鳥遊 ああ。専門は100m走でさ、そこそこ速くて、今年のインターハイにも出れるはずだったんだよ。

霧島 ああ……でも、その怪我のせいで出れなかった。ってことかい。

小鳥遊 それだけじゃねえよ。怪我の場所が悪かったせいで、もう俺は、二度と前みたいには走れないだろうって、医者に言われたよ……。もう……俺は陸上ができないんだ。

霧島 ……。

小鳥遊 俺の人生、……もう終わったんだよ。でもさ。あいつら、そんなこと知らずにさ、俺を慰めてくるだろ。……今は、そういうの……辛いよ。

霧島 せっかく、友達が来てくれたのに、それでいいのかい?

小鳥遊 分かってるよ。でも、今は、一人でいたいんだ。

霧島 そうかい。

小鳥遊 この脚さえ元通りになれば、俺はまた走れるのに……。なあ、俺は誰を恨めばいいんだよ……。俺を轢いた運転手か?それとも神様か?

霧島 さあね。

小鳥遊 こんなんになるくらいなら、いっそ足なんてなくなっちまえばよかったんだよ。そうすれば……陸上なんてきっぱり諦められるのに……。

霧島 やっぱり、諦めきれてないんだね。

小鳥遊 当たり前だろ……。

霧島 ふうん。………おっと、(時計を見る)そろそろあの子達も戻ってくるんじゃない?探すって言っても、そんなにこの病院も広くないしね。

小鳥遊 あ、……そうだな。・・・・・・別のゴミ箱持ってない?

霧島 ・・・・・・・・・・・・・・・。

小鳥遊 ・・・・・・まあいいや。

霧島 また、隠れるのかい?

小鳥遊 ……ああ。

霧島 いつまでも隠れてはいられないよ。友達からも、他の事からも

小鳥遊 ……。

       小鳥遊 再びゴミ箱に入る

       しばらくして、羽川が入ってくる

霧島 やっぱりどこにもいなかったかい?

羽川 ええ。あいつ、どこいったんでしょう。

霧島 ほかのみんなは?

羽川 さっきメールで、いったんここに集まるように連絡しました。

霧島 そう。

羽川 あいつ、どこ行ったんでしょう。

霧島 さあね。案外近くにいるかもよ。

羽川 ?

霧島 彼、怪我のせいで陸上の大会に出られなかったんだってね。

羽川 え、はい。

霧島 君も、陸上部なの?

羽川 いえ、俺はバスケ部です。小鳥遊とは、クラスメイトで。

霧島 そうか。でも、彼を励ましに来てくれたんだろう?

羽川 ええ。あいつが落ち込むなんて、なかなかないですからね。大会に出られなかったのが相当こたえたんでしょうね。

霧島 それだけじゃないかもよ。

羽川 え?

霧島 もしかしたら、だけど、大会に出られなかったこと以上に、苦しんでいることがあるのかもしれないよ。

羽川 苦しんでること?

霧島 そう。小鳥遊君はどうしようもないことに苛まされてるのかもしれない。そういう人間には、慰めの言葉ですら辛いものだよね。

羽川 ……。

霧島 もし、小鳥遊君がそうだったら、君ならどうする?(ゴミ箱を見る)

羽川 俺は……。

       白鳥・空峰・江戸川 それぞれ登場

白鳥 やっぱ小鳥遊どこにもいねえぞ?

江戸川 メールにも電話にも反応なし。あいつ、どこにいんのよ。

空峰 やっぱり、検査とかじゃないかな。

霧島 お疲れ様。

空峰 はい。

羽川 俺は、もし、小鳥遊がそうだったら……怒る、と思います。

霧島 へぇ。

空峰 何の話?

江戸川 さぁ?

羽川 どうしようもない話なら、どうしようもないなりに受け入れるしかないと思います。そんなことにウジウジしてるなんて、あいつらしくない。前向けこのやろうって言ってやりますよ。

霧島 (微笑)いい答えだ。

羽川 え?

霧島 ああー。もうこんな時間だ。検査があることをすっかり忘れてた。いやーうっかりしてた。それじゃあ、君たち、また会おう。

羽川 あ、ああ。またの機会に。

           霧島 はけようとする。

霧島 いい友達を持ってるね。(ゴミ箱の前で)

霧島 はける

全員 ?

白鳥 なんだ?あのひと?

江戸川 さあ?

羽川 俺にも、よく分からなかった。

空峰 それで、結局どうしよう?小鳥遊君、どこにもいないけど。

白鳥 これだけ探してもいないって、なんかあったのか?

江戸川 どうしよっか?

           小鳥遊 ゴミ箱から登場。

江戸川・白鳥・羽川・空峰    小鳥遊(くん)!?

小鳥遊 よっ。

羽川 いやいやいや!『よっ』じゃねえよ!

江戸川 なんで、ゴミ箱なんかに!?

白鳥 まさか、そういう性癖g――

空峰 ずっとそこにいたの!?

小鳥遊 ハハハッ。ビビッた?

羽川 そりゃビビッたよ!

白鳥 散々探して、結局ゴミ箱から出てくるって、どんなオチだよ。

小鳥遊 いやー、お前らマジになって探し出すからな。出て行くタイミング逃しちゃってさー。

江戸川 あんたね!心配したのよ!

小鳥遊 いや、悪い悪い。

空峰 あれ、でも、小鳥遊君、落ち込んでるって聞いてたんだけど……。

小鳥遊 えー?落ち込む?

羽川 そうだよ、お前が落ち込んでるって聞いて来たんだぜ?

白鳥 全然元気そう……。

小鳥遊 落ち込む?俺が?んなわけねえだろ。手足の一本くらいで。

江戸川 え、でも、うち あんたの親さんから、あんたが落ち込んでるって聞いたのよ。無理してない?

小鳥遊 あー。まあ、落ち込んでたときもあったけど。いつまでもウジウジしてられねーっての!なっ羽川。

羽川 え、ああ。うん。

江戸川 ………。(鞄で叩く)あ、あんたは~!人に!迷惑を!かけて!ばっかりで!

小鳥遊 痛て、痛って!やめろって!

白鳥 まったく、心配して損したぜ。

空峰 (苦笑)本当ね。

江戸川 本当にその通りよ!下手に心配させて!この!(殴る)

小鳥遊 痛て。だから悪りぃって。な?

江戸川 〰〰〰!もう!うち帰る。

小鳥遊 あ、おい!

         江戸川 帰る

白鳥 あーあ。怒らせちゃったよ。

空峰 でも、小鳥遊君は元気そうだし、私たちも行きましょう?

白鳥 そうすっか。あいつの愚痴も聞いてやらなきゃいかんしな。

羽川 そうだな。じゃあ、俺た――

       SE 何かが割れる音。

羽川 あ――。(頭をおさえる)

空峰 どうしたの?

羽川 また、音が……。

小鳥遊 音?

白鳥 お前、さっきもそんなこと言ってなかったか?

羽川 うん。…まあ、大丈夫。頭が痛いとかじゃないし。

空峰 そうなの?

羽川 ああ。悪ぃ。心配かけたな。行こうぜ?

空峰 ああ、そうね。じゃあ、小鳥遊君。また来るね。

小鳥遊 ああ。またな。

白鳥 んじゃなー。

羽川 またなー。

       白鳥・空峰 退場。羽川もそれに続く。

小鳥遊 なあ、羽川。

羽川 ん?

小鳥遊 ありがとな。

羽川 ……?う、うん。

小鳥遊 しばらくすれば学校にも行くから

羽川 ああ。待ってる。

小鳥遊 そっか。(口調変えて)それより、お前。空峰とはどこまで行ったんだよ。

羽川 は?陽菜と?……どこまでって、付き合ってもないって。

小鳥遊 あー?マジで!?お前なにやってんだよ。さっさと告っちまえよ!

羽川 なんでだよ。

小鳥遊 お前、空峰のこと好きなんだろ?ばればれだって!

羽川 いや、別に……。

小鳥遊 っていうか、むこうにも脈あるって。

羽川 そうかな……。

小鳥遊 マジで。今度告ってみろって。

羽川 ………。チ、チャンスがあればな。

小鳥遊 またそれかよ。チャンスなんて自分で作れよ。まあ、いいけどな。

         SE 何かが割れる音

羽川 あっ……。

小鳥遊 どうした?

羽川 …いや、なんでもない。

小鳥遊 そっか。それじゃあ、またな。

羽川 ああ、じゃあ。

         羽川 はける。

小鳥遊 羽川……。マジで、ありがと。

      溶暗と入れ替わりで花道上手サス

            どこか

??? イカロスには翼がなかった。だから、蝋と羽で自分で翼を作り出し、大空へと飛びたった……。しかし、イカロスは調子に乗って高く飛びすぎた。偽の翼はバラバラになり、イカロスは海へ叩きつけられて死んだ……。そのときイカロスは後悔していたのだろうか。翼を失い、海へと落ちていくイカロスは、何を考えていたのだろう。

         SE 何かが割れる音

??? (ため息)またか。このままじゃ、すぐに全部きえちゃうかもね……。


         SE 何かが割れる音

羽川部屋 散らかったアルバムや日記が散乱している。

羽川 ……覚えてない……。

羽川 これも、これも!これも!(アルバムあさる)

羽川 …………なんで。なんで……!

羽川 (アルバム投げる)なんで!全部忘れてるんだだぁ!

         SE 一際大きい何かが割れる音

??? 彼の記憶、なくなっているみたいですね。皆さんならどうしますか。自分の記憶が、ゆっくり消えていったら。楽しい思い出を忘れて悲しみますか?それとも、つらい思い出を忘れられて喜びますか?

              明転

             翌日の学校

空峰 さあ、みんな。文化祭も近いし、早速朝練始めましょ。

江戸川 気が早いって。まだ人集まるって。

白鳥 そーそ。また羽川来てないしな。(あくび)にしても、ねむ……。

江戸川 なさけないわよ。眠いのはみんな一緒。ほら、シャキッとする!

白鳥 シャキッとって言われてもな……俺、低血圧なn――。

江戸川 あ、篠田さんのブラが透けt――。

白鳥 狙い撃つぜぇ-!!(飛び込む)

江戸川・空峰 ・・・・・・・・・・・・。

白鳥 なんだよ、冬服にブラが透けるわけ――あ・・・・・・。

江戸川・空峰 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

白鳥 ・・・・・・。此が俺の生き様だ・・・・・・!

江戸川 変態。

白鳥 だから、俺は変態じゃなk――。

江戸川 そういえば、羽川まだ、来てないわね。

空峰 今日は遅刻してこないといいけど・・・・・・。

白鳥 ったく。(あくび)なんで朝っぱらから練習なんだよ。

江戸川 ただでさえ集まりが悪いんだから、練習時間も足りないの!協力しなさいよ。

白鳥 来てるだけましだろ。今日だって来てないやつはいるし。

江戸川 そうだけどさ……。

空峰 ねえ、飛鳥ちゃん。もう、だいたいのメンバーはそろってるから、先に練習はじめない?

江戸川 いや、まだ、人集まるでしょ。っとに、陽菜って歌のことになると一生懸命になるんだから。

空峰 え、そうかな?

白鳥 そうそ、普段はおっとりしてるのにな。

江戸川 ほんと、歌のときは人が変わったみたいになるし。

空峰 そうかなぁ?

江戸川 でも、歌とか、やっぱ好きなんでしょ?

空峰 うん。歌は好き。じゃなきゃ合唱部なんてやってないわ。

江戸川 ふうん。そんなもんかね。

空峰 それにね。歌ってなんか、不思議な力があると思わない?

白鳥 不思議な力?

空峰 ほら、イライラしたときに好きな歌を聴いたら、不思議と落ち着いたりしない?

江戸川 ああ、なるほど。

白鳥 それなら あるな。

空峰 でしょ。本当にすごく上手な歌だと、初めて聴いた人も感動させることができるし。なにか、不思議な力がある気がしない?

白鳥 まあ、確かに、言われてみれば、そんな感じもするな。

江戸川 そうね。

空峰 でしょ?だから、歌のそういうところが好きなの。それに、歌詞にだって込められた意味がある。歌い手はそれをどれだけ伝えられるかが重要になるの。

江戸川 なるほどねー。

白鳥 っと、雑談してるうちに、そろそろ時間だぞ。

空峰 あ、そうね。始めましょうか。

江戸川 ま、相変わらず少ないけど、主要なメンバーはいるし、せっかく音楽室も借りられたんだから、もう始めちゃっても――

烏丸 ちょーと待ったぁぁぁぁぁ!!!

        烏丸 お見舞いの品を持って走って登場

白鳥 あ、烏丸。

空峰 烏丸君。おはよう。

江戸川 あー。そうだ、烏丸……。すっかり忘れてた……。

烏丸 どうしてこの僕を忘れるんだ!?仮にもこのクラスを仕切ってる立場じゃないか!

江戸川 なんでだろ?

白鳥 キャラは濃いのにな。

空峰 私も忘れてたわ。

烏丸 それに!君たちは!昨日も!僕にお見舞いの品を買いに行かせておいて!先に帰って!

白鳥 あー。お見舞い頼んでたな……。

空峰 それ、昨日買ったお見舞いのやつなんだ……。

江戸川 うちら、すっかり忘れてたよ。


烏丸 なんで君たちはぁ!僕みたいな濃いキャラを忘れることができるんだ!この戯け!虚けぇ!!

江戸川 うつけって……。

烏丸 しかも、結局昨日は小鳥遊君にも会えなかったし!これ(お見舞いの品)はどうすればいいのだ!

空峰 えーと……。

江戸川 昨日会えなかったんなら、今日もお見舞いに行けば?

白鳥 俺らもついてこうか?

烏丸 ふんっ。結構!今日は僕だけで小鳥遊君のお見舞いに行くから。

白鳥 ああそうかい。

烏丸 それより、この僕が来たんだ!早く練習を始めよう。

白鳥 さっきまで忘れられてたくせに、あの自信はどこから湧いて来るんだ?(ヒソヒソ)

江戸川 いろいろ、どうでもよくなってるんじゃない?(ヒソヒソ)

烏丸 ほらっそこ。しゃべってないで!

白鳥 へいへい。

            羽川 とぼとぼ歩いて登場

白鳥 おっ羽川おはよっ

羽川 おう、おはよ。

江戸川 今日はぎりぎりセーフね

烏丸 まーた君か!たまには集合時間より早く来てみてはどうかね!(詰め寄る)

羽川 あ、ああ。……悪い。

烏丸 うん?やけに素直だね

羽川 そ、そうか?

白鳥 どした?なんか元気ないけど。

羽川 え?普通だって!いつもどおりだよ。

白鳥 そうか?

烏丸 ふんっ。メンバーもそろったし、はやく始めよう。

             SE 何かが割れる音

羽川 ……っ(頭をおさえる)

空峰 大翔?

羽川 ……なんでもねえって

空峰・江戸川 ?

           空峰・江戸川 顔を見合わせる。

         羽川 持ち物落とし、拾う

             舞台が薄暗くなる 

              全員静止

       エキストラに混ざっていた ??? が羽川のもとに行く。

??? つらい?だんだん忘れていくのは。でも、仕方のないことなんだ。17年間よくもったものだ。こういう運命なんだ。諦めて。残念ながら、産まれたときから君には翼はなかったんだよ。

          SE 何かが割れる音

          全員 動き出す。

         ??? スポット

???  これは病気じゃない。運命なんだ。

            暗転

            明転

           時間経過

烏丸 じゃあ、練習終わり。もうすぐHRが始まるから、急いで教室に戻って。

          エキストラ 白鳥・江戸川 はける

烏丸 羽川君。

羽川 え……なんだよ。

烏丸 君、なにか様子がおかしいよ。朝からやけに殊勝で、気味が悪いくらいだ。

羽川 おいおい、気味が悪いって……。

烏丸 なにかあったのかい?話してみなよ

羽川 …………機会があればな……。

烏丸 (ため息)…………そうか。何もないならいいよ。時間をとらせたね。

            烏丸 はける

空峰 ねえ、大翔。

羽川 ん?

空峰 本当は、なにかあったんでしょ?今日の大翔、少しおかしかったよ?烏丸君とか、他の子とかに、少しよそよそしい感じで。

羽川 ……っそ、そんなことねえよ!

空峰 なにか、悩んでるんでしょ?私にもそれくらい分かるよ!

羽川 ……。

空峰 話してみてよ。

羽川 機会があれば……話す。

空峰 また、機会があればって……機会っていつなの!?いっつも都合が悪くなるとそうやってごまかして!そうやってチャンスを待ってるうちに、いっつも何がしたかったか忘れるくせに。

羽川 忘れる……っ。

空峰 そんな、大事なことまで忘れていって、そんなのでいいの!?たまには、自分から動いたらいいじゃない!

羽川 ……うるさい!もうほっといてくれよ!俺だって忘れたくて忘れたわけじゃないんだよ!

空峰 え・・・?

羽川 お節介なんだよ。何も知らないくせに、知ったような口を聞くなよ!お前のそういうところが、人を傷つけてるって考えたことはねえのかよ!

空峰 ……え、そんな…。私…

羽川 それにお前は――

         SE 何かが割れる音

          羽川・空峰 静止

        薄暗くなり ??? 登場

??? あーあ。ついに八つ当たりしてしまいましたね。この子も可愛そうに。…まあ、記憶がなくなっていくんだから、情緒不安定でもしょうがないですよね。いずれ全部なくなるんだ。それまでの苦しみさ。病院に行っても無駄だよ。これは病気じゃないからね。治せないぶん、さらに絶望を味わうだけだよ。早く全部忘れることだね。全部忘れれば、辛さも忘れられる……。それまで我慢しな。

          ??? はける

         SE 何かが割れる音。

         羽川・空峰 動き出す。

羽川 あっ……(あたまを押さえる)

空峰 ……?

羽川 ……悪い……言い過ぎた…。

空峰 ……私もごめん。

羽川 …俺、最低だな。自分が追い詰められてるからって、お前に八つ当たりなんて……。(座り込む)

空峰 大翔……

羽川 もう、わからねえ。なんにもわかんねえんだよ……。

空峰 え?

羽川 本当に、覚えてないんだ……。ほとんど……。

空峰 どういうこと?

羽川 昨日から、記憶が曖昧になってたんだ。だから、家のアルバムとか、中学の卒アルとか見たんだよ。……そしたら、ほとんどのやつの顔見ても、誰が誰だかわかんねえんだよ…。

空峰 え……。

羽川 今日学校来たときもさ、クラスのやつの半分くらいの名前忘れてた……。

空峰 え、ど、どういうこと?

羽川 わかんねよ……。だんだん、記憶がなくなってきてんだよ。昔のこととか、印象の薄いことから順番に……。

空峰 嘘・・・。

羽川 ホントだ。俺もわけわかんねえんだ。おれ、お前や、小鳥遊の事もわすれてくのか?

空峰 なんで、そんなことに。

羽川 ……………音。

空峰 え?

羽川 音が……聞こえるんだ。

空峰 音?

羽川 そう。音。

空峰 どんな、音なの?

羽川 何かが……砕けるみたいな音……。

空峰 砕ける……?

羽川 ああ。なんの関係があるかは分からないんだけど。最近その音がよく聞こえるんだ。

空峰 とりあえず、今日は学校早退して、病院に行きましょう!そんな大変なこと放っておいていいことあるわけないし。

羽川 ……そうだな。

空峰 じゃあ、行きましょ。ほら早く。

羽川 ああ。

空峰 大丈夫よ。きっとそういうのって、一時的なもので、すぐに記憶なんて戻るわよ。

羽川 それもそう――

         SE 何かが割れる音。

羽川 !!?

羽川 頭を押さえて呻く

空峰 大翔?

羽川 なん…で…!(うずくまる)

空峰 大丈夫!?

         羽川 倒れる

           暗転 

空峰 大翔!!

         明転 どこか。

      羽川が倒れている。 ??? も立っている

羽川 起き上がる

??? やあ、お目覚めかい?

羽川 ………お前は、誰だ?

??? 私?僕は誰でもないよ。

羽川 はあ?

??? あえて言うなら、俺は羽川 大翔だ

羽川 ……それは、俺の名前だ。

??? うちの名前でもあるんだよ。俺は、君でもあるんだ。

羽川 あ?

??? まあ、俺がだれかなんて私にはどうでもいいけどね。

羽川 なんだお前、さっきから、僕だの私だの、一人称めちゃくちゃだぞ。

??? 災難だったね。どんどん記憶が失われていくのは。

羽川 ………。

??? ここは…記憶の部屋なんだよ。

羽川 記憶の部屋?

??? そう。君の記憶の部屋だ。

羽川 俺の?

??? じきに、君の記憶は全て無くなる。思いが強いものほど、忘れづらいけど、最終的には全部忘れるよ。

羽川 なんでそんなことがわかるんだよ。

??? わかるよ。あたしは君の記憶の管理人だからね。

羽川 ……。

??? 君の記憶がすべて失われるかもしれないことは、君が産まれたときから、わかってたんだ。僕もがんばったんだけどね。止めることはできないんだ。僕の予想では、十年もすれば記憶がなくなり始めるだろうと思ってたけど、君は17年も記憶を持ち続けた。君も、よくがんばったほうだよ。

羽川 全部忘れたら……どうなるんだ?

??? どうもならないよ。また0の記憶からスタートだ。またいつ記憶がなくなるかはわからない。5年かもしれないし10年かもしれない。

羽川 何回も忘れるってことかよ。

??? 安心しな。記憶がなくなるって言っても、なくなるのは思い出だけだ。全部なくなっても赤ん坊みたいになることはない。一般常識や学校で習った知識が無くなることはない。

羽川 ……。なんで、俺の記憶はなくなるんだ。

??? それは私でもわからない。なぜか、記憶の玉が割れるんだよ。

羽川 記憶の玉?


??? そう。人の記憶は、この記憶の部屋に保存される。それがあるから人の記憶はなくならない。でも、君の場合は違う。なぜか、何の理由もなく記憶が砕けるんだ。

羽川 じゃあ、俺が聞こえてたあの音って。

??? そう、記憶が割れる音だ。だから、君の記憶はなくなっていく。記憶が一気になくなりすぎて、さっきは気絶しちゃったみたいだけど。目が覚めたら、大部分の記憶がなくなっていると思うよ。

羽川 …どうしようもねえのか。

??? どうしようもないんだ。

羽川 ……。

??? 残念ながら、これが運命なんだよ。

羽川 ………畜生。

            暗転
       明転

            病室

        霧島・羽川がいる。

         羽川 起きる

羽川 ……?

霧島 目が覚めたかい?

羽川 え.....?

霧島 話は聞いたよ。厄介なものを抱えてるね。

羽川 ……あなた、誰ですか?

霧島 もう僕もおぼえてないか……。僕は霧島 憂だよ。よろしく。

羽川 はぁ……。

霧島 君、もうほとんど記憶がないんだろう?

羽川 ええ……。

霧島 そうか.......。もうすぐ君の友達が来てくれるはずだよ。

羽川 友達......。

霧島 だから、忘れないうちに伝えたいこと、伝えておいたらどうだい?

羽川 ……機会があれば……そうします。

霧島 (ため息)機会があれば……ね。君はさ、もう忘れてるかもしれないけど、いままでも、そうして物事から逃げてきたんじゃないのかい?

羽川 ……。

霧島 何かができないことをチャンスがなかったせいにしてたんじゃない?だとしたら、それは間違ってるよ。そうやって、チャンスを願ってばかりの人間は、いざチャンスが巡ってきても、結局逃げてしまう。

羽川 俺が……そうだとでも?

霧島 そうかもしれないね。(立ち去ろうとする)……いい、チャンスは、目標に辿り着く為の道具でしかないんだ。辿り着くのは、結局は自分の力でなんだよ。

              霧島 はける。

羽川 チャンスは、道具でしかない……。……なんだよあの人…あの人に俺のなにがわかるってんだよ。俺は全部忘れてくんだぞ。治す方法も何もない。チャンスなんてどこにもないんだよ!チャンスがあるなら、俺だってがんばるさ。(蹲る)何だってするさ……。

              空峰 登場

空峰 大翔!

羽川 陽菜……。

空峰 よかった。まだ私のこと忘れてなかった。

羽川 忘れてねえよ。お前のことは、何も。

空峰 さっき連絡したから、もうすぐしたら、みんな来るよ。みんな大翔のこと心配してたんだよ。

羽川 みんな……みんなか(嘲笑)……。

空峰 大翔?

羽川 なあ……陽菜……。これからここに来るみんなの中で、俺はそのうち何人覚えてるんだ?

空峰 え?

羽川 忘れてるやつのほうが多い中で、覚えてるやつにはなんて言えばいいんだ?覚えてないやつには、どんな顔して会えばいいんだよ……。

空峰 ……。

           照明 だんだん薄暗くなる。

羽川 もう、ほっといてくれ(空峰から離れる)もう、誰とも会いたくない。全部忘れるまで、放っておいてくれ……。

空峰 大翔!大翔!

            場転 心の底

            空峰 はける

           羽川 蹲っている。

            ??? 登場

??? こんなところで、なにしてるの?

羽川 うるさい。お前もどっかいけよ。

??? うちは君なんだ。どこにもいけないよ。

羽川 なんで、俺がこんな目にあわなきゃいけない。なんでだよ。

??? どうしようもないことだよ。

羽川 どうしようもない?そんな言葉で納得できるかよ……。

??? 死ぬわけじゃないだろう。こんなところに引きこもって、せっかくの友達の意向を無駄にするの?

羽川 俺は、その友達を忘れるんだぞ!……ここでこうしてたほうがまだましだよ……。

??? あきれた。せっかくの残された時間をこんなところに閉じこもって使うなんてね。無駄なことしてくれるよ。俺はもういくよ。

           ??? はける。

羽川 もういいんだ。どうしようもないんなら、このまま誰ともかかわらずに、ぜん――

         「翼をください」の前奏が流れる。

羽川 ?曲... ?

空峰独奏。

空峰 いま、私の 願い事が 叶うならば 翼がほしい

   この背中に 鳥のように 白い翼 つけてください 

   この大空に 翼を広げ 飛んで行きたいよ 悲しみのない 自由な空へ 

翼 はためかせ 行きたい。


          伴奏だけ流れる。

江戸川 バッキャロー!

           江戸川 スポット。

江戸川 あんた、ホントにそれでいいのか!最後なら最後で言うこといっぱいあるだろ!落ちこんでんじゃねえよ!戻って来い!

          烏丸 スポット

烏丸 羽川君。君はいつも調子に乗って、舞い上がりすぎていつも失敗してるよね。でも、そんなことで懲りるきみじゃないだろう?戻ってきな。

           白鳥 スポット

白鳥 羽川。お前とは小学校のころからの付き合いだけどさ……なんていうか、ありきたりな言葉だけど、いろいろあったよな。忘れるのはキッツいけどさ……。まあ、それでも、ポジティブに行こうぜ?な?戻ってこい。

          小鳥遊 スポット

小鳥遊 おい、羽川。お前、俺がどうしようもないことで落ち込んでたら、俺になんて言うって言ったか覚えてるか?どうしようもない話なら、どうしようもないなりに受け入れるしかねえんだろ。そんなことにウジウジしてるなんて、お前らしくねえぞ。前向けこのやろう。……戻って来いよ。

          空峰 スポット

空峰 ねえ、大翔。私の歌、聞こえたよね。私の声。ちゃんと届いたでしょ?みんな、大翔に忘れられたって、また、新しい思い出一緒に作ればいいって思ってるんだよ。少し未来(さき)には全部忘れちゃうかもしれないけど、その未来(さき)でまた作り直そう?戻ってきて。

             羽川 ゆっくり立ち上がる。

            照明 元に戻る。

羽川 みんな……ごめん。それに、ありがとう。

白鳥 世話かけさせんな。

江戸川 ホントよ。

小鳥遊 こういうときはお互い様だろ。

羽川 陽菜……。

空峰 言ったでしょう?歌には不思議な力があるって。

羽川 ああ。そうだな。ありがとう。

          「翼をください」前奏流れる

空峰 病院でうるさくしちゃいけないんだけどねもう一回だけ。

         照明 変わる。

空峰 いま 私の 願い事が 叶うならば 翼がほしい

   この背中に 鳥のように 白い翼 つけてください

   この大空に 翼を広げ 飛んで行きたい 悲しみのない自由な空へ 

翼はためかせ  行きたい。

全員   子供のとき 夢見たこと 今も同じ 夢に見ている
    
       この大空に 翼を広げ 飛んで行きたいよ 


       悲しみのない 自由な空に 翼はためかせ

  
 この大空に 翼をひろげ 飛んで行きたいよ 


        悲しみのない 自由な 空へ 翼はためかせ


       この大空に   翼を広げ 飛んで行きたいよ

            暗転



空峰      悲しみのない   自由な空へ      翼はためかせ 





               行きたい



 

              明転

               数日後

          中央に全てを忘れたはずの羽川

          羽川 荷物の整理をしている。

         おもむろに「翼をください」の鼻歌を歌い始める。

               暗転


             
                              終幕
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あとがき

作者 汐

大会用台本二作目です。

前作の「to be continued」を書き上げて、それが秋大会の台本になるはずでしたが、あまり出来が納得いかなかったので、急遽一週間で書き上げた作品です。

 

 制作期間一週間とはいえ、要所要所に意味を込めた作品です。考察しがいがあると思います。

 

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